不屈折

ぽんぽん丸

1

彼女は寝室でこう言った。

「海岸のゴミを集めて袋に詰めて、両手に持ちきれなくしたい。それから太ももの下の方が浸かるくらい海に入るの。そこで全部ばらまいてその中に立つから写真を撮って欲しい」


そう言い終わってからしげしげと私の顔を見つめた。


-元々流れてきたゴミを少し前に戻すだけだからきっと悪いことをするわけじゃないの-


もう少し黙ってみせたら彼女は不安に曇ってそう言って、ダメだと言ったら私をこの素晴らしいプロジェクトから追放して秘密裏に一人で行動することだろう。


私は彼女の次の言葉を待たずにこう言った。


「いいね、すごくいい。やろう。」


彼女はジョブズで私はウォズニアック。私は具体的にする。


平日だから早く寝ようと彼女に言った。だけど彼女のわくわくした脳髄からは止まることなくイメージが溢れ出ていて、ギンギンに開いた目は豆電球の光の中でもカラフルに輝いて見えた。彼女から私はそう見えていなかったかもしれないけど、私の脳髄も同じだった。


眠い朝がやってきて、それでもコーヒーカップにスプーンで作った渦巻きに想像のゴミを浮かべて機嫌の良い彼女に言った。


「でも他の人に見られてやいやい言われるのは楽しくないよね。まあでもゴミがある砂浜って人がいないところだと思うんだけど」


なんのことかを言わなかったけど彼女の視線は想像の渦巻き現実に向いた。


「曇りの日がいいと思う。海に行きたくなる日じゃなくて、もしかしたら雨になるかもしれないようなさ。ゴミの浮かぶ海が曇天を反射して灰色でさ、お菓子とかペットボトルの包装とか案外ゴミってカラフルだと思うからその方が写真もいいと思う」


「そうしよう」


彼女は目をまん丸にして笑顔を見せた。


「今週の日曜日はお昼間降水確率30%でちょうどいいと思う。でも雨の海は危ないから降ってきたらやめとこう」


彼女は大きく頷いた。その勢いでコーヒーが少し溢した。


その日のうちにストリートビューを使ってゴミのある寂れた海岸にあたりをつける。それからXでそこの名前で検索して今もゴミがあるのか調べてみる。数カ所探して2人で見て決めた。


Xで近影にゴミが写っていた場所もあったのだけど、結局最近の投稿がないところに決まった。ストリートビューにもゴミは写っていたし、それはカラフルなゴミだったから確認できた。ビーチというには狭い場所、後ろの山の木々に押しつぶされそうな砂浜。一段高い道路を走る撮影車のカメラには波打ち際のあたりがなんとか捉えられていてカラフルなゴミが写っていた。


「いいゴミだね」


彼女は雑誌で美味しそうなお店を見つけたみたいに満足そうに言った。


私は候補を用意しながらここだと思っていた。やっぱり彼女はここを選んだ。

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