第16話 巨人と交渉

「ふぅ、危なかった。あれは明らかに治安維持組織の人間。俺って脅威判定されてたのか?」


急襲から逃れつつ巨人が視認できる距離で俺はただ考え込んでいた。


「っとなるとますます人間のコミュニティに混ざる事は難しくなったか。いつまでもここで待っていればアイツらに殺されかねないし賭けに出るか。」


正直止まるも進むもリスクなら後退が正解だが、後退する余裕は無いので無益な静止より利益があるかもしれない前進しか選択肢はない。


「仮にも神の一柱なら人間の言葉も理解出来るだろ。」


俺はファングに乗ったまま突撃し壁へと向かった。壁に着くとそのまま駆け上がり空の上に立つ。


「き、貴様何者だ!!?」


「黙ってろ。巨人さん、貴方何のご用ですか?」


けたたましい爆音を響かせる巨人へと悠然と歩み寄り話を続ける。


「何か目的があるのでしたら少し話してみては?我々は知的生命体。本能だけで動く獣とは違うでしょ?それとも貴方はただの獣でしたか?」


得意な交渉術に持っていく。正直巨人のこちらが向こうより弱者で簡単に踏み付けることが出来る存在であることを察知されない様に一挙手一投足に気をつける。


「違うでしょ?ただ殺戮が目的な獣ならばこうやって壁に阻まれている必要はない筈だ。貴方の力ならば割と簡単にこんな土壁崩せるでしょうし、それをしないと言う事は貴方には対話でなければ解決できない何かしらの目的がある筈だ。」


向こうが俺の言葉を理解しているかは賭けだが純正の日本人が異世界に来ても言葉の壁にぶつからなかった時点で何かしらのカラクリはあると思われ、決して分の悪い賭けでは無い。


「どうかな?」


巨人は再び雄叫びを上げると腕を振り上げこちらに向かって叩きつけてきた。俺はファングが咄嗟に横に逃げてくれたおかげで地面のシミにならずに済んだ。


『コトバワカルカ?オレ、テツホシイ。タイカ、ブキツクル。』


「あはは、やっぱり話せば分かるじゃないか。でも一つ人間ってのは巨人より見ての通り小さな生き物だ。その質量で押し潰されればひとたまりもないから気をつけてくれよ。少し待っててくれ。」


『ワカッタ。』


俺は腰を抜かして漏らしている軍部か防衛らへんのお偉いさんらしき人物に近づき話しかける。


「そこのお前ここの責任者だろ?巨人の目的は交易らしいが何でお前ら攻撃してたの?倒せないのは分かりきってるし大人しく交易に応じた方がいいと思うぞ。」


「か、怪物の言葉が分かるのか!?」


「怪物ってあの巨人も人間にだけは言われたくないと思うぞ。あの巨人が求めているのは鉄鉱石、対価として製作した武器を渡すらしいぞ。あとはお前らの判断次第だ。」


俺はそれだけ伝え移動しようとすると呼び止められた。


「待てレッヒェルンマスケ笑顔の仮面。お前自体の目的はなんだ。貴族街に出没した謎の仮面はお前だろ。何しに来た?」


「私は助けた対価を頂きに来ただけですよ。それに私はそんなヘンテコな名前ではありません。私はただの一般男性のグルーミィ・バヴァールと申します。受け取り次第二度と貴族街に出没する事はないのでご安心を…。」


「他国の貴族か?」


「いいえ、ただの庶民ですよ。」


それだけ答えると俺は前来た時の様に穴を開け壁を駆け下り街の中へと姿を消した。

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