3.生徒会長として。







「あぁ、ここが……?」



 麗華は病室にて目を覚ます。

 短く、納得したようにそう声を漏らした。自身の状況は律人から聞いている。どうやら彼の言葉に嘘はなく、信頼できるものであるようだった。

 すでに深夜に片足を突っ込むんでいる時間帯。

 学生の見舞いは一人もいなかったが、どうやら大人の姿はあるらしい。その中でも看護師たちは驚き、大急ぎで医師を呼びに行ってしまった。


 病室に取り残された麗華は、ただ無意味に真っ白な天井を見上げる。

 そうしていると、医師より先に招かれたのは――。



「目が覚めたようだな」

「はい……」



 筋骨隆々とした身体に、厳しい顔立ちをした男性。

 和服に袖を通したその人物は、半身を起こした麗華に向かって訊ねた。



「……学生の本分は滞りなく進められるか」



 学生の本分――すなわち、勉学のことだろう。

 淡々とした声色で、ただ事実を確認する相手に対して麗華は答えた。



「はい、問題ありません……お父さん」――と。



 父と呼ばれた男性は、短く「そうか、ならいい」と頷く。

 二人の間に、それ以上の会話はなかった。むしろその後に病室へやってきた医師との方が、小気味よく弾んでいるように思われる。もっとも、よくよく耳を傾ければ事務的な確認事項に終始しているわけだが。

 その合間に麗華は、看護師に自身の荷物はどこかと訊ねた。



「あぁ、スマホならあるよ」

「ありがとうございます」



 愛想の良い男性看護師に対し、しかし彼女は笑うこともない。

 ただ淡々と自身のスマホを確認するが、そこに同級生や生徒会役員からの連絡はなかった。当然のことながら、律人や海晴のものもない。そもそも彼女は、二人の連絡先を知らないのだ。



「あぁ、目が覚めたんですね。有栖さん」

「……はい、先生。ご心配をお掛けしました」



 そんなスマホを無表情で見つめる麗華に、声をかけたのは学校の教員。

 まだ年若いその女性教師は安堵した表情を浮かべるが、麗華は依然として顔色一つ変えていなかった。平坦な口調で謝罪を口にし、静かに頭を下げる。

 教師はそれを止めたが、少女は変わらぬ様子でこう訊ねるのだった。



「ところで、私が不在の間……生徒会の業務などは、どのように?」




 好ましくない表現だが、機械のように彼女は振る舞い続ける。

 感情もなく、願いも希望もなく、ただ与えられた役割をこなすようにして。女性教師はさすがに困惑するが、やがて観念した様子で話し始めた。


 麗華はそれに黙って耳を傾けている。

 そこには、苦しみはないように思われた。だが、



「…………あぁ、そう」



 誰にも気付かれない大きさで、麗華はそう呟いて。

 静かに、ベッドのシーツを握るのだった。



 

――

面白かった

続きが気になる

更新頑張れ!


もし少しでもそう思っていただけましたら作品フォロー、★評価など。

創作の励みとなります。


応援よろしくお願いいたします!

(ここでオープニング〆にするべきだったかも……?w)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る