第25話 漆黒旅団作戦会議

「さて、全員集まったな」


 俺はいつものように借りた円卓のある会議室で、全員が席に座っている光景を見渡した。


「あぁ……うっ……記憶がない……」


「おいそこ、次吐いたら腹パン食らわせて何も出ない身体にしてやるぞ」


 絶妙にヒヤヒヤする呻き声を上げるドロシーを指してそう言うと、正宗が両手を頭の後ろで組みながら口を開いた。


「ワイもドロシーさんのゲロ見たかったわ」


「二度と見てたまるか!」


 即座に突っ込む、もし次見る機会があればそれは正宗がゲロまみれになる瞬間だけで良い。


「で、今日は何? お金入ったからショッピングしたいんだけど?」


「なんでお前はそんなに偉そうなんだよ」


 柚乃が自分の爪を眺めながら気だるげな声を上げる。


「まぁ良い……今日の議題はズバリ、今後何しよう! だ!」


 俺はそう叫んで虚空に向かって指をビシッ! と差した。


「今後何しようって……普通に配信したりすればいいじゃない」


「ほな、四人で連携の訓練とかはどうや?」


 柚乃はいつもの如く適当だが、正宗がまともなことを言っている、その事実に僅かに涙腺が緩んだ気がした。


「四人での訓練はするつもりだ、それ以外にだよ。何かやりたいことはないか?」


「……はっきりしないわね、私たちはマスターであるあんたに従うだけよ」


 だから早く話を進めろ、言外にそう告げる柚乃はジッと俺の目を見る。


 信用されているのか、それともただ面倒なだけなのか……本当はこいつらにももう少し考えてほしいという思いもあるが、話が進まなそうなので諦めることにした。


「はぁ、分かったよ。じゃあ話を始める」


 俺はそう言って、ドローンカメラを取り出していつもの配信開始ボタンとは異なるボタンを押す。

 すると普段見ているようなコメント欄と同じ要領で、空中に映像が出力された。


 この機能はつい先日見つけたもので、そこら辺にいた正宗に興奮気味で話すと「いやそんなん最初から知っとったけど」と一蹴されたのは記憶に新しい。


 これはドローンカメラに予め入力した情報を出力してくれるもので、丁度良いから今日の会議で使ってみることにした、男の子は新しい機能を使ってみたい生き物なのだ。


 因みに今映し出しているのは、現時点で俺たちが取れる行動を書き起こしたスライドである。


「俺たちは名実ともに大手ギルドの仲間入りを果たしたと言っていい」


 俺のその言葉に柚乃と正宗が頷く、ドロシーは両手で口を押えてずっと荒い呼吸をしているのでガン無視して進める。


「現状、俺たち漆黒旅団が取れる行動はこのスライドにあるとおりだ、これは上から順に優先順位を高く設定している」


 ・探索と配信への注力

 ・法人化とスポンサーの獲得

 ・他事業への参入

 ・ギルドの人員拡充


「探索とか配信頑張るのは分かるけど、法人化とスポンサーの獲得? それって優先順位そんな高いの? 私はギルドの人員補充した方が良いと思うんだけど、あのダンジョンのことだってあるし」


 柚乃が顎に指を当てながら首を傾げた。

 あのダンジョンとは世界を滅ぼさんとする、真のダンジョンの事だろう。

 つまりギルドの人数を増やして、戦力の増強をした方が良いのでは? ということだ。


「柚乃の言っていることは正しい」


 俺は柚乃の意見を肯定した上で続ける。


「組織というものは作るのは比較的簡単だが、その維持には莫大なコストがかかる、例えば大手ギルドは大抵オフィスを保有していることが多いが、借りるにせよ建てるにせよ大金が必要だ」


 制服や、ある程度消耗品の支給を考えればそれにも金がかかるし、経理や広報、人事、顧問弁護士だって居た方がいいだろう。

 そういう人間を雇うのにも金がかかるし、ギルドはダンジョン庁に対しライセンス料として年間収益の二十パーセントを収める必要がある。


 アコギな商売をしているのだ、ダンジョン庁が嫌われている理由の一端でもある。


「――という訳で、人を増やして組織を拡大するにはとにかく金が必要なんだ」


 説明を終えた俺は短く息を吐いた。


「ほんでスポンサーかい」


「そうだ、このギルドでは企業によるギルドメンバーとの個人間取引を禁止する予定だ、企業には漆黒旅団というギルドにスポンサードして貰う」


 俺は正宗の問いに頷いて肯定する。


 基本的に企業は個人の配信者とスポンサード契約を結ぶのが一般的だが、正直それをされるとギルドとしては旨味が無い。


 ギルドの主な収益は


 ①契約したダンジョン配信者の広告収入からギルドに支払ってもらう手数料

 ②ダンジョン探索で入手した各種素材の販売

 ③ダンジョン庁からの直接依頼や落札依頼


 この三つが主である。


 しかしギルドにスポンサーが付けば、ここに四つ目の収益軸である『スポンサード収益』が追加されるのだ。

 やらぬ手は無い。


「という訳で色々言ったが、法人化やらスポンサーは俺がやっておく、まず俺たちがやるべきなのは更に俺たちの存在感を高め、配信者として大成することだ」


 俺たちは柚乃を除いて全員が個人配信を行っていないのにも関わらず、それぞれが数百万人以上の登録者を保有している。


 この初速に乗っかって、今のうちに各メンバーのチャンネルにコンテンツを投稿しておきたい。


「というわけで、今から四人でダンジョン踏破しに行きます!」


「「は?」」


 俺がニッコニコの笑顔でそう告げると、正宗と柚乃がハモる。


「ヴォエ!」


 その後ろでドロシーは床にゲロをぶちまけていた。

 昨日吐いてから何も食べていない筈だが、一体何が出て来ているのか……


 俺はそんな事を考えながらドロシーの頭に拳骨をお見舞いし、首根っこを掴んで部屋を出た。

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