第8話 大切な友達
瑠奈と颯姫が顧問になってくれる先生を探しに職員室へ行っている(であろう)時、私と花蓮ちゃんは教室でポスターの図案を考えていた。
「ここはもうちょっと大きくした方がいいかな……でもそうしたら、イラストとバランスが取れなくなっちゃうのよね……」
私は呟きながら、学校のプリントの裏紙にシャーペンを走らせる。一応言っておくけど、私のプリントをまあいっかー、って使ってるわけじゃないわよ?各クラスにゴミ箱と共に設置している、余ったプリントなんかの紙ゴミ専用ゴミ箱から拝借したの。ここに捨ててある紙は誰でも使っていい紙だからね。
ふと紙から顔を上げると、向かいに座る花蓮ちゃんが少し俯いていた。心なしか表情も強ばっていて、机の上の手はシャーペンをぎゅっと握りしめている。
「花蓮ちゃん、どうかした?大丈夫?」
と私が声をかけると、花蓮ちゃんは俯いたまま言った。
「大丈夫で……あ、大丈夫だよ」
敬語がまだ抜けきってないところが可愛いな、なんて思ったけれど。
これは大丈夫じゃないわよね……さすがにここまでわかりやすかったら私でも気付くわよ。
「大丈夫じゃないでしょ?言いたくなかったら言わなくてもいいけど、なにか悩んでいることがあったら言って。私も花蓮ちゃんの力になりたいの」
私は言った。だって、せっかくできた後輩で、チームメイトなんだから。大事にしたいし、可愛がってあげたい。
すると、花蓮ちゃんは、下を向いたまま話し出した。
「大したことじゃないんですよ……別に。ただ……少し、昔のことを思い出して」
昔の、こと……?
「昔、読モやってたって話はちなちゃんから聞いてますよね?あ、一応言っときますが、中学生読モっていうちゃんとしたやつです、年齢偽ってたりはしてないです。そのとき、クラスメイトから無視されたりしてて……」
「無視されてた……?」
私が言うと、「はい」と言い、花蓮ちゃんは続ける。
「そもそも私、小学生の時、よく街角スナップ的なやつに載ってたんですよ。カメラマンさんやスタッフさんと仲良くなるくらいには常連でした。それで、小6の時、中学になったらこんなのできるよ、やってみない?って仲良しのカメラマンのお姉さんに言われて、オーディションを受けてみたら、通っちゃって。小さな地方の新聞や雑誌ではあるけど、読モをしてたんですね。それを見たファッション好きの子たちが、なんでアイツなのって思ったらしくて。そこから、そのグループの人達に、ずっと無視されて。先生がみている時は仲良しのフリをしてきて、でも先生が居なくなった途端足踏んできたりからかってきたり、ブスって言ってきたりして。だから、少し怖いんです。高校生アイドルになったことをあの人たちが知ったら、またなにかしてくるんじゃないかなって思ってしまって……」
話している間、ずっと下を向いていた花蓮ちゃん。その手はさっきより強く握られていて。
そんな過去があったんだ……きらきらしてる世界としか思ってなかったけれど、大変なこともたくさんあるのね。
それなのに、私たちと一緒にやるなんて言ってくれて……なんて、なんていい子なんだろう。
私は思わず花蓮ちゃんを抱きしめていました。
「みのりさ……みのりちゃん!?」
驚く花蓮ちゃんをさらに抱きしめ、言う。
「花蓮ちゃん。辛かったよね、今まで良く頑張ってきたね。それでも、その人たちの悪口を言わない花蓮ちゃんは凄くかっこいいよ。でも、無理なんかしなくていいんだよ。本当はやめたかったら、やめていいよ。知り合ったばかりだけど、私は花蓮ちゃんのこと、大切な友だちだと思ってる。花蓮ちゃんには笑顔でいて欲しいから、思ったこと全部、言って欲しいな。我慢しないでいいから、私たちに気を使わなくていいから」
きっと、ハイドラのことがなかったら、私たちは知り合っていないし、一方的に花蓮ちゃんのことを知ることすらなかったと思う。
それでも、知り合って、話していくうちに花蓮ちゃんがとても可愛い後輩になった。だから、花蓮ちゃんには、笑顔でいて欲しい。発案者の瑠奈には申し訳ないけど、ハイドラ以上に、可愛い後輩の笑顔の方が大事なのだ。
私はそう考えながら、何か言いたそうな花蓮ちゃんの言葉を待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます