第14話 念願の初配信、正宗の場合【20240626改稿】

「さて行こかぁ、カメ丸」


 そう言って愛くるしいフォルムをした球体のカメラのスイッチを入れる。

 瞬間、様々な言語で入り乱れるコメントが、全て日本語に翻訳されて空中に投影された。


「ほー、こりゃ便利やなぁ。確か自動でワイの言葉も各言語に翻訳して字幕付けてくれるんやっけ? そら高い訳やわ」


『きた』

『今日は野郎か』

『ドロシーでハードル上がりまくってるけどどーすんだこいつ』

『マッスルヘッドとドロシーの関係について聞きたいんだけど』

『期待はしてないけど見に来た』

『こいつツルハシ持ってるじゃん、今日は戦闘ないのか?』

『つか当たり前のように下層からスタートなのな』

『採掘師でソロ下層マ?』


「あー、ども。正宗ですぅ、今日は天王寺ダンジョン七十九階層からお届けすんで~。あと昨日話題になってた件は公式アカウントで呟いた通り、最終日の質問コーナーで頼むわぁ」


『おっけー』

『仕方ないか』

『気の抜けた奴だな』

『大丈夫かこいつ』

『てか七十九階層!?』

『やば、死ぬんじゃねぇの』


「ワイは採掘師兼鍛冶師や、今後漆黒旅団の武器は全部ワイが作る。アユハの武器は既に作ってあるさかい、明日の初配信でお披露目やな。さて今日やが、ここ下層である程度鉱石掘って七十九階層のボスぼこして終わりにしようと思っとる。ほな、よろしゅう」


 そう言ってカメラにヒラヒラと手を振ると一瞬コメントの流れが止まり、すぐに爆発的にコメントが流れ出す。


『ボスって、階層主ってことか!? ソロ討伐!?』

『何言ってんだコイツ……』

『天王寺ダンジョンの七十九階層の階層主ってなんだっけ?』

『おい、普通にドロシー級にヤバい奴なんじゃないのかコイツ』

『漆黒旅団ってやっぱヤバい奴らなんじゃん』


「あぁ、ここの階層主は黄金龍やな、身体を黄金色のよう分からん金属で固めとるでかいトカゲや」


『トカゲ』

『トカゲ?』

『ドラゴンをトカゲて』

『黄金龍は危険度S+相当だ、上等五名以上での討伐が推奨されている。私は正宗さんと同じ上等探索者だが、一人で挑もうとは思えないね』

『最近本職が湧くようになったな』

『でも実際ソロで倒せるとは思えんよな』


「ワイは採掘師、そして鍛冶師や。石のことは誰よりもよく分かっとる、無い物は何かで代用するしかない、仲間がおらんのやったら、石に頼ればええんや。例えば……」


 そう言ってふと視界の端に映った深紅の鉱石の元へ向かい、手に持ったツルハシを思いっきり、しかし鉱石には当てないよう細心の注意を払って振り下ろす。


「これは炸裂石や、ダンジョン鉄と合わせると炸裂鉄になる。よう探索者が手りゅう弾みたいなのぶん投げとるやろ? あれが作れる。些細な刺激でとは言わんが、それなりの衝撃を与えると爆発する。モンスターに吹っ飛ばされた探索者がこの鉱石にぶつかって身体が吹っ飛ぶ事故がようあるから気ぃ付けや」


『なんか普通に為になるな』

『まさかの教育路線なのかこいつ……!?』

『鉱石オタクワイ大歓喜』

『へ~』


 手に取った炸裂石をリュックに詰め、またしても見つけた鉱石の元へ歩を進める。

 眼前にはダンジョンの壁にまるで筋が入っているかのように、銀色の鉱石で構成された鉱脈が広がっていた。


「これはミスリルや、珍しいのぉ。下層やからほっそい鉱脈やけど、深層にいけば壁一面のミスリルが拝めることもある。何にせよ珍しいし、武器の素材になる。一応掘っていこか」


 そう言ってツルハシを壁に打ち続け、手にした拳サイズのミスリル鉱石をカメラに向けた。


「この位の大きさでも下位のアンデット系モンスターは近づくのを躊躇う。一個もっておけばダンジョンでキャンプする時や、アンデットの大群に囲まれた時とかに助かるで」


『なにそれ知らない!?』

『ダンジョン庁はこういう情報発信しろよ』

『じゃあなんでミスリル製の鎧や武器でアンデットが逃げ出さないんだ? 確かにミスリルの剣はアンデットへの特攻を持つが』

『本職っぽいコメントだな』

『本職だろ』

『本職でも知らないのか』


「ああ、ミスリルの原石をインゴットに錬成する時にダンジョン鉄やら魔素やらを混ぜ込むからな、ミスリルの純度が下がってアンデット除けの効果は無くなるんや。せやなぁ、例えばアンデット系モンスターしか出現しない新潟ダンジョンとかでミスリル原石を括りつけた首飾りでもしてれば、大分探索が楽になるで?」


『配信で言っていいのかそれw』

『超有力情報やんけぇ!』

『俺新潟ダンジョンホームだから試してみるわ……』

『調べてみたらそのサイズのミスリル原石でも五百万するのか』

『配信始まって二十分で五百万稼いだ男』


「あとは……お、あれもええな」


 そう言って次の鉱石の元へ駆けていき、そこから約一時間以上鉱石を掘ってはその説明をするという配信をし続けたが思いの他好調で、同時接続者数は八万人に達していた。


『いやぁなんか賢くなった気がする』

『こういう配信て新鮮だわ』

『俺ら一般人には絶対必要ない知識なのにな』

『寝る前に宇宙の秘密とか語ってる動画観ちゃう感覚だわ』

『そもそも下層のダンジョン鉱石の情報とか一般には殆ど出回ってないしな』


「おっとあかん、そろそろボスぼこしにいくで~」


『忘れてたわ』

『もう満足したぞ』

『ここから戦闘パートすか』

『そういや鉱石掘ってる間全く敵出てこなかったけど』

『まさか』

『いやまさか』


「ああ、ここら辺のモンスターは先に全滅させたさかい、暫く出てこんで。今日のワイの戦闘シーンはボスだけや。鉱石掘ってる最中に邪魔されたくないからな、いつもそうしとる」


 階層主の部屋へと駆けながらコメントにしっかりと返信していく。

 伊達にダンジョン配信者のファンをやっていた訳ではない、リスナーとの交流は大事なのだ。


『草』

『ドロシーと同じやんけ』

『やっぱおかしいよこいつら』

『てか武器持ってないけどツルハシで戦ったのか?』

『ぶっ飛んでてすこ』

『戦闘シーン楽しみなんだが』


「さて、ここやな」


 眼前には大きな扉が立ち塞がっていた。


(祐樹の情報通りやないけ、階層主の復活が今日って言い当てる辺り流石やな)


 階層主とは、ダンジョンの二十九、四十九、七十九、九十九階層に存在する、他とは隔絶した強さを誇るモンスターであり、階層主は特定のエリア……通称主部屋から基本的に動くことが出来ない。


 主部屋の扉が閉まっていれば中に階層主がいる証拠で、開いていれば中で誰かが戦っているか、階層主は討伐されているということになる。


 階層主は数日をかけて再度主部屋に復活する、そのタイミングは慣れた者ならある程度予測することが出来るが、復活までのインターバルは倒されてから経過した時間という訳でもなく、どう倒されたかなども考慮しなければならない為高等技術であった。


「さて、んじゃ今からボスしばき倒すが、五分ここで待つわ。みんなお友達に今からワイが主部屋に一人で突撃すること教えて来てな~」


『承知』

『分かったぜ兄貴』

『お前ら拡散じゃあ!』

『掲示板で情報流せ!』

『ホントに配信初心者かコイツ』

『みるみる同接増えてて草』

『同接二十万て』


 五分後、ツルハシを握る拳に力を入れ直して主部屋の扉に手をかざす。

 部屋に入れば、見慣れた光景が広がっていた。

 柚乃の配信で観たような小綺麗な部屋ではなく、ドーム状になっている空間の壁はゴツゴツとした岩肌が広がり、岩の亀裂から顔を覗かせる青白い炎が空間を照らしている。


「こいつが金ぴか大トカゲこと黄金龍や」


 空間の中央には絵本から出てきたような、金色に輝く岩石で構成された龍が深紅の瞳をこちらに向けていた。


『やば』

『迫力えぐ』

『近接泣かせの黄金龍だろ?』

『確か外殻がめっちゃ硬いんだよな』

『どうやって勝つんだよw』

『基本的に黄金龍はタンクが攻撃を受けている間に打撃武器で外殻を破壊、そこを剣や槍で攻撃して倒すのがセオリーだが、正宗さんはどうするんだ?』

『本職の解説助かる』

『解説コメ読んで思ったけど一人じゃ無理だろ』

『でもな~』

『でも』


「いくで!」


『漆黒旅団ならやりかねないんだよなぁ』


 脚に力を溜め、地面を蹴り上げて眼前の黄金龍に突進する。

 黄金龍は耳をつんざくような咆哮を上げ前脚を振りかざすが、最小限の動きで上半身を逸らせて回避した。

 直撃すればいくら精霊の糸で作ったこの制服でも、黄金龍の鋭い爪に切り裂かれるだろう。


 体勢を直ぐに戻し、再び全速力で駆け抜けて黄金龍の背後へ周り込み、速度を殺すためにツルハシを地面に刺して身体を静止させる。


「採掘師はなぁ……己の身一つで鉱石求めて毎日毎日ツルハシを振るう。そんであほみたいに分厚い岩を砕いて求めるものを探求し続けとるんや」


 下半身に全力で力を溜め、その場で上空へ思いっきり跳躍する。

 そして両手でツルハシを握り、空中でバク転をするような格好で大きく振りかぶった。


「そんで、お前は岩より分厚いんか?」


 そう言って乾坤一擲、こちらを振り返った黄金龍の脳天に思いっきりツルハシを叩きつける。

 凄まじい轟音と衝撃が空間に響き渡った。


『え?』

『土煙でなにも見えないんだけど』

『静かじゃね?』

『正宗死んだ?』


「柔らかいんじゃ、アホ」


 眼前にはツルハシの先端が頭蓋と下顎を貫通し、血を吹き出して絶命している黄金龍が横たわっていた。


『は?』

『ん?』

『え?』

『一撃マ?』

『ちょっとまって』

『なにこれ』

『何見せられてんの俺たち』

『やば』


「じゃ、ボスしばいたし、今日はここまで! ほんじゃのーぅ」


 そう言って配信を終えた。


「え、正宗さん上等よね?」


 隣で戦慄している柚乃が震えた声を漏らす。


「あいつはなぁ~、ダンジョンから二週間くらい出てこないこともあるし、ダンジョンに潜っている回数なら俺と同じくらいなんじゃないか?」


「勘弁してよ……」


「ここまでとは、鮮やかなものだな。戦闘開始から三十秒足らずで下層の階層主を瞬殺、早速トレンドになってるぞ。龍殺しの鉱夫だとさ」


 ドロシーは楽し気に笑っている。

 何にせよ良い配信だったと思う、鉱石採掘のポイントや、鉱石の解説は意外にも視聴者に受けていた。

 あいつは今後その圧倒的物理火力を以てモンスターを一撃粉砕しながら、鉱石の解説をする唯一無二の配信者として大成するだろう。


 最終的に同時視聴者数は二十三万人を突破していたし、あの光景を見ていた二十三万人と、これから知るであろう多くの人間は、これで漆黒旅団への認識を改めるはずだ。


「さ~て、正宗は今日こっちに帰ってこないみたいだけど、お前らどうする?」


「私はなんか疲れたから帰るわ……」


「私も所用があってね、失礼するよ」


 そう言って二人はそれぞれ部屋から出ていった、それにしてもドロシーに所用とは珍しい。

 ……まぁいい、俺は恒例の10chを開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る