もう、いいんだ ⑦
自分がotibaの家に住み着いてからというもの、otibaが変に私に気を遣っている様に感じられた。それは事実だと思うし――少なくとも私はそう感じたから。
フードコートにやってきた。otibaと出会った場所だ。私は端っこの席に座ると、人が雑多に行き交う様相を耳で捉えながら両手をポケットに突っ込みながら目を瞑った。口元を覆い隠していたマスクを顎まで下げた。
頭の中がうるさかった。文句や不安が抽象的に私を蝕もうとしたし、それをなんとか跳ね返そうとするのだけれど、一度思い浮かべてしまった不安は立ち退くまでに私に対してできる限りの攻撃を続けた。そして、私はそのできる限りの攻撃を必死に受け続けていた。だから、フードコートの雑多な人々の行き交う様相を耳で捉えながら〝その場しのぎ〟の生き方をこの場だけだけど続けるの。不安だから、とても……。
otibaの前では薬を沢山飲もうとする姿すら見せることが出来ないし、大麻を吸ったり、軽犯罪が錠剤の生き方だとしても〝悪い事〟している姿を見せることができるわけもない。言い訳ならいくらでも持っているのだけれど、自分の生き方を正当化出来るほどの言葉や理屈や論理的な正しさを私は持ち合わせていなかったから。
そんな事を考えながらのその場しのぎは時間を遙かに溶かす一因となってくれた。時間は気づけば一時間進んで、すっかり、酷い混乱に似た不安や焦燥感は立ち去ってくれていた。もう、こなくていいのにって毎回思うよ。
そして、私は家に帰った。その帰路の途中で、二人の男性の声をかけられ、風俗の仕事をやらないかと聞かれたけれど断っておいた。それ以外は特に問題らしい問題はなく、家に帰った。
家に帰るとotibaはベットの上でチルサウンドに身を浸して疲弊を溶かしていた。自分は一瞬戸惑ったけど、そっと同じベットに入り込んだ。人生に余白が生まれた気がした。義務や必然さがなくなった空間が周りにできあがった様な――そんな感じ。
そうして、私はotibaに、背中から胸元に向かって手の伸ばして、彼の匂いを体感した。とても良い匂いだったし、とても軟弱に感じられる身体だった。息を吹きかけたら飛んでいってしまう微細で繊細な小説の具現化の様な人間であると感じられる。悪意の無い体つきが私を少しばかり安心させる。私は素直に思った――〝こんな細く、白い肌を持っていながら、けれども生物的にはオスである彼の身体ってどんなのなのだろう――〟と。
その様な気持ちは初めてか、久しいように感じる。自分の事足りていない部分を愛してほしいと思ったのだ。彼のペニスを触ってみたかった。勿論わかっていた。男女の関わり合いなんてたかが知れているし、脆弱なものであるという事も分かったいたし、まぁ、付き合いたいのならいいんじゃない? ほどのスタンスを私自身が持っていた事も確かなのだけれど、でもその上でそう思ったからもう、どうすればいいのか……。
彼が仮に甘い蜜を仄めかす花だとしても、自分はそれを酷く拒絶しようとはしなかった。それはまるで、本能で
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