04 デスマッチへの勧誘と鈴木理子の秘密

「鈴木、ツラぁ貸せ」


 兵頭竜一ひょうどう りゅういちはニヤニヤしながら鈴木理子すずき りこにそう告げた。


「いったいどういうことでしょうか?」


 彼女は怪訝けげんそうだ。


「噂に戸は立てられねぇ。お前が地下格闘技のチャンピオンだってことは、聞こえてきてるんだぜ? 俺と戦え、鈴木」


 兵頭は相変わらず気色の悪い笑みを浮かべている。


 地下格闘技のチャンピオンだって?


 鈴木が?


 いったいどういうことなんだ?


「何が目的ですか?」


「俺も格闘家の端くれ、強ぇ相手と戦ってみたいってのはわかるだろ? ま、建前に過ぎねぇがな」


「建前、とは?」


「体だよ、鈴木。俺はお前が欲しい。お前を倒して、俺のものにして、たっぷりとかわいがってやりてぇ。それが本命よ。地下闘技場のチャンプを倒したって名声は、副賞ってとこだなぁ」


 おいおい、マジかよ……


 昭和の不良みたいなこと言って……


 しかしこいつが地下格闘技のチャンピオンだとか、マジな話なのか?


 そんなマンガみたいなこと、あるのか?


 鈴木は黙っている。


 だが心なしか、体を震わせている。


 それは恐怖からではなく、怒りによるもののように映った。


 その証拠にというか、顔には険しい表情がたたえられている。


「……下劣ですね。女性をものとしか考えない、おぞましい思考回路です。いいでしょう、受けてたちます。それにわたしの正体を知っている以上、どのみち始末しなくてはなりませんから」


 彼女は静かに、しかし確かにそう答えた。


「決まりだな。すぐそこに俺が貸し切りにしてるジムがある。そこで白黒つけようぜ?」


「ふん、あなたなど、ゴングと同時に叩き潰してさしあげましょう!」


「へっ、言うじゃねぇか。よし、一緒についてきな。楽しいデスマッチになりそうだぜ」


 きびすを返して歩き出した兵頭のあとに、鈴木がついていく。


「ちょ、刀子かたなご! これ、ヤバいって! 止めなきゃ……」


「ま、ちょうどいい機会だ。鬼神おにがみ、理子のこと、その目で直接確認してくれ。百聞は一見にってやつだ」


「おい、冗談だろ!? 鈴木が地下格闘技のチャンピオンだとか、何かの間違いだよな!?」


「見りゃわかるって。だがまあ、確かに情報は最低限必要だな。よし、歩きながら少しだけ話してやる。行くぞ」


「あっ、ちょ、刀子っ!」


 彼も兵頭と鈴木のあとに続いた。


「ああ、もうっ!」


 しかたなく俺も彼らにしたがった。


 鈴木が地下格闘技のチャンピオンだって?


 まかり間違ってそうだとしても、あんなすごいがたいのレスラーなんかに勝てるのか?


 ボコボコにされるに決まってるじゃないか……


「心配か、鬼神? 鈴木のことが」


「当たり前じゃないか! あんなに華奢きゃしゃな女の子なんだぞ!?」


「あんなに華奢な女の子、か。そう思って理子に戦いを挑んで、生きて帰れた男はひとりたりともいねぇんだぜ?」


「え……」


「理子が地下闘技場のチャンプ、それはマジな話だ。そして、『エサ』なんだよ、地下格闘技界のな」


「なっ、エサって……」


 こうして刀子は、とくとくと語りはじめた。

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