第5話 魔術武装
「「
これら魔法科学により開発された代物は、全て魔力を通しさえすれば誰でも簡単に扱えるという特徴がある。その気になれば赤子でも扱うことができ、鍛錬次第では魔法すら超える力を発揮することも可能だ。
近年ではさらに技術が発展し、より効率的に運用すべく
アリカ・リーズシュタットの扱う
現代においてわざわざ重量のある武器を所持しておくなど非効率極まる。動きが制限され、肝心な時に命を落とす危険性が高まる。
では平時はどこに
未だ発展途上の技術故に、様々な制約と問題が残っているが、今この状況においては関係ない。オリヴァー、ダニエルの二名は、自身の
「
「
オリヴァー・カイエスとダニエル・ゴーンの声が重なり響く。
同時に彼らの手に形成される
「何だ貴様、その……巨大な盾は!?」
オリヴァーは不審げに眉をひそめる。身長百九十センチもあるダニエル・ゴーンの姿を覆い隠す程の大きさの強固な盾。
頑強な見た目の強固な盾が見た目通りの防御力を誇っているのなら、ダニエルの首飾りを破壊するのは至難の業といえる。
「
そしてユーリ・クロイスも内から湧き出る恐怖を押し殺し
アリカは刀、オリヴァーは一輪の薔薇、ダニエルは盾。次に現れる
一般的に軍に普及している
様々な思考が入り乱れながらもユーリの展開した
「何も……ない?」
そう、ユーリ・クロイスは先刻と変わらず手ぶらのまま。見た目だけでは何の変化もしておらず本当に
「
だがユーリ・クロイスは準備が終わったといわんばかりに臨戦態勢へと入る。
その真剣な表情からアリカ・リーズシュタットとオリヴァー・カイエスは彼が巫山戯ているわけではないと悟り、目に映らぬ
互いに武器を取ったならば、言葉は不要。後は戦うのみ。
ユーリに背に僅かな緊張が走る。張り詰めた空気の中最初に動き出したのはアリカだった。
彼女の右手に握られた
その刀を上段に構えると一切の躊躇いなく振り抜く。すると空間ごと切り裂くような鋭い斬撃波が放たれ、真っ直ぐユーリの元へと向かっていく。
「疾いッ!?」
刀だから間合いさえ取れば安全だと油断していたユーリは突如として放たれた斬撃波に反応が遅れてしまう。
躱せない、とユーリは思った。非殺傷というルール故に命中しても死ぬことはないが、当たれば痛いし気絶は免れない。
「オラァァァッ!!」
しかしそんな現実は起こらなかった。ユーリとタッグを組んでいるダニエル・ゴーンが恐るべき反応速度で前に出て軽々と巨大な
「ふっ」
アリカは間髪入れず連続で斬撃波を叩き込む。だがダニエルの
「あ、ありがとうダニエル。助かった」
「謝らんでいい。今の一撃は、実戦を経験してるベテラン兵士でもそうそう反応できねぇだろうよ。とても新兵の動きとは思えねぇ……アイツ、姉御に匹敵するくらいやべぇぞ」
姉御というのが誰を指すのか分からなかったが、ダニエルの入れるフォローはユーリにとって気休めにすらならない。何故なら同じ新兵である彼は反応し防ぐことができているから。
本来守るべきダニエルの足を引っ張っている現状に悔しさが募る。
「何とか打開する方法考えねぇと、このままじゃ防戦一方だぜ!」
ダニエルの言う通り、アリカが繰り出す怒涛の剣戟は止むことなく、むしろ徐々に
均衡が崩れるのは時間の問題。この現状を打破できるのはユーリしかいない。
「ダニエル、まずはアリカの動きを止める。その隙をついてお前がオリヴァーの首飾りを破壊しろ」
「やれんのか?」
「あぁ。正直無茶苦茶怖いけどやってやる! いいか、俺の
そう言うと同時、ユーリは姿を晒し駆け出した。
「ッ」
アリカ・リーズシュタットはまさかこの状況でユーリが飛び出してくるとは思わず、僅かに瞠目する。
このままダニエルを攻撃し続けて厄介な
「
「うおっ!?」
アリカの一太刀がユーリを襲う。初撃を含めた先ほどまでのアリカの攻撃は全てリーズシュタット流剣術――緋紅剣・一閃という技によるものだ。
理屈は単純で振り払った斬撃そのものを飛ばすというもの。その速度はまさに閃光の如く速く、並大抵の
今、再び目にも止まらぬ速さで振り下ろされた一閃。その斬撃を躱す術などユーリにはない。
「
「何!?」
だがアリカの予想に反してユーリはその斬撃を真っ向から受け止めた。いや、正確には受け止めることなどできなかった。気絶こそ免れたものの衝撃の余波で後方へと吹き飛ばされたのだ。
「無傷……」
現状アリカが優勢のままだが結果は不服だった。
今の一撃で意識を刈り取るつもりであったが、ユーリ・クロイスは華麗な受け身を取り、未だ無傷だった。
それもこれも突如としてユーリの手に顕現した機械仕掛けの剣。
これがユーリの
怪訝な表情を浮かべる彼女の表情は次の瞬間に驚愕へと変わった。
「
刹那――先ほどまで剣の形を成していた魔術武装が微粒子と化し、ユーリの手の中で別の形へと変貌していく。
現れたのは手榴弾。一見して何の特徴も無い小さな球体だが、その効果は折り紙付きだ。
アリカの前で目映く弾けた閃光は瞬く間に広がり視界を埋め尽くす。思わず手で目を覆った直後、爆発音が鼓膜を揺らした。
(何が起こった!?)
咄嗟に背後へと跳躍し距離を取る。何が起きたか分からず困惑している中、彼女の身体を怒涛の衝撃が伝う。
「ガハッ」
先ほどとは打って変わり今度はアリカの身体が後方へ吹き飛ばされる。
困惑がアリカを襲う中、唯一分かったのはユーリ・クロイスの攻撃を受けたということ。
彼の
「
ようやくアリカの視界の開け、瞳に映るのはユーリの手には見慣れぬ機械仕掛けの拳銃。
それを見てようやくアリカはユーリの
「無形……形のない
命中した腹部を手で払うアリカの皮肉めいた言にユーリは。
「だろ?」
と自嘲気味に肩を竦め答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます