その命を懸けて戦え。―花散るころのデスゲーム―

夕白颯汰

第一話

〈前書き〉

 こんにちは、こんばんは。夕白颯汰(ゆうしろ そうた)と申します。

 本作は、いつだったか私が閃いたことを基に、軽く構成を練って作り上げた物語です。

 そのため、今のところ一話しか書かないつもりです。

 あらすじや第一話を読んで「面白い!」「続きが読みたい!」と思った方や、なにか感じるものがあった方は、どうかコメントやブックマーク、「☆」や「♡」で教えてくださりますようお願いします。

 わずかでもそのような方がいらした場合は、この物語を書き進めていこうと思っています。

 それでは、「その命を懸けて戦え。―花散るころのデスゲーム―」をどうぞ。




               ◆ ◆ ◆




 ナイフが強く振り下ろされた。

 その軌道は、月明かりを跳ね返して不気味に光っていた。

 ナイフが深々と彼女の胸に刺さる。

 束縛から開放されたかのように、鮮血が溢れ出す。

 そして彼女は、ゆっくりと倒れ込んだ。

 

 頭上に浮かぶ緑色の『ゲージ』が、着実なスピードで減少していく。

 あと十秒。あと九秒。

 溢れ出る血が、辺りに広がりゆく。

 

 あと六秒。あと五秒。

 彼女はもう動かない。

 

 あと四秒。

 突き立てられたナイフはなおも輝き続け。

 バラのように、確かに咲いていた。

 

 あと三秒。あと二秒。あと一秒――。

 

 ゼロ。

 

 ゲージが消失したその瞬間、彼女の体から色が失われる。

 彼女だったものは灰へと還っていく。

 

 ――あぁ、彼女は死んでしまったんだ。


 ビュオオッッと、ひときわ強い風が吹いた。

 数秒後、そこには何も存在していなかった。

 

 彼女が生きていたことを示すものは、もう何一つなかった。

 

 

              ◆ ◆ ◆




 人間は問うた。


「老いて死にゆくのは自然の摂理か?」


 神は答えた。


「そうだ」


 ならばと、人間は再び問うた。


「他の手によって殺められ、その一生を終えるのもまた、自然の摂理か?」


 神は間髪を入れずに答えた。


「然り。殺し殺されるのもまた、自然の摂理である」


 それを聞いた男は、強く歯を食いしばってから、神という存在に向かって叫んだ。


「――神はこんな世界を望んでいるというのか!?」


 男の唇は、わなわなと震えている。

 それは心からの叫びに違いなかった。


「我々はもはや、共生など望めぬほどに分裂し、互いを敵として認識するようになった! 他を他として切り捨て、くだらぬことでいがみ合い、至るところで衝突を起こす! やがてそれは戦争へと発展し、刃を向け合う!! そんな世界を望んでいるのか!? 人間同士の殺し合いの果てに訪れる世界が、理想とでも言うのかッッ!?」


 この空間で、荒くなった呼吸と反響した言葉が交じる。

 神はしばらく黙っていたが、やがて小さく口を開いて――笑みをこぼした。


「フ……フフフッ……。フフフフッ、ハハッ! そうか、そういうことか理解したぞ人間ッッ!!!!」


 人間は、狂ったように笑う神を呆然と眺めていた。

 神は愉快極まりないといった表情で、言葉を続けた。


「なるほど、なるほどなるほどなるほどッ! つまり貴様らは――死を恐れているのだな!? そうだろう!! 悲しいかな、人間など弱く脆いガラスのようなものだからなッッ!!」


 その目はとうに焦点を失っていが、狂喜を秘めて爛々と輝いていた。


「さすれば、さすれば! こうしようではないかッッ!!」


 そう叫んだ神は、バッと両手を広げた。


 ――キイイィィィィィィン。

 

 辺りが眩い光で満たされてゆく。


 神の名のもとにあらゆるものを従えるそのさまは、あまりにも神々しく、人間は目を閉じた。

 

 音が止んだ。光も消え去った。

 どうやらあの現象は終わったようだ。

 いつの間にか顔を庇っていた腕を下ろしながら、人間はおそるおそる目を開く。

 

 ……変化は、何もないように思える。


 先ほどと変わらず、目に映る地面は大理石の白一色。その果ては、目に映らない。

 空は無機質に蒼く、空気は陽光のようなものに照らされて、透明という色らしからぬ色を発している。

 しばらく辺りを歩いても、やはり人間は変化を見つけることができなかった。

 再び神と向き合う人間。


「己の目をよく凝らすことだ、人間」


 その言葉が耳に届くと同時に、人間は、自身の視界に今まで存在していなかったものがことに気づいた。


「かか、神よ……こっ、これは……この緑のものは」


 人間の眼の前に立つ者は、白い歯を覗かせて、神とは思えぬように口を歪めた。


「ようやく気付いたか。痴鈍なものよなぁ、人間は」


 ――そして、神託のような声音で、愚かで矮小なる人間に告げたのだった。


「貴様らの命を、数字にしたのだよ」


 聞こえても何を言っているのか分からず、人間は言葉を繰り返してしまう。


「す、数字…………?」

「あぁ、そうだとも。その小さき命を『げーじ』として可視化し、回復可能なものにした。人間は皆、死ぬ可能性がある故に争いが怖いのだろう? だが『げーじ』となった命は、ただでは燃え尽きん。体を両断されようと、粉々に砕かれようと、どうにかすれば死ぬことはないさ。……貴様らの言うところの、『げーむ』のようなものだと考えれば理解は早い」


 人間の頭は思考を放棄していた。それは無理解ゆえか、驚愕ゆえか。

 どちらにせよ、動かなくなった人間を、饒舌に語る神は微塵も気にかけていなかった。


「さぁ、帰りたまえ人間。もう用は済んだ」


 神が親指と中指を合わせ、音を鳴らそうとする。


「……う……お、お待ち下さい神よ! 私達はどうすればよいのでしょうか!? 命が強固なものとなったとて、もう戦争などしたくはないのです!!死を恐れずに戦い続けたいなどという願いは、誰一人として――」

「喚くな、人間ごときが」


 今度こそ、神が指を鳴らす。

 刹那、足元に文様が現れ、人間の体を青い光が包む。


「待たれよ、待たれよ……!! 私達はいったいどうすればッッ――」

「まぁ、せいぜい楽しませてくれたまえ、人間」


 そこで、人間の意識は途絶えた。


 その日からだった。


 人間の命が『ゲージ』となり、現実世界でデスゲームが始まったのは。

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