セルフメモリー・リゲインマジック〜THE MERCENARY REINCERNATION STORIES〜

ただし

第一話 死亡する男

 無の世界、五感はあるのかないのかわからない。延々と続く深淵しんえん。俺はその中を自由落下している。



 俺は誰にも気にされることなく、誰にも迷惑をかけずに死んだ。



 寂しい人生だったのだろうか。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



ええええええええい!」

 ズバアン ドカアン

 戦場に銃火器じゅうかきの音がこだます。俺の横を通り過ぎる銃弾がヒュンと音をたてる。

塹壕ざんごうから身を乗り出すな!身を隠せ!」

 迷彩柄の服を着て、目しかでていない布を羽織った銃を撃つ日本人。それが俺だ。32歳、身長は185cm、体重82kg。得意なことは我慢と人殺し。俺はとある国の戦争に傭兵ようへいとして参加していた。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 俺は愛を知らない人間だ。


 物心ついた時には親はいなかった。親が残したのは名前と苗字と「私とは違う人生を、賢く生きなさい」の言葉だけ。俺は親の一時のあやまちによって産まれた。



 気づいたら施設にいた。先生もどうやら俺のことを愛していたわけではないらしい。事あるごとに俺のことを殴り、蹴ってきた。産まれてからそんな環境に身をおいていたので、それが普通なのかと思っていた。



 俺は友情も知らない人間だ。


 施設の中で歳上の子たちにいじめられていた。それも普通だと思っていた。


 小学校でも蹴られてできた痣や親がいないせいでいじめられ、そのせいで遊ぶことを覚えなかった俺は中学では勉強しかしなかった。



 バイトと両立させてなんとか高校にも入った。高校でも勉強を頑張ったけど、バイトの金で陸上部に入った。因みに種目は長距離走それなりの結果は残せた。


 でも、一番にはなれなかった。



 だが三年間思いを寄せた女の子には振られてしまった。落ち込んだときにはその子の帰り道に突撃し、話を聞いてもらっていた。告白は成功するだろうと思っていたが、


「後をつけてくる人とは恋人になりたくありません。離れてください」


 と言われ、ものの見事に振られた。


 ちょーっと後ろをつけてただけなのになあ。


 友達と呼べる関係になったと俺が思っていた人も、その1件で俺から離れていった。


 俺には青春をする心の余裕もなかったのだ。



 高校卒業後、俺はある建設現場で働く事になった。重労働だった。でも鍛え上げた体のお陰で体が壊れることはなかった。それでも俺の仲間はどんどん倒れていく。だが俺は腐ることなく真面目に働いた。


 2年後、俺は現場監督になった。


 俺は他の人より働けるし動けるわけではない。体力だけがある。他の人に話しかけられるも、社交辞令で乗り切れば良い。人生で一番楽しい時間だった。



 晴天のある日、部下の一人が俺に、


「連帯保証人になってほしい。親が病気なんだ。こんな職業じゃ治療費がたりない。でも俺は大金を借りれるほど信用がない。頼む。」と言った。


 俺は高飛びされるリスクをわかっていながら、そいつの必死の願いを聞き入れた。コイツを信用したわけじゃない。断れなかったのだ。そしてお決まりの踏み倒し。あっけないぐらい簡単に裏切られた。


 借金ができた。一億円だ。そいつはスポーツ系ギャンブルにすべてをつぎこんで飛んだ。


「カ◯ジでも385万円だったのに、1億?冗談じゃない」


 意味がわからなかった。そして悔やんだ。簡単に人は信用するべきではない。


 建設現場は首になり、住んでいたアパートからも放り出された。


 露頭に迷った。


 幸い金は差し押さえられなかった。俺は銀行が嫌いだった。銀行はお金持ちが集うところだ。俺のような経験をしたことのない奴の集まり。反吐が出る。そういうくだらない、自分で考えても意味のわからない逆張り。そんな小さなプライドから俺はタンス貯金をしていた。


 アパートの大家からでていくように言われた夜、俺は夜逃げした。持ち物は、


 タンス貯金30万円


 果物ナイフ


 寝袋


 長袖一式


 半袖一式


 施設の時に作ったパスポート(更新済み)


 スマホ


 これだけだ。非常にひもじい。


 俺はスマホでホームレスとしての過ごし方を検索した。これからアパートは契約できないし、仕事につくこともできない。一億円も払えるわけがないので借金も踏み倒すしかなかろう。しかもサラ金からなので間違いなく督促とくそくされる。


 そして気づいた。海外逃亡だ。海外に逃げればいくらでも借金なんぞ高飛びできる。


 俺は最寄り駅のフリーWi-Fiでビザを取得。そして駅ビルの中にあった旅行会社で旅行券を手配。そして翌朝の便で海外へ飛び立った。その時には身分証として施設にいたときに取っていたパスポートが役に立った。心の底から更新をしておいてよかったと思った。


 俺は英語が話せる。俺には昔から語学の才能があった。中学の頃には勉強しかしていなかったので英検を取得していたのだ。バイトの金からなんとか出して準一級までとっていた。俺の数少ない誇れる点だ。


 俺は英語圏の某国で暮らし始めた。仕事はもちろん建設。



 仕事を初めて1ヶ月後、事件が起こった。


 俺の働いていた建設現場でテロが発生した。夜中での事件だったため、死者は出なかったが、俺達が作り上げた建築物は見るも無惨な姿になった。


 テロの実行犯は5人5組でテロの実行場所も5箇所。同時多発テロだ。そして犯人はとある国家の差し金らしい。中東で起こった戦争に肩入れし、この国が秘密裏に武器を供与したことで激怒し、工作員部隊を送り込んで派手にやらせることでこの国の国民世論を武器供与反対に傾けようとしたらしい。なんと強引な。


 俺の働いていたところは行政の大事な施設を建てようとしていたらしい。そのせいで標的になったのだ。これは脅しだ。これ以上の武器供与をすると今度は人の命を狙うぞ、という。


 こんなことで俺を巻き込まないでほしい。まあアパートを放り出されずに、上司からゴミを見る目で見られなかっただけマシだが。


 俺は首になった。まあ当たり前だ。職場が消え失せたらどうやって雇用するのだ。


 だが不味いことが起こった。


 在留ざいりゅう証明書しょうめいしょが失効を迎えようとしていた。在留証明書が切れると俺は本国に強制送還だ。たまったもんじゃない。


 なんで俺はこんなに人生ハードモードなのか?


 俺はそんなことを考えながら食料を買うために憂鬱そうな雲った街を歩いていると、一つの広告が目に止まった。


「派兵で兵士がたりない?新規兵募集しんきへいぼしゅう?傭兵新師団しんしだん設立?」


 先のテロ事件を首謀した国に宣戦布告をしたらしい。それによって派兵で兵士が足りないと言うのだ。


 これだ!と思った。新設された師団の傭兵になれば日本に帰らなくてもいい。はっきりいってこんな命はどうでもいいし、日本よりも、ひねくれた俺に居場所を与えてくれたこの国に尽くす方が良い。


 しかもそんな強行な手段に出る国家なんぞこの世の中にいらん。排除すればいい。


 さらに俺は体力もあるし、日本に家族も残していない。


 気づいたら俺は某国の軍に入隊していた。


 これで日本ともおさらばだし在留証明も必要ない。願ったりだ。


 一年間の訓練の後、実地配属となった。俺は自ら志願して戦争地帯に派遣してもらった。


 俺はそもそも人を信用していない。要するに人間不信だった。


 誰も信じてはならない。全てを滅ぼすのだ。


 そこからは死ぬ気で訓練に身を投じた。


 戦争では人を銃で殺せるほうが少ない。人間はどうしても人を殺すという業から目をそらたしたいのだ。実際にのに銃弾は7000発必要と言われている。


 その点俺は楽だった。なぜなら俺は敵国の人間を殺すのに躊躇ちゅうちょがない。俺の生活を奪ったゴミども。俺に害を与え続ける人間とかいう狂った生物を合法で殺戮できる。最早殺すのに快感さえも覚える。俺は人を殺した。またたく間に俺はエースになった。たった三年で指揮官クラスに上り詰めた。


 だが殺人は、本人が平気に感じていてもいつしか心を蝕み、腐らせていく。


 俺は、殺戮兵器さつりくへいきと成り代わってしまった。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 戦況は圧倒的にこちらが有利だった。


 そもそも先のテロも武器の供与で戦況がこちら側に傾いたことで起こったものである。そして大国での国家ぐるみの戦争犯罪によって国際社会からの非難は轟轟ごうごうである。国際社会からの完全アウェーの状態で生き残れるほど敵国に国力はない。


 勝ったも当然だ。


 市街地での戦いにおいて俺の部隊は部類の強さを発揮した。スナイパーで撃てば面白いように人が死ぬ。気持ちがいい。


 率いる部下供も俺は信用しなかった。いつ寝首をかかれるかわからないたかが傭兵堕ちのクズ供を信用するほうがアホだ。


 部隊を率いるのは簡単。部隊の規則を破った者を厳しく罰し、情に流されることなく公平に判断を下す。たまに単純に規則を破っただけでは罰すことのできない奴もいる。それを承知で軍功ぐんこうを立てた者だ。そういうやつには俺の自腹を切って褒美を与え、腕立て伏せなどの罰則を課してみんなで見物した。


 そして兵站を維持させ、俺が先陣を切って相手を殺し、味方を守る。反吐が出るがそんなことをするのは、それが部隊を守る近道の「作業」であることを俺は知っているからだ。


 5年も経てば俺達はエリート部隊となっていた。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 暑い日差しが砂漠に注ぐ乾季、長かった戦争は終わりが近づいていた。


 六年前のテロのあとに俺の国がこの国に宣戦布告。そこで傾いた戦端は一気に収束に向かうかと思われていたが、敵国が大規模だいきぼ反攻作戦はんこうさくせんに移行。我が国はなりふり構わぬ攻撃にさらされた。それをなんとかいなし、敵国の消耗しょうもうが激しくなったところで様子見をしていた各国が参戦。そこで大局たいきょくは決した。


 あとは国としての機能を滅ぼすのみとなったのである



 そして俺は首都にほど近い衛星都市えいせいとしの攻略に出向いていた。


 この国は首都の周りに合計4つの衛星都市を保有しており。首都防衛の生命線として強固な守りを形成していた。当然首都に近いのだから経済も豊か。攻略必須の土地である。


 雲一つない空から降り注ぐ朝焼けに照らされながら、俺達は作戦を開始した。


 ついに俺は戦車隊につく随伴歩兵ずいはんほへいとして敵地に足を踏み入れる。街の中は不気味なほど静かで、敵兵の反応はない。


 町中で体系を取ると、近くのトタン屋根でできた民家に侵入した。


 家の中には二十代ぐらいの女と5歳ぐらいの女の子と1歳ぐらいの赤ん坊が身を寄せ合っていた。栄養失調だろうか。頬が痩せこけ、目に生気がない。


 急にその女の子が殴りかかってきた。


『あなた達のせいでお父さんはいなくなったの!お父さんを返してよ!』


 なんだなんだなんだ?邪魔くせえな

『ガチャガチャうるせえなあガキ風情が!』


 そして向かってくる女の子を蹴り飛ばす。


 後ろの壁に女の子は激突し、うめき声を上げた。


 さらに俺は母親に銃口を突きつけ、言う


『死にたくなければ答えろ。家主はどこだ』


 幼子おさなごが泣き出す。


『ッ・・・。夫は徴兵されているので・・・』


 ふむ。


『町中に兵士がいないようだが居場所はわかるか?』


『わかりませんが、二日ほど前に王都の方に向かいました。』


 2日前?2日前は我が軍がこの街にほど近いところに到着した時か。なるほど。敵軍は戦略的せんりゃくてき撤退てったいで首都防衛に全力を注ぐつもりか。


『わかった。我が軍はお前を庇護下におく。』


 まあこうなれば首都を巡る激しい戦いになることは避けられまい。厄介だ。


 どう考えた時、外から部下が知らせる。


「敵襲!」


 俺が外に出ると、砲弾がさっきまでいた民家に着弾した。叫び声が聞こえたが、5秒ぐらいに沈黙が流れた。


「は?」


 俺は動かなかった。動けなかった。


 辺りは火の海だった。気づけば先程の女の子が大やけどを負った状態で俺の足元に倒れていた。


『おにいちゃん、助けて・・・』


 俺は抱きかかえようとした。先ほど蹴り飛ばしたというのになぜ心を失った俺がそんなことをしようとしたのかはわからない。放っておけなかったのだ。素早く女の子を拾い上げる。だが抱きかかえた時にはもうその子は息をしていなかった。


 俺は立ち尽くしてしまった。


 意味がわからない。本来は味方であるはずの領民を犠牲にしてまで敵国を攻撃することは愚の骨頂である。徴兵された兵士の中にはこの街に家族を残していったものもいるだろう。この行為は国民への裏切りに等しい。


 やはりこの国は悪だ。根絶やしにしなければ。


 だがその願いは叶えられなかった。


「動くな!」


 俺は後ろから銃口を突きつけられていた。俺の配下に。


「お前・・・」


 そいつは笑い、言う。


「俺はアンタには愛想をつかしたんだよ。意味のわからん罰則など設けやがって!」


 そいつはならず者上がりの一兵卒。道中で庇護下に入れた女を無理やり襲おうとしたので階級を下げ、罰を与えた。


「実入りもねえのに傭兵なんぞやってられるか!死ね」


 俺はとっさに判断した。


 まず頭につけられた銃を素早く奪い、そいつの眉間に撃つ。


「なッ!」


 ズドン


 乾いた音が響く。


 そいつは息絶えた。


 そいつの亡骸を見下ろし、言う。


「雑魚風情がいきりやがっ・・・」


 グサッ


 鈍い音がなる。腹の後ろから激痛が響き、温かいものが背中に広がる。


「って・・・」


 俺は背後からナイフで刺されていた。


 俺は血を吐き、仰向けに倒れる。


 そこには地元住民が血で汚れたナイフを持ち、立ちすくんでいた。


「あんたの・・あんたのせいで!ウチの娘は!!」


 先ほどの娘の母親だった。


「あんたがウチの娘を蹴り飛ばしたからあの子は死んだの!もうどうやって生きればいいのよ!」


 そういって母親は自分の首を掻き、息絶える


 朦朧とする意識の中で、俺はつぶやく。


「結局最後まで俺の人生ってゴミだったじゃねーか。」


 悔しさで涙がでてきた。


 それと同時に、なぜさっき女の子を助けようとしたのか自問自答をしていた。


「俺は誰かに頼られたかったのかなあ。俺はヒーローになりたかったのかもなあ。こんなところで死んだらダサすぎるよな・・。俺はこんな、こんなところで死ぬわけには・・・なんでこんな人生になったんだ?・・・俺悪くないだろ!どこで間違えたんだよ!」


 そうして最後の力を振り絞って夕日に染まる地面をグーでたたきつける。


「生きてぇなあ。こんなクソつまんねえ人生でも、死ぬ時は悲しいもんなんだなあ。」


 世界から色素が抜けていく


「結局俺は一人で死ぬのか・・。俺らしいなあ。」


 遠ざかる意識に逆らうことができず目を閉じる。


 そして俺の人生はあっけなく終了した。



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼



 深淵を落ちる。落ちながら俺は今までの人生を思い返していた。


 産まれた時には殴られ


 学校でも蹴られ


 振られ


 夜逃げ


 そして裏切られ


 死亡


「ゴミみてえな人生だなあ」


 そう、口に出すと泣けてきた。


 神様はなんでこんな不幸の人間を生み出したのか?それとも大◯翔◯とか藤◯聡◯とか規格外の天才を生み出しちゃったから乱数調整でもしたのか?それとも俺の選択がまずかったのか?もしかしてあの状態から俺は大◯翔◯になれるチャンスがあったのか?


 俺は何も知らずに死んでしまった。それを思うとなぜか後悔が俺の心から顔をだし、俺の人生観を無茶苦茶にする。


 俺は過去一いたたまれない気持ちになった。


 自分に対して。


「やりなおしてえなあ」


 そう、口に出したその時、眼の前が光に満ちた。シュワシュワと俺の体が細切れになって溶けていく。

 本能でわかった。これは魂の消失だ。きっとこのまま崩れ落ちて意識がなくなるのだ。


 そうして俺は永遠の眠りについた。



 はずだった。



 何故か一度切れた意識がどんどん戻って来るのを感じる。

 まるで接着剤のようにくっついて、くっついて、くっついて・・・。


 そうして元の形になった。


 そう感じたその時、


 瞼が空いた。


 そこには満面の笑みで俺の顔を覗きこむイケメンで銀髪の男性の顔があった。


 そして男性が言った


「でかしたエリナ!立派な男の子だ!跡継ぎが産まれたぞ!」


 こうして、俺は



 転生した。

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