初めてのプレゼント

鷹野ツミ

楽しい時間

 まみちゃんの抱えるクマのぬいぐるみは妙に手足が長くて可愛らしいとは思えない。

「あっ! おめめとれた! 」

 目のパーツである黒々としたボタンが転がっていった。ソファーの下を覗いたまみちゃんは私にも探すようにと膝を掴んで揺らしてくる。その手は柔らかくて、クマと違って非常に可愛らしい。

 腹ばいの姿勢になったまみちゃんの短いワンピースから太腿が覗いている。ついでに下着も見えないかな、と考えてはいけないね。私は、ボタン見つかった? なんて声を掛けながらその柔らかい肌にそっと手を置き、指先に感覚を集中させ、しっとりした感触を味わった。

「みつかったよ! 」

 肌に触れる時間はあっさりと終了した。

 ボタンもそうだが、起き上がったまみちゃんの髪の毛には埃が少量付いていた。その埃を取ろうと手を伸ばすと同時にまみちゃんのくしゃみが私の顔を唾液で汚した。

「あ! ごめんね!くしゃみでちゃった! 」

 全然構わないし寧ろ嬉しかった。まみちゃんの匂いにぐわりと目眩がするような心地好さを感じる。

 微笑む私をよそに、まみちゃんはクマのぬいぐるみの腹をハサミで遠慮なく切り裂いていく。どうやらお医者さんごっこにはまっているらしかった。「メス! あせ! 」と言うまみちゃんの額を折り畳んだちり紙でそっと触れてあげた。

「ねえ、このおめめいらないからあげるー」

 片目が取れたことにより患者感が増したのか、ただ単に要らなくなったのか、テーブルに置いていたボタンを私に渡してきた。

 どんな理由であろうと、これはまみちゃんからの初めてのプレゼントだ。私の鼻息が勝手に荒くなり、脇から汗が滲んできた。

「どうしたの? あつい? おねつ? 」

 息の荒い私を変に思ったようで、まみちゃんの手が私の額に触れた。額からもじっとりと汗が滲んでくる。扇風機の風が生温く感じるほど興奮していた。

 まみちゃんのキラキラした瞳が私を見つめている。小さな唇がすぐ届く距離にある。かぶりついて舌を捩じ込んだらどんな反応をするだろうか。泣き叫ぶだろうか。驚いて声も出ないだろうか。ぼんやり考えている間に私の手からボタンがこぼれ落ちた。手汗でぬるりと滑ってしまったようだ。投げられたボールを取りにいく犬の如く、私は落ちたボタンに飛び付いた。

「……だいじょうぶ? 」

 まみちゃんは少し驚いていたが、直ぐに笑ってくれた。

 私にとってこのボタンは大切なものだ。まみちゃんからの初めてのプレゼントなのだから。



「ただいまー」

 不意に玄関から声がした。

「あ!ママ帰ってきたー! 」

 まみちゃんは駆け足で玄関へと向かって行く。



 もう時間か。早く出なければ。



 私は貰ったボタンを握りしめ、いつものようにキッチンの勝手口から外へ出た。



 ◇



「あれ? おじさんいなくなってるー」

「またおじさんってー、まみは一人でお留守番してたでしょ? 」

「ううん、きょうもおじさんとあそんでたんだよ」

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