第10話 ヒロインvs幼馴染
「東條さんは孝明くんと、どういった関係なの? それをちゃんと説明してくれなきゃ孝明くんは渡さない」
「っ……」
東條は苦虫を噛んだように眉をひそめ、動揺を隠すように腕を組んで顔をそむけた。
「私とコイツは、お、幼馴染よ……」
「へぇ………東條さんだったのね」
不服そうに答える東條に、カリーナの目が冷たくなっていく。
雨宮(レイン)は幼馴染にフラれたことをゲーム内でカリーナ(ドラゴンヘッド)に相談している。
カリーナの東條に対する印象は最悪なのだ。
「ほら納得したでしょ。さっさと孝明をこっちに寄越しなさい」
「やーだね」
そう言ってカリーナは小馬鹿にするように舌を突き出した。
レベルの低い煽りを受けた東條は放心して、すぐに理解が追いつかなかったが次の瞬間、唖然とした表情が恐ろしい剣幕へと変わる。
そんな二人の間に挟まれている雨宮は、嫌な予感がしてカリーナの代わりに東條に謝ろうとしたが。
「東條さんは孝明くんが暗くてキモくて嫌いなんでしょ?」
「なっ……どこでそ、それをっ」
「私はそう思わないなー。だって見てごらん、可愛い顔だよ。全然キモくない」
カリーナは雨宮の前髪を掻きあげて言った。
人生で初めて可愛いという評価を受けた雨宮は、自分に微笑みかけてくれるカリーナにドキッとする。
というか距離感がおかしい。
「わ、私だって、それぐらい………!」
慌てて何かを言いようとした東條だが、認めたくないのか口ごもった。
「いや、そんなことより孝明! どういうことよ!?」
誤魔化すように切れ出す東條の怒声に、雨宮はピクリと肩を震わせた。
中学生の頃からよく怒鳴られていたが未だに慣れない。
「どうして告白のことを部外者のカリーナさんが知っているのよ! アナタもしかして他の人にも話していないでしょうね!?」
「ち、違うんだ千歌。これは、ちょっと奇跡に近いワケがあって……説明しても多分信じてくれないと思うんだけど」
「あったりまえよ! 信じられるわけないじゃない! なにっ? フラれたからって嫌がらせをしようとしているの!? ホントッ救いようのないクズね!」
何か勘違いされているようだが東條の迫力に圧倒され、雨宮は弁明する機会を失う。こうなってしまったら彼女は止められない。
一方的に言われ続けるしかないのだ。
「どうやってカリーナさんと仲良くなったか知らないけどね! どーせ、そのうち捨てられるのよ! どんなに頑張ったって! アナタは変わらない! 暗い世界で孤独に生きて死ぬしかないの! だからっ……!」
告白の時にされた説教は、少なくとも筋の通った話しだったのだが、今回の東條は違っていた。これでは、ただの当てつけである。
何が彼女をそこまでして突き動かすのか、雨宮は汲み取れる気がしなかった。
「あっそ。東條さんが嫌いなら勝手にすればいいじゃん。私には関係ないし。だって、そんな孝明くんでも、私は好きだから」
(す、す、す、す、す、す、好き――――!?)
カリーナの発言に、雨宮と東條の二人が驚愕する。
ここまでストレートに思ったことを口にできる人間は、果たしてこの世に何人いるのだろうか。
全世界に及ぶ規模の哲学が、雨宮の脳内に広がった。
―――なんか、宇宙が見えてきた。
「す、す、す、す、す」
幼馴染の東條も同じ反応をしていた。なぜか若干、目元に涙を浮かべながらだ。
その隙を見計らって、カリーナは雨宮の手を引いた。
そして、その場から全速力で逃走する。
「ま、待ちなさい! 話しはまだ終わってないわよ―――」
後ろから東條の声と、追いかけてくる声が聞こえる。
すぐに追いつかれてしまうのでは、と怖がっていた雨宮だったが、角を曲がってすぐ誰もいない教室に連れ込まれる。
カリーナは手で雨宮の口元を押さえ、静かのジェスチャーをした。
女子特有のいい匂いと顔の近さに雨宮は卒倒しかけたが、東條が遠のいていくのが聞こえ、すぐに手をどけられる。
「すっごい怖い人だった〜。あまりお喋りした事がなかったけど、怒るとあんなに恐ろしいだなんて、ずっと幼馴染をやってた孝明くんはすごいねー」
「……」
「ん? どうかしたの?」
「いや……さっきの……あのっ」
雨宮は顔を真っ赤にさせて、照れながらも言葉を繋げようとする。
「好きって……」
初めて女子から好意とも取れる発言をされた雨宮は、思わず聞いてしまった。
カリーナは天然である。雨宮を異性としてではなく、あくまで友達として好きで言ったのかもしれない。
(やばいっ……確認するってことは意識していると自分で言っているようなものじゃないか! バカ! 俺のバカ!)
聞いてしまったことに後悔する雨宮。
穴があったら入りたい。
しかし、そんな雨宮の質問にカリーナは笑ったりしなかった。
逆に、自分のした発言に対して不思議そうな表情をする。
「……うーん、どうだろうね」
顎に手をあてて考え、答えを導こうとする。
どんな答えを返されるのかドキドキして待っていると、カリーナはピンときたのか。
いたずらっぽく笑いながら答えた。
「秘密っ!」
カリーナは固まる雨宮の鼻をちょんと突いて、後ろで手を組む。
上機嫌にスキップしながら、教室の扉に向かう。
筋金入りの素直なカリーナでも、答えることができなかった”好き”の真意。
朝からこんな甘ったるい経験をするとは、人生何が起きるか分からない。
彼女の好きがなにを意味するのか、これからずっと気になってしまう雨宮かもしれないが、そのうち教えてくれるかもしれないので気長に待つことにした。
(千歌……)
なぜ、呼び止められたのだろうか。
二人っきりどんな話しをするつもりだったのか、雨宮には想像できなかった。
これから先、彼女から否定され続けるぐらいなら、今までより本気にならなくては。
―――アナタは変わらない!
(二度と見下されないような、男になってやる……)
東條千歌をギャフンと言わせられるぐらいカッコよくなって、大勢の友達に囲まれながら充実な高校生活を送ってやる。
そして、あわよくば彼女も作りたい。
そう決意する雨宮を、傍らでカリーナは胸に手を当てながら見つめるのだった。
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