第13話 視線の先【side鳴沢】
親父に話を聞いて、俺ははっきりと思い出した。
「もしかして、俺のせいで……?」
俺が、シャイニングマンの決め台詞を言わなければ……。
事情を知らなかったとはいえ、後悔の念が押し寄せる。
「不審者のことも
「俺……香西に謝りたい……」
「それはダメだ。逆にヒロ君を意識しているということになる」
「そうね……。それに、あのことは本人もトラウマになっているみたいで、思い出すだけでも発作が出るそうよ」
「手紙でもダメなのか?」
「ヒロ君が直接読むのは、医者として止めなければならない。どうしてもというのであれば、 あの時ヒロ君と一緒にいた女の子がいただろう。その子から間接的に伝えてもらうしかない。しかし、それも内容による」
あの時一緒にいた女の子って、ツインテールの……。
もしかして、落合さんか!?
思い返せば、なんとなく面影がある。
「ありがとう。親父、母さん。 俺、やってみるよ」
俺は、自室に戻って制服のまま手紙を書き始めた。
着替える時間も惜しいほど、すぐ書かずにはいられなかった。
香西の性別を意識しないように……だけどちゃんと謝罪の気持ちを込めて書こう。
それは意外にも難しく、できているかどうかわからない。
どうせ今日は学校を休んでしまったんだ、じっくり時間をかけて考えるとしよう。
*
翌日は朝早く学校へ行った。
書いた手紙をポケットに忍ばせて、落合さんが来るのを待っていたのだ。
「おっはよー」
落合さんは、今日も元気だ。
その斜め後ろで、香西も控えめに「おはよう」と言っている。
十年前の姿と重なり、心臓が跳ね上がった。
昨日、両親から話を聞いたせいで、妙に意識してしまう。
視界に入れないようにしたが、落合さんがこちらへ向かってきた。
な、なんだろう?
「あー、鳴沢くん。昨日、神楽さんが探してたよ。連絡も未読スルーだって。なんか、新聞部の記事の締切が迫ってるとかなんとか言ってたよ」
「そ、そうか……忘れてた、ありがとう……」
落合さんはそれだけ言うと、自分の席へ戻って行った。
しまった……新聞部のことをすっかり忘れていた。
スマートフォンを確認すると、たしかに神楽さんからのメッセージが何通か入っていた。
しかし、まさか向こうから話しかけてくるとは。
傍に香西がいると、落合さんだけを呼び出すのは難しいな……。
いや、まだチャンスはあるはずだ。根気よく行こう。
やがてチャイムが鳴り、みんなが着席し出す。
授業の内容は、俺にとっては復習のようなもので、先生が説明する言葉もほとんど上の空で聞いていた。
俺の席から斜め左へと視線を移すと、香西の席はよく見える。
香西が頬杖をつきながら黒板の方を見ると、その横顔も。
今まで、香西の頭の中身ばかり気にしていたせいか、外見をよく見ていなかったことに気づく。
そりゃあ、新聞部として一部の女子に聞いた時は「カッコいい」の言葉を、少しばかり聞いたことがある。
だが、その時は同性として「ふぅん、そういうものか」くらいにしか思っていなかった。
しかし、今見てみると……たしかに中性的な顔立ちだ。
身長も他の男子より少し低めだった気がする。
体つき……は、いや、ダメだろう。
なにを考えているんだ俺は、と頭を振った。
それよりも、手紙のことだ。
俺は、手紙を渡すべく一日中落合さんの動向を窺うことにした。
休み時間。
落合さんは廊下で他の女子生徒と楽しくおしゃべりをしている。
「……でさー!」
「えーっ、そうなのー?」
香西本人はいないが、他の人に香西のことを知られるわけにもいかないので、呼び出し辛い。
やはり、落合さん一人の時を狙わないと……。
昼休みは、学食にいた。
香西と瀬戸兄妹と一緒だ。
「いーなー! あたしも今度行きたーい!」
「おう、みんなで行こうぜー!」
喧騒の中、会話は弾んでいるようだ。
当然、この状態で落合さんだけを誘い出すなど、不審がられるだけだ。
放課後は、期末テストに向けて図書室で勉強していた。
「晶先生! ここ、ここがわかんない!」
「えーと、どれどれ?」
ここでも、香西と瀬戸が一緒だ。
俺は、そっと図書室を出た。
「落合さん、基本的にいつも誰かと一緒だな!!」
呼び出しの難易度が高すぎる。
手紙だから、靴箱に入れるという手もあるが、これは絶対に直接渡したい。
……これは、一筋縄ではいかなそうだ。
「あーっ! 見つけたわよ、鳴沢くん!」
運悪く、神楽さんと鉢合わせしてしまった。
「しまった! また忘れてた!」
「わ、忘れてたぁ!? 困るわよ、締切今週なのに! 今回で最後なんだから、いい記事にしましょ!」
「いい記事か……」
手紙を渡すまで、 気持ちが落ち着きそうになかった。
……そうだ! 神楽さんに協力してもらえば……!
「神楽さん! 折り入って頼みがある!」
「な、なにかな……?」
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