第23話 初配信、漆黒旅団全員集合
「はーつっかれた」
俺は漆黒旅団の制服のネクタイを緩めながら、いつもの如く渋谷管理局の会議室の椅子にどっかりと座り込む。
「ちょっと、これから初配信なんだからシャンとしなさいよね!」
そんな俺に柚乃が指を差して頬を膨らませた。
「見なさいよ! 正宗なんて張り切って髪にワックスつけたらドリアンみたいな髪型になっちゃってるのよ!?」
そうして柚乃の視線を辿れば、部屋の隅で頭が妙にトゲトゲした正宗が体育座りで落ち込んでいた。
ドロシーがそれを見ながら珍しく大爆笑している。
「あはははははは! 正宗、君は愉快な男だと思っていたがここまでとは……クク、ははははははは!」
「もう見らんといてくれや……ああ、今すぐ死にたいわ」
「ぷっ」
実は俺も先ほど大爆笑したのだが、何度見ても笑いが込み上げてくる。
格好つけようと人生で初めてのワックスを付けた結果、勝手が分からずトゲトゲした髪型になってしまったのだ。
「全く……だから正宗の髪の長さじゃワックスは必要ないって言ったのに」
「ワイは馬鹿や、アホや……こんなんで配信したくない……」
「だははははは! 正宗お前やっぱ最高だな!」
消え入りそうな声でそう呟く正宗に限界を迎え、俺は吹き出した。
「もう! さっさとシャワー借りて洗い流してきなさいよ」
そう言って柚乃はタオルを正宗に投げつける。
「行ってくるわ……」
投げつけられたタオルを受け取った正宗は、項垂れながら部屋を出て行く。
きっと染谷さんもあの姿を見て爆笑することだろう。
「はー、いやはや久しぶりに腹の底から笑ったよ」
「ホントに馬鹿だなあいつ」
涙を浮かべるドロシーがこちらに近づいてくる。
「さて念願の、最後の初配信だが今日の予定はどうするんだ? 台本も何も無いんだが?」
「台本? 必要ないよ俺たちには」
俺はそう言って足元に置いているビニール袋を顎で差す。
その中にはいっぱいの酒缶が所狭しと入っており、様々なラベルのデザインが顔を覗かせていた。
「ははーん、なるほどね」
「なになに?」
頷くドロシーの後ろからひょっこりと柚乃が顔を出す。
「今日は飲酒配信だ!」
俺がニカッと笑ってピースサインを作ると、ドロシーと柚乃が顔を見合わせて笑顔を作った。
「さて、配信開始っと」
元気を取り戻した正宗が帰ってきたタイミングで、俺は配信ボタンを押す。
『うおおおおおお! 来た!』
『記者会見観たぞーーー!』
『全員集合しとる!』
『全員酒持ってんじゃん、いいね』
『俺もとってくるわ』
『乾杯か』
『いやあああ、柚乃ちゃん男とお酒飲まないでえええ』
『ドロシーワインボトル持ってて草』
『ドロシー草』
『一人だけおかしい奴おるなぁ』
『渋谷ダンジョン踏破おめでとう ¥100,000』
『マッスルヘッド! 10万だ!』
『てかスパチャ解放されてんじゃん! ¥3,000』
『おおやっとスパチャできる! ¥5,000』
『給料全ブッパじゃあ! ¥1,200』
『↑悲しすぎだろ』
『草』
怒涛の勢いで流れるコメント欄にお金の表記が付く。
そう、だんつべに申請していた、配信者にリアルマネーを送るスパチャ機能の解放が異例のスピードで許可されたのだ。
申請して二週間はかかる審査が、わずか数日で許可された。
これはだんつべ公式が俺たちを認知して優遇させたという事実に他ならない。
しかも申請していないのに、公式マーク……つまりだんつべが認めた団体の証明であるチェック型のマークがチャンネル名の横に付いていた。
これによりオススメに表示される頻度が向上し、更なる新規リスナーの獲得が見込める。
「今日は飲むわよー!」
「柚乃ちゃんと酒飲めるとか最高やぁ、このギルド入って一番うれしいわ」
「アユハ、乾杯の音頭を」
それぞれが言葉を放ち、俺は頷いて笑顔で叫ぶ。
「では! 漆黒旅団結成と渋谷ダンジョン踏破を記念して! かんぱーーい!」
「「「乾杯!」」」
『カンパーイ! ¥10,000』
『乾杯! ¥10,000』
『おめでとう! ¥15,000』
『質問コーナー楽しみ! ¥3,000』
『私もいただこう ¥100,000』
『マッスルヘッドまた10万投げてんじゃんw』
『乾杯! ¥2,500』
赤、緑、黄色……スパチャのコメントには色が付く為、虹のようなカラフルなコメント欄になっていた。
因みにスパチャの上限は10万円である。
「か~~~~ッ! 美味いわ~~~!」
ほろ酔うの缶を持った正宗が大仰にそう叫ぶ。
「お前……ほろ酔うて度数二パーセントくらいだろ、そんな叫ぶような酒じゃないと思うんだが」
俺が苦笑いを浮かべながらそう言うと、正宗は焦った様子で言い返してきた。
「え、ええやないけ! こういうのは雰囲気や!」
「まぁ潰れられるよりかはマシね」
そう言う柚乃は度数九パーセントのチューハイをストローで飲んでいる、実は酒豪なのかもしれない。
「アユハ、飲んでいるか?」
ドロシーが俺の背後から抱き着くような形でのしかかってくる、二つの柔らかな感触が背中に当たった。
その手に持つワインボトルの中身は既に半分が無くなっている。
「お、おい! お前流石に飲み過ぎだぞ……!」
「んん? 問題ない、何故って? 天才だからだ」
コイツは素面でもこういうことを常々言っているので、酔っているのかどうか非常に分かりづらい。
『そこ代われアユハ』
『おい金返せ』
『何を見せられてるんだ……』
『イチャイチャすな』
『おい! わつぃしのドロシーだぞ! ¥100,000』
『マッスルヘッドベロ酔いやんけ ¥5,000』
『草』
『誤字草』
『誤字してもスパチャはするのか……』
「あら、ドロシーって結構飲めるクチ?」
未だ俺にのしかかっているドロシーに向かって柚乃がニヤニヤと笑いながら問いかける。
その手には先ほどまで持っていた缶ではなく、ドロシーが持っているものと同じワインのボトルが握られていた。
「おいお前ら……飲み勝負するのは構わないが俺の周りでするな」
俺は背後にドロシー、そして左隣には柚乃という面の良い女に囲まれて心臓がドキドキと脈打つのを感じていた。
正直ドロシーの中身は"アレ"だから恋愛感情は微塵も無いが、それでも外見だけはパーフェクト。
柚乃に関しては正直外見も内面も悪くない……寧ろ良いと思っている、俺もまだまだ二十四歳、正直クるものがあるのだ、決してどこがとは言わないが。
『鼻の下伸びてるぞ』
『誰かコイツ殴れ』
『返り討ちにされる定期』
『漆黒旅団に入ればこの美女たちを拝めるのか……』
『漆黒旅団メンバー募集してないの? ¥6,800』
俺は二人を意識しないように、コメント欄に集中する。
「あー、今のところ新規メンバーの募集は考えてないけど、近いうちにすると思うよ」
『マジ!?』
『ランクの制限とかある? ¥30,000』
「うーん、本当にまだ何も決めてないから現状だと何も言えないな、すまんね」
「アユハの死体は誰にも渡さんぞ?」
ドロシーはそう言って俺の死体権利書をカメラに映す。
俺はそれを分捕ってビリビリに破き捨てた、ドロシーの「あぁっ!」という悲鳴が聞こえるが、どうせコピーなので破っても問題ない。
『今の死体権利書?』
『流石ドロシーの姉御だぜ…… ¥30,000』
『草』
『持ち歩いてるのバグだろw』
そうしてどんちゃん騒ぎの飲酒配信は進んでいき、一時間が経った頃には正宗が爆睡、ドロシーと柚乃は配信そっちのけで飲み比べ対決。
俺はコメント返信という中々のカオスが出来上がっていた。
「さて、そろそろお開きにするか……」
俺がそう言った瞬間背後から柚乃の絶叫が響いた。
「ちょ、ちょっとドロシー!?」
「ぐぇっ」
潰された蛙のような声が出てしまった、ふと目だけで上を見上げると、立派な双峰が視界の上半分を支配する。
「お前さぁ……」
俺がそう言ってどうしたもんかと考えていたその瞬間……
「オエェッ!」
頭上から酸っぱい匂いのする液体が降り注いだ。
『草』
『草』
『汚ねぇwww』
『嘘だろ……』
『伝説だな』
『切り抜き#』
『切り抜き#』
『切り抜き#』
「吐いてんじゃねぇえええええ!」
俺はすかさず立ち上がって、思いっきりドロシーの頭に拳骨を振りかぶった。
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