第6話 変幻機装
ユーリ・クロイスの持つ
既存の
万能型の究極系ともいえる
「ハァハァハァ……」
大きく息を荒らげユーリの額に滝のような汗が滴る。
度重なる
アリカは未だ息一つ乱しておらず、否応無く実力差を実感してしまう。もしもこれが実戦であれば、初撃でユーリは殺されていた。
全開状態のアリカならば、
「どうやらその
アリカもユーリの異常なまでの疲労度から
「万能型、か。剣一本で戦ってきた私には思いもつかない戦法……。そしてどれだけ斬撃を叩き込んでも壊れない強固な盾。ユーリ・クロイス、それにダニエル・ゴーン、思った以上にやる――でもね」
そう言うと同時に、アリカは再び地を蹴り駆け出した。
「ッ、ダニエル!!」
何か背筋に悪寒のようなものが走りユーリはバディの名を叫ぶ。未だデュアルヘヴィガードナーを構えるダニエル・ゴーンとアリカ・リーズシュタットの距離は僅か半歩まで迫っていた。
「シッ!」
すでに防戦態勢に入っているダニエルなどお構いなしにアリカから鋭い脚撃が放たれた。
「ぐっ!!」
次の瞬間、まるで戦車と戦車が激突したかのような轟音が轟き、ダニエルの身体が紙くず同然に吹き飛ばされる。それも――彼の持つ
ダニエルの身体はそのまま壁へと叩きつけられ、彼は苦悶の声を上げながら、床に膝をつく。衝撃から解放されておらず、立つこともままならない様子。
「私の方が、強い!!」
加えて、吹き飛ばされた際に
彼の首にかける首飾りを破壊するための絶好の機会を逃す手はないと、アリカはすかさず距離を詰める。
「させるか!」
ユーリはすかさず
アリカの進行方向へ放った魔力で編まれた弾丸は真っ直ぐ軌道に沿っていくが。
「――僕を忘れてもらっては困るなユーリ!!」
そう、相手はアリカ・リーズシュタットだけではない。今回のアリカと同じチームのオリヴァー・カイエスが満を持して参戦する。
彼が手に持つ奇怪な
ユーリは警戒レベルを一気に引き上げ、魔力を惜しまず、魔弾を連射していく。すると――
「ふんっ、僕の
オリヴァーが演奏会の指揮者のように軽やかに腕を振り上げると同時に、
「これは!?」
鞭のように靭やかに、蛇のように柔軟に、縦横無尽に空間を駆け回り、ユーリが放った魔弾を全て叩き落としていく。
「くっ、見た目じゃ分からない奇天烈な
「どんな形にでもなれる
オリヴァー・カイエスの言うことは尤もで、自身のことを棚に上げるユーリの非難はお門違いも甚だしい。
「くそっ」
焦るユーリは、照準をアリカへ集中するのを止め、出鱈目に銃を乱射していく。
「ははははは! 無駄な抵抗はよすんだ。それよりどうだい? この美しき咲き乱れる
「ちっ、誰が!」
ユーリの魔弾が悉く弾かれる。どうやらオリヴァーの
アリカ・リーズシュタットだけでなく、オリヴァー・カイエスの実力も並の統合軍兵士を凌駕している。感じる魔力量も膨大で、彼の努力の成果が見受けられる。
「アリカも、オリヴァーも、ダニエルも、皆俺より遥かに強い……」
この中で、疲労困憊なのはユーリだけ。トリガーを引く度に視界が霞んでいく。正直今すぐにでもベッドに潜り、泥のように眠りたい気分だ。
「別に死ぬわけじゃないし、降参してもいいかな……なんて、思う自分が情けなくて仕方ない」
何事も妥協してしまう、諦めてしまうから、ユーリはいつも大事なものを取り零す。
「母さんは俺に甘すぎるんだよ……。成績が悪くても、怒らないし、挙げ句の果てには、無理しなくていい、頑張らなくていいとか言うし。
親なら普通怒るだろ……、そんなんだから俺は
ユーリの脳裏に浮かぶ、一人の幼馴染の少女の姿。今彼女はどこで何をしているのだろう? 何も告げずに、戦場へ来てしまったことが心残りで――
「無駄だよユーリ!!」
いくら銃口を向け魔力弾を放っても軒並み
だがユーリは諦めず、執拗に
錯覚かもしれないけれど、構わない。今はとにかくオリヴァーに
「悪いな、オリヴァー。俺はこんなところで負けるわけにはいかないんだよ。
喧嘩中の母さんに謝って、相談に乗ってくれたグレンファルト様にきちんとお礼を言って、皆に――
「くっ、何か考えがあるのかもしれないけど、僕の
ユーリの気迫に圧されたオリヴァーが高らかに告げた瞬間だった。
「――さっきから鬱陶しい、邪魔!!」
何とオリヴァーの味方であるはずのアリカ・リーズシュタットが
「…………は?」
これにはさすがのオリヴァーも瞠目し言葉を無くす。
ユーリの魔弾は難なく防げたが、アリカ・リーズシュタットの持つ
それは分かったと悔しそうに納得したオリヴァーだが。
「ってなんてことしてくれるんだ下民が!!」
今は味方であるはずのアリカから攻撃を受けるとはつゆ程にも考えていなかったオリヴァーは動揺を圧し殺せず声を荒げる。
「それはこっちのセリフ。さっきから人の前でチョロチョロチョロチョロ……。ダニエル・ゴーンに近づけないでしょうが!」
「貴様をユーリの攻撃からフォローしてやってたんじゃないか!!」
「あれくらい一人でどうとでもなる。フォローはいらないし、アンタは的が破壊されないよう逃げてるだけでいいのよ! とにかく私の邪魔だけはしないで」
「何だと!!」
粗雑なアリカの物言いに、怒りで顔を歪ませたオリヴァーだったが、ユーリはそんな二人に構うことなく、この時を待っていた! といわんばかりに二人の隙を見逃さず、
「おいお前ら、喧嘩してる暇あるのか? 隙だらけだぞ」
「「!?」」
ユーリの放った銃撃に咄嗟に反応し避ける二人。完全に虚を付かれつつも、躱すことに成功したオリヴァーとアリカだが僅かに体勢を崩す。
そして、ニヤリとユーリは笑みを浮かべ。
「曲がれ」
そう呟いた瞬間、ユーリの放った魔弾が、ギュンッと急転換し、あらぬ方向へと軌道を変える。
「何!?」「!?」
発射された銃弾は、直線上にしか走らないという原初より刷り込まれた二人の常識が崩される。
それは動揺につながり、オリヴァーとアリカの思考が空白に染まる。
その刹那の間を駆け抜け、軌道を変えたユーリの魔弾がオリヴァー・カイエスとアリカ・リーズシュタットの身体へと命中する。
「ぐっ、また小細工を! ユーリ・クロイスッ」
やられた。まんまとしてやられたとアリカ・リーズシュタットは憤怒を込めた声を上げオリヴァーの首飾りの無事を確かめる。
「く……」
大きく身体が吹き飛ばされたオリヴァーだが何とか首飾りだけは守ったようで、その様子にアリカは安堵する。
落ち着け、まだ負けたわけじゃない。二度も虚を突かれたが実力差は変わらないとアリカは冷静さを取り戻す。
だが――
「あとは頼んだ、ダニエル」
「オーケイだ。この時を待ってたぜ、相棒」
今この瞬間も、ダニエルはアリカが放った脚撃による衝撃の影響で動けずにいる。だというのに、勝ったといわんばかりに笑みを浮かべているのはどういうことなのか?
「…………え?」
アリカは何が起きたのか理解できず呆ける。
そしてあらぬ方向へと吹き飛んだ筈のダニエルの
「オラァッ、止めだオリヴァー! ちぃっと痛いかもしんねぇが、我慢してくれよっと!!」
そう告げると同時に、ダニエルは己の
ブーメランのようにグルグルと高速で回転し、軌道に乗る
「嘘でしょ!? 間に合わない!!」
アリカは斬撃波で叩き斬ろうとするも、放つには振り抜かねばならず、到達までコンマ数秒時間が足りないと焦りを滲ませる。
「ぐあっ!!」
彼の身体は大きく吹き飛ばされ、首飾りの的は驚くほど呆気なく破壊された。
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