第3話 少女と少年の出会い
それは、実に一瞬の出来事だった。
少年はもうダメだと思った。
だが、自分に襲い掛かってきたウルフは、突如として現れた少女によって撃退されてしまったのだ。
少年は剣を持ったまま、目をつぶって固まった状態となっていた。
「君、大丈夫ですか?」
少女は少年に声を掛ける。
ところが、声を掛けても少年は震えたまま反応しようとしなかった。
(この感じ、駆け出しの冒険者でしょうか……。つまり、初めて依頼を受けたばかりというなのでしょうかね。そこでグレイウルフに襲われたのであれば、この反応も納得ができますね)
少女は少年を見ながらそのように考えた。
とはいえども、このまま放っておくわけにはいかない。
グレイウルフが1匹でいるという事は考えられない。となると、近くにまだ数体が潜んでいる可能性があるからだ。
「……やはり居ましたか」
少女が何かに気が付いて顔を上げる。
すると、周りには倒したグレイウルフの仲間と思われるグレイウルフが数匹姿を見せたのである。
ウルフたちはまるで飢えているかのように、よだれを垂らしながら唸り声をあげている。
(この少年はしばらく動けそうにありませんし、……私がやるしかありませんね)
少女は立ち上がり、ウルフの襲撃に備えて双剣を手に構える。
ウルフが雄たけびを上げて襲い掛かってくる。少女たちを餌と見定めたのだろう。
「この感じ……、相当に飢えているのでしょうね」
少女はウルフたちの状態を見て、そのような印象を受けている。
「なるほど、餌が無くなってこちらまで流れてきたというところでしょうか。……ですが!」
少女は深く腰を落として構える。
「ここで野放しにするわけにはいきません。生息地域から外れていますし、悪い影響が出てしまいますからね」
その瞬間、耐え切れなくなったグレイウルフが襲い掛かってくる。
少女は少年を守るようにしながら、双剣でウルフの攻撃を凌ぐ。
一度受けてみて分かったのだが、やはりグレイウルフの攻撃に勢いがなかった。かなり弱っていると見られる。
ところが、攻撃を凌がれたグレイウルフは諦めるような素振りがない。その様子は執拗なものだった。
再びグレイウルフたちは襲い掛かってくる。少女を狙い撃ちするかのような集中攻撃だ。
(これは……、私の気を逸らせて、その間に少年を狙うものですね。獣のくせに考えましたね)
それを鼻で笑う少女。次の瞬間、少女に襲い掛かっていたグレイウルフたちは、そのすべてが動かなくなってしまう。
「相手が悪かったですね。私たちはあなたたちの餌にはなりませんよ。代わりに……」
離れて様子を窺っていた1匹のグレイウルフは、突如として少女が姿を消した事で慌てたように周りを見回している。
突如としてグレイウルフの動きが、衝撃を受けたかのように止まってしまう。
「あなた方が私たちの餌になって下さい」
そう、少女の一撃がグレイウルフを確実に捉えていたのだ。
うめき声を出す事もなく、その場に現れたグレイウルフたちは一瞬で討伐されてしまった。
(辺りにはもう魔物の気配はありませんね。魔物の処理をしたいですが、この状態の少年を放っておくのもよくありませんね)
魔物の放置はよくないので、仕方なく少女は魔法鞄にグレイウルフをそのまましまっていく。
それが終わると、改めて再び少年に声を掛ける。
「そこの少年、もう大丈夫ですよ」
後ろから声を掛けても反応がない。困った少女は前に回り込んで再び声を掛ける。
「おーい、大丈夫ですか?」
覗き込むようにして声を掛けると、
「うわあっ!!」
ようやく少年が反応した。
「まったく、さっきまでここで戦闘があったというのに、まったく気が付いていないとは大したものですね。私が通りかからなかったら、今頃ウルフどもの餌でしたよ?」
「はっ、そうだった。あの変な魔物は?」
「全部私が倒しましたよ。本当に気付いてなかったんですね」
少年がぽかんとした顔をしている。その少年の態度に、少女は呆れてものも言えなかった。
「もう安全だとは思いますが、私が街まで送りましょう。立てますか?」
少女の声に反応した少年が、少女の方へと顔を向ける。
「うわぁ?!」
すると、驚きの声を上げて再び地面に座り込んでしまった。
「失礼ですね。恩人に対してその反応とは……」
「だ、だって、その顔……」
「ああ、ごめんなさい。事情あって素顔を見せられませんのでね、こうやって仮面を着けているんです。これに驚いてしまったのですね」
気分を悪くしながらも、少年に手を伸ばす少女。
「ひとまず立ちましょう。今日ももう遅いですし、おそらく依頼中でしょうが今日は諦めて戻りましょう」
「うう、わ、分かった……」
少年はしゅんと下を向いて落ち込んでしまった。
「うう、初めての依頼……なのに……」
「あんなのに襲われて生きているだけでも儲けものですよ。初めての依頼でこの森を選んだのは、間違いなく失敗ですよ」
そう説教すると、少女は少年を背負う。
「さあ、しっかり掴まってて下さいね。街まで急ぎますから」
少年を背負った少女は、驚くような速度で街へ向かって走っていく。その背中では、少年は恐怖のあまり、必死に少女にしがみついていた。
そして、どうにかまだ明るいうちに街に戻る事ができたのだった。
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