水中花火

永井駿

水中花火


月を望む角度で呷るCoca-Cola,青春のはじまりとおわりの


紫陽花の群生あるいは社会人あちらこちらに頭を垂れて


服装はグラデーションに変わるのに。はい、ここからは夏、と季節は


約束は果たせないほど硬くなる超高圧の胸の深みに


飼い犬がさんざん泣いたおさなごの足元にある虹を咥える


待ち合わせ時間を過ぎてしばらくのぼくに流れているロスタイム


煙草火の予感のような明滅が他人の口に 南風に吹かれて


盗まれる傘はわりあい透明でぼくはいまだに半端なグレー


たましいを隠したはずの西瓜たち弾けてしまう遠い浜辺に


立葵どうしてそんな無理をして背筋をぴんと伸ばしているの


クリニック・モールの孕む廃墟への数十年よ 七月開院


親友の字面としてのおかしさにグラスを鳴らす軽々と鳴る


墨汁の変わりにつけるアルコール舌から先に衰えるから


人気者だったあいつの死のことも並べて話す同じ硬度で


ぼくにまだ健在の父母が居て未来にくゆる線香のにおい


思い出して口に隠した 似合わない服は着るなと言われたことは


ぼくたちは減っても減っても整数で引き受けているさみしい小数


客引きを躱した帰路のランダム・ウォーク太い鼠にときどき出会う


嘘つきと思ったことがあるだろう水中花火、その咲き方を


太陽よしずかに昇れ早熟のピアスホールの蓋の代わりに

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水中花火 永井駿 @longmemo_tanka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画