第33話 お兄ちゃんと筋肉
「カリーナ! 帰ってきたぞー! ハッハハ!!!」
ガチャリと部屋のドアが開かれる。
鼓膜を震わせるほどの声量を発したのは銀髪イケメン、筋肉ムキムキ高身長の男性だった。
「あっ!?」
掴んで離さなかったカリーナは雨宮を突き飛ばすように押してしまい、雨宮はベッドの上に倒れた。
「入ってくる時はノックしてって何度も言ってるでしょ! もうっ!」
カリーナは男性に近づき、部屋の外に押し出そうとする。
しかし、あまりにもムキムキなためビクともしない。
「なーにを言っているのか、俺たちは家族だぞ? 隠し事の一つや二つ、別に怒りはしない。ハッハハ!」
男性は腕を組んで、屋根を震わせるほどの声量で高笑いをした。
すごく楽しそうな人だな。
外国人っぽい容姿だし、もしかしてカリーナのお父様なのだろうか?
「して、そこの若人よ。誰?」
ベッドで無様なポーズで横になっている雨宮を、男性は不思議そうにまじまじと見つめる。
知らない人間が自分の家に上がり込んでいるので無理もない。
早く挨拶しなければと、雨宮は頭を下げた。
「あ、僕はカリーナと同じクラスの……雨宮孝明と申します」
雨宮はカリーナのベッドから降りて床に正座した。
背筋を伸ばして緊張しながら自己紹介するが、たぶん色々と間違っている。
「ほう、カリーナに男友達とは。しかもヒョロそうな男子……」
男性は鋭い目つきで雨宮を睨みつけ、重々しい足音を立てながら近づく。
まるで装甲車のような迫力に雨宮は思わず唾を飲み込んでしまう。
「しかし、運動はしっかりしているようだな。まだ幼いが筋肉がつき始めている。懐かしいな、俺も筋トレを始めた頃には、君と同じくらいだったよ」
そう言って男性は雨宮の体をベタベタと触り始め、脚を集中的にプニプニと摘んでくる。
そして、こちらを見上げて男性はニッコリと可愛らしい犬のような笑顔を浮かべる。
(え、どういう状況!? なんで触れているの!?)
雨宮は困惑していると、男性の肩をカリーナがポカポカと叩きだす。
「何やっているの! 初対面の相手に、遠慮なしに触って! 下品だよ! 失礼だよ! やめてぇ!」
カリーナが恥ずかしそうに叫ぶ。
しかし、男性は顎に手を当てて言う。
「別にいいではないか。カリーナの友人、しかも家に招待するほどの仲ならば、中々のいい関係と見た……なるほど」
何を勘違いしているかは分からない雨宮だったが、仲良く見られているようで悪い気がしなかった。
「そ、そう? やっぱそう見えるのかな?」
男性の発言に、カリーナが照れる。
すごく嬉しそうだ。
「は、はい! いつも娘さんのお世話になっております! お父様!」
カリーナのことが好きで、いずれ付き合うことがあれば父さんや他の家族とは仲良くやっていきたい。
そんなことを思いながら、雨宮は床に額を擦り付けるように頭を下げる。
「え?」
「は?」
頭を下げて見えないが、カリーナと男性が驚いたような声を出したのが聞こえた。
雨宮は頭をおそるおそると上げると、顔を真っ赤にして笑いを堪えているカリーナと、爆笑している男性が目に映る。
「ハッハハ! お、お、お父様! だって! ハッハハ! 面白い! 面白すぎるぞぉ! ハッハハ」
笑いすぎだって。
「ふっふふっ……あ、あのね孝明くん。違うの……ぷっふふ」
珍しく、お腹をかかえているカリーナは男性の肩に手を置いて、大きく息を吸って吐いてから、衝撃の事実を告げる。
「こちら、私のお兄ちゃん。”永瀬ミハイル”筋肉にしか興味ない筋肉おバカさん」
あのカリーナが誰かをおバカさんと呼ぶとは、雨宮は驚いて口を半開きにしてしまう。
いや、それ以上にこの明らかに30代くらいの巨漢が、お兄ちゃん!?
「うむ、カリーナの愛しい愛しいお兄ちゃんだぞ! 気軽にミハイルと呼びたまえ! 若人よ! ハッハハ!!」
フライパンを真っ二つに折りそうなぐらい筋肉ムキムキだけど、悪い人じゃなそうだ。
雨宮は胸を撫で下ろして、立ちあがろうとするが、突然ミハイルに抱き上げられてしまう。
「えっ! あの! ミハイルさん!?」
「ちょっとお兄ちゃん! 何してるの!? 孝明くんを下ろして!」
カリーナがピョンピョンと跳ねて雨宮を助けようとするが、届かない。
そんな彼女を見下ろしながら、ミハイルは返事をする。
「どうせ恥ずかしくて母さんに紹介していないのだろう? せっかくだ、食卓を共にしようではないか孝明くん?」
そう言って強制連行されてしまうのだった。
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