第3話
続いて明田山探偵たちは、一階の食堂へ。そこに事件の関係者たちが集められていた。
縦長のテーブルに着いているのは三人で、三十歳くらいの男女二人と、それより一回り年上の女性が一人。親しい間柄ではないようで、三人とも微妙に離れて座っていた。
テーブルの前に立つ奈土力警部を見て、三人は「警察の偉い人が来た」とでも思ったかもしれない。奈土力警部の後ろにいる明田山探偵にも目をやり、その風貌を訝しむ気持ちがあったとしても、口に出す者はいなかった。
「志賀光蔵さんが亡くなっているのを、最初に発見したのは私です」
と言い出したのは、三人の中で一番年上の女性。
志賀光蔵はその出版社から小説を出しており、それが犯行現場に残されていた本『明日あなたが会いたいと』だ。
さらに別の小説を出版する予定もあり、どちらも羽美の担当。今日は新作の打ち合わせのため、志賀光蔵を訪ねてきたのだという。
「小説家は『先生』と呼ばれるものだと思っていましたが……。実際には『さん』付けなのですね」
明田山探偵が小さく呟くと、奈土力警部が顔をしかめながら、少し振り向いた。
「明田山くん、そういう茶々を入れるのは、後にしてくれないかね? 今は死体発見の話を……」
「叔父は小説家なんかじゃないですよ。働かなくても食べていけるくらい、うちには金がありますからね。いや、むしろ……」
二人の会話に呼応するようにして、羽美の右側に座っていた男が口を開く。彼の名前は
明田山探偵の独り言だけならばスルーされたかもしれないのに、奈土力警部の一言がきっかけとなり、維偉斗も話に加わってきた感じだ。
「……小説なんて書いたって、それで『食べていける』なんてありえない。叔父の小説なんて、誰も読みませんから」
ちらりと羽美に視線を送る維偉斗。その目には、敵意や嫌悪のような、明らかにネガティブな感情が込められていた。
「どういう意味です? 小説を書いて出版していたのでしょう?」
「我が社は、自費出版や共同出版を扱う会社でして……」
維偉斗が何か言うより早く、羽美が答えるが、それでは明田山探偵の疑問は解消されない。むしろ大きくなるくらいだった。
「共同出版……?」
「言い方を変えても、自費出版と同じですよ」
聞き返す明田山探偵と、呆れたような声を出す維偉斗。
そんな二人に対して、わずかに苦笑いも浮かべながら、羽美が説明する。
「いえいえ、同じではありません。共同出版というのは……」
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