不遇職の【釣り師】ですが、餌はドラゴンの肉です。~追放されて釣りをするだけのスローライフを送っているはずの最弱男、実は最強でハードライフ中~

ある中管理職@会心威力【書籍化感謝】

第1話 最弱なんじゃないの?

「はぁ。いいか、もう一度だけ言うぞ。ここはお前みたいな雑魚が居ていい場所じゃない。奴が現れる前に逃げろ」


「お前はいいやつだな。……だが、心配する必要はない」


「心配は必要ないって……お前なあ!! この俺が折角こう言ってやってるってのに!!」


「リーダー、もう相手しないほうがいいっすよ。時間の無駄ですって。それに『ドラゴン種』は強者を好んで狙うらしいじゃないですか。だから奴が現れたところでこんな雑魚のことなんか無視しますよ」


「……それも、そうか。よし、全員この湖の端まで急いで移動するぞ。そこで奴、この湖の主を討つ」



 ゴールドランクの冒険者パーティーによるドラゴン種、『シーサーペント』の討伐。


 そのおこぼれにありつこうと思ってこの湖までこっそり追いかけてみれば……明らかにパーティーメンバーじゃないあの男、ブロンズ冒険者のプレートをさげてるわよね?


 しかもモンスターと戦う様子もなく折り畳みの椅子になんか腰掛けてのんびりと……。


 最近はドラゴン種の目撃が増えて一般人がちょっとお出かけする時ですら多少なり緊張感を持ってるのに……。やけに暢気すぎやしないかしら?



 ――あ、ゴールドの奴らは行ったみたいね。



「……。ま、私もそこまで悪人ってわけじゃないし、ああいう高ランクの集団ってなぁんかいけ好かないのは分かるし……。まぁ私にとって媚びを売るって大事な仕事だし……。助け船くらいだしてあげようかしら」



 湖から少し離れた所にある岩、そこで隠れながらまずは今ここに到着しました見たいな顔を作る。


 それで準備万端になったらいつもみたいに上品に華やかに堂々と、ブロンズ級冒険者に近づく。


 だって私はバレちゃいけないんだもの、自分が嫌われ者の職業『盗賊』だって。


 さ、誰にでもエレガントに、優雅にいくわよ!



「すぅぅ、はぁぁぁ。……あら? こんなところでどうしてブロンズ級冒険者がいるのかしら?」


「!? お前は……。……。……。いや、なんでもない。釣り、のためだ」


「つ、釣り? こんなところで?」



 変な反応。ぶっきら棒で愛想無し。それに、釣り?


 こ、こいつもしかして……。


 いやいや、だとしたらなんでこんなところにいるのよ? 



「えっとぉ、その、人違いだったら申し訳ないんだけど、あなたの名前、『アルク』であってたりするかしら?」


「……。その通りだが……なんだ、お前もわざわざ注意してくれるのか? 」



 さっき遠目で見た時、なんか喧嘩してるなぁって思ってはいたけど……。


 なるほど、そういうことね。


 噂通りの態度の悪さだわ。


 でも残念。私はこんなことでキャラを崩したりはしないの。



「同じギルドに所属している冒険者ですもの、その身を案じるのは普通よ。しかもここに現れるのは『シーサーペント』。ブロンズ級冒険者、あなたのようなまだまだ伸び盛りなレベルの冒険者じゃ即死だって考えれ――」


「ならお前は危ないな。早く逃げた方がいい」


「は? ……わ、私は大丈夫よ。これでもプラチナ級冒険者ですもの」


「……そうか。なら勝手にすればいい」



 ……。……。……。……。え、なにそれ? なんでこいつの方が偉そうなのっ!!



 もう! まさかブロンズ級冒険者がギルドのお荷物、釣り馬鹿の『アルク』だって分かってたなら話し掛けなかったのに!


 万年ブロンズ級でモンスターの個人討伐報告数0、偏屈で誰とも絡まない変人。


 こんなのに媚び売ろうとしした私が馬鹿だったわ。


 ま、まぁでももう声掛けちゃったものね、アイテムだけ渡してとっととここを離れましょう。



「えーっと……。さっきも似たようなこと言ったけど、私仲間の冒険者が目の前で死なれると悲しいの。だからこの移動速度上昇ポーション、これをここに置いて……ってこれは!?」



 とっくに私のことなんか気にしてない様子で釣りに夢中になっていたアルク。


 そんなアルクが地面に置いていた開けっ放しの大き目の道具箱、そこに移動速度上昇のポーションを入れようとしたのだけど……。



「『サラマンダーの肉片』……。こんなの、なんであんたが……。これ、高級すぎて貴族だって手が出せない代物じゃないの」


「……やっぱり、分かるのか」


「あ、その、まぁ私くらいの冒険者になればアイテムの鑑定スキルは持ち合わせていて当然――」


「『盗賊』は鑑定スキルが低レベルであっても備わっている、と。……新しい情報だが、大して利用価値はないな」



 ……。……。……。




「あ、あなた、なんで私の職業がわかったのよおおおおっ!!!!!!!! わ、私は自分のステータスを見られないように秘匿効果付与のスクロールを使ってるのよ! 看破できるのなんてギルドマスタ―、いえそれ以上の存在で、レベル差は100以上でないと無理なのに!」




 バレた。最悪。最悪最悪最悪最悪。こんな奴に、誰にも知られたくなかったのに。


 ……。もう、殺すしか……。


 幸い、こいつが持ってるのは釣り竿だけ。釣りを止める素振りもない。


 次に話始めた瞬間、意識が会話に映った瞬間に喉を切り裂く。



「それは――」




「があ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」




「え? なに? もしかしてあれが、シーサーペント? それにしては……」


「でかいな。……。なるほど、『リヴァイアサン』か。あいつらにはちょっとだけ強い相手だ」


「リ、リヴァイアサン!? それ、ダイヤ級のモンスターじゃない! ドラゴンの中でも上位に食い込めるモンスターよ!? ってあれ、こっちに近づいてるじゃない!! ゴールド級冒険者たちは……逃げてるしっ!!!」


「釣り場が荒らされたんじゃ魚が逃げる。それに、釣り餌のストックを増やしたいと思っていたところ。……やるか」


「え? あんたまさか戦うつもりじゃないでしょうね?」



 椅子から腰を上げて釣竿を両手で握るブロンズ級。


 猛スピードで近づいてくるリヴァイアサン。


 まじで戦うつもり? ねえ、馬鹿なの? こいつ。



「に、逃げるわよ! ほら! この荷物は私が持つから――」


「ふんっ」





 ――ばしゃぁぁぁああああぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁああぁんっ!!!!!!!!





 釣り糸の先にあった錘、それが高速で払われ一本の線、いいえ、閃光になって私たちの目の前を横切った。


 瞬間、リヴァイアサンの頭は首から離れて勢いよく湖に落ちた。


 そうして溢れ出たリヴァイアサンの血によって湖は次第に赤く染まっていく。



 うん。なに、これ?



「わ、私、夢でも見てるのかしら?」


「いかん。殺した場所が悪かった。……。だが、これはこれでいい撒き餌になるか。ただ、今ので付けていた餌まで散った。おい、道具箱の中から餌をとってくれ」


「は、はい。……。っじゃなくて! なんであんたはそんなに冷静なのよ! 一体何者? ……。というか、当たり前に指示するなあっ!!!」

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