カブトムシとタイトラ

京極 道真  

第1話 カブトムシ見っけ

気づくと制服は半袖の夏服に変わった。

魔夏の魔の太陽にはまだ早い。

今は単なる初夏だ。

半袖の腕がスース―する。

今日は肌寒い。

『電車のエアコン、ききすぎだ。

今日は雨の日なんだぞ。少しは調整しろよ。』心の中で電車の運転手にぐちる。

高1の僕は7:38いつもの電車に乗っている。

たった3駅の乗車だが朝の電車内は、毎日空気感がコロコロ変わる。雨のせいか今日は特にざわついている。何人かは、だいたい同じ顔触れだ。別に興味はないが覚えてしまう。

皮肉なことに僕の乗る駅には、女子高が3校もある。にぎやかな駅の改札口を背に僕はいつもの電車に乗った。

もうすぐ期末テストだからとストレスがたまっているわけではない。

ただ・・・なんとなく今日は心がざわついている。

いつも通り押されて奥へ、吊り革へつかまる。

同じ学校の生徒も何人かいる。

1年生らしき生徒達は入口の近くに固まっている。

見たくない、座っている大人達の頭のてっぺんが目にはいる。

『はーあ』っと心の中でため息。

やっぱり僕は疲れているらしい。

そう言えば毎年この時期には心がざわめく。

魔夏のあの地獄のよう暑さの前の、ほんのひとときの緑と雨の季節。

何かが起こりそうで。

「キーッ、ガッタン」電車が急ブレーキ。

「前の電車が駅で止まってます。しばらく、お待ちください。」

車内アナウンスだ。

僕は携帯を見た7:47。まだ大丈夫だ。遅刻はしない。

静まりかえる電車のなか、小さな声が聞こえてきた。

声の方に目をやると「えっ?」カブトムシ?

網棚の上にカブトムシがいる。誰かとしゃべっている。

誰だ?影としゃべっている。

僕は耳を澄ます。

混み合う電車ない。携帯の端末の音しか聞こえない。

もっと良く耳を澄ます。

「タイトラ」の声が聞こえる。

「タイトラ?」



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