第13話 激動の夜明け【20240626改稿】

「なんじゃこれ……」


 俺はボロアパートのベッドで上半身だけ起こして、未だ通知が鳴りやまないスマホを手に震えていた。


「公式チャンネルの登録者八十万、ドロシーは六十五万、柚乃は四十三万、正宗が十五万で俺がニ十三万!?」


 何があった!? 俺はすぐに検索をかける。

 そして意外とあっさり答えは見つかった。

 どうやら俺が10chを閉じて四人で飲みに繰り出した後に、相当な出来事が起こっていたようだ。


「世界一位の配信者に取り上げられたのか……にしてもドロシーめ、マッスルヘッドとの繋がり黙ってやがったな?」


 黙っていたというよりも、本人がそこまで重要視していないだけなのだろうという事は容易に想像できる。できるが、それにしてもである。


 新着の登録とフォローの通知で、俺のスマホは限界を迎えて有り得ないほど高温を放っていた。


「一度集まる必要があるな」


 俺はそう言って漆黒旅団の制服を纏い、ボロアパートを後にする。

 渋谷管理局のエントランスに着くと、いつもは受付に立っている染谷さんがうろうろしていた。


「染谷さん」


 鍵を貰おうと声をかけると、染谷さんがこちらに気付いて駆け寄ってくる。


「ゆ……アユハさん!! 直ぐに会議室に向かってください、他の方はもうご案内していますので! はやく!」


 普段は疲れた表情の染谷さんだが、今日は血相を変えていた。ふと周りを見てみれば探索者のほとんどがこちらを伺うような視線を飛ばしてきている。

 流石にあの騒動だ、もはや一般探索者にも広く認知されているのだろう。

 悪いことではないのだが、俺が想像していた光景ではない。


 染谷さんに対して無言で頷き、俺は三人の待つ会議室へ駆けた。


「いや~、ワイ初配信したないで」


「ドロシーさんどういうこと!? マッスルヘッドと面識があっただけじゃなくてギルドの勧誘まで断ってたわけ!?」


「天才故な」


 会議室のドアを開くと、中はそれなりのカオスが出来上がっていた。

 床に大の字になって寝転ぶ正宗と、余裕綽々の表情で椅子にもたれ掛かっているドロシーに指を指す柚乃。


「おい、とりあえず全員座れ」


 俺がそう言うと、全員の視線が集まる。


「あんた、これどうする訳? 今日の初配信は中止?」


 柚乃はズンズンと近づいてきて俺にスマホの画面を突き出した。そこにはでかでかと『漆黒旅団のドロシーに世界最強の探索者、マッスルヘッドが言及!?』と書かれている。


「お前テレビ観たか? ドロシーさん国内六人目の魔法使いとして認定されたって報道されとったで」


「テレビもそうだけど新聞も一面だったわよ」


 正宗のぼやきに柚乃が突っ込む。


「いやまいった、私の天才ぶりを世に出したのは迂闊だったかな?」


「迂闊なのはドロシーの口よ!」


「とりあえず座れ!」


 俺が眼前の柚乃にゲンコツをお見舞いすると「うきゃっ!?」という声を上げて柚乃が押し黙り、渋々といった表情で席に着いた。


「言っておくが、ドロシーが配信で口に出したことは関係ない」


 全員が着席したことを確認して、俺はまずそう告げる。別に守ろうとか庇おうとかそういう訳ではない。


「遅かれ早かれこうなっていた、流石にマッスルヘッドが出てくるとは思っていなかったがな」


 そう言ってウインクを飛ばすと、ドロシーは少し赤面してそっぽを向いた。

 なんだかんだ気にはしているのだろう、可愛い奴である。


「予定通り初配信は実施する、頼んだぞ正宗」


「えぇ、まじでぇ?」


 正宗は舌をベェと出して、嫌そうな表情を浮かべている。とはいえ本気で嫌がっているようには見えない、そう判断して俺は言葉を続けた。


「そもそもこの国家のダンジョン周りのシステムはぜい弱だ、ドロシーは探索者登録して七年以上経過しているが、ネクロマンサー……つまり魔法使いだと知っている人間は、マッスルヘッドなどの上位探索者の一部に限られてた。無論ダンジョン庁の役人の中でも知っている人間はいただろうが、公式見解として国内に六人目の魔法使いはんだ」


「つまり?」


 ドロシーが続きを促す。


「マッスルヘッドは想定外だったが、いずれにせよドロシーの社会に対する影響は避けれなかったってことさ。この件に関しては、いいチャンスだと捉えていこう。故に正宗! お前が変なとこ見せると不味いからな」


「はーあ、責任重大やんけ。変わってくれや、ギルドマスター?」


 などと言いながらも正宗は手を振りながら立ち上がり、部屋を後にする。

 配信準備のためにダンジョンへ向かったのだろう。


「やけに早く出るのね?」


 完全に正宗が出て行った後に柚乃が口を開いた、散々ドロシーに喚き散らしていたが今は気にしていないようだ。

 こういう切り替えの早さはこいつの美徳と言えるだろう。


「む、確かに。正宗の配信までまだ五時間はあるが……」


 ドロシーが壁の時計を見つめる。


「ああ、あいつが今日潜るのは渋谷じゃないんだ」


「そうなの?」


「今日潜るのはあいつのホーム、天王寺ダンジョンの七十九階層だよ」


「ああ、そういう事か、まぁ彼は採掘師だしな」


 納得した様子でドロシーが頷く。対して柚乃は良く分かっていないようで、首を傾げた。


「なんで採掘師だからなの?」


「天王寺ダンジョンは国内で一番鉱石が採掘されるんだよ。加えて今日は……まぁ見てれば分かる」


 俺はそう言って、ニヤリと笑った。

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