第164話 魔法発動具を造ってみた:③

 ジェームズ・クラーク・オレは連れ立って屋敷に戻った。その途中で撃ち合い稽古終わりでオレたちが結界を張ってなにかやっているのを見ていた汗だくの騎士たちに清浄クリーンをかけながら歩いていくと、さっぱり爽やかになった騎士たちが笑顔でお礼を言ってきた。


 オレは右腕の中に隠したミスリルの杖が複数の魔法を連続で発動する時の増幅効果を実験しているつもりでやったのだが、喜んでもらえたのなら何よりだし、清浄クリーンの発動もほとんど無意識にできたので杖の効果に満足した。


 生活魔法を範囲を広くして強力なモノにできればもっと便利だなぁと思って、あとで魔法大辞典を調べることにした。


 でも広範囲に影響を及ぼせる生活魔法って、それはもう属性魔法になるんじゃないかな。


 まあ調べておくか。


 一度ジェームズの執務室に寄って、ウロコ三十枚を渡してから、部屋に戻って保管用の結界に金銀と宝石類をしまい込んでから食堂に行った。


 のんびりと朝食を食べていると、ヴィヴィアンがジェームズとクラークがはめている腕輪に目ざとく気がついた。


「ナニソレ、キレイ…」


 オレは『念話』でヴィヴィアンに言った。


『腕輪については何も言わないで!、あとでちゃんと説明するから』


『んっ、そうなの。わかったわ』


 聞き分けのいい娘は好きだよ…。まぁ何かしら宝石類をおねだりされるんだろうけどね。


 そのまま食事を終えて、オードリーとヴィヴィアンにオレの部屋に来てもらった。


 二人が部屋に入ると「家族だけで話したいことがあるから」と言って部屋までついてきたメイドたちには廊下に出てもらった。


 部屋のドアと窓を結界で封鎖して風魔法で遮音を発動させた。


 スムーズに発動できるから、ミスリルの杖の効果はバツグンにいいね。造って良かったよ。


 オレは二人に言った。


「また他人には言えないモノができてしまいました。これからは『念話』でお話ししますね」


 オレは保管用の結界からウロコの腕輪を取り出して、オードリーとヴィヴィアンに渡した。


『コレは老龍エルダードラゴンウロコを加工した腕輪です。左腕にはめてみてください』


 二人は腕輪をはめてそのキラキラした輝きとツヤツヤした手触りに満足そうだった。


『綺麗でしょう。装飾品として使えるし、魔法を発動する時の補助具としての効果もあるんですよ』


『ただし、他人に知られると欲しがられるし、なにかとめんどくさい話しになりそうなので、袖口から出さないで欲しいのです』


『えー、こんなに綺麗なのに、他人には見せちゃいけないのぉー』


『ヴィヴィアン、それを欲しい人は多いし高価なモノだからね。見せびらかすのはやめておいたほうがいいんだよ』


『アラン、魔法を発動する時の補助具ってどういう意味なの?』オードリーが訊いた。


 オレはミスリルの杖を右腕の袖口から抜いて、保管用の結界に収めてから左腕の袖口をまくってウロコの腕輪を見せた。


『使いたい魔法を頭の中でしっかり意識して、この腕輪に魔力を流すと、今までより強い魔法が使えるようになります。補助具といったのは正しくは魔法効果を増幅させる効果がある道具という意味です』


『増幅…?』


『例えば、ヴィヴィアンがお風呂を光魔法の浄化でキレイにするときに使う魔力を少なく時間を短くできるということだよ』


老龍エルダードラゴンウロコにそんな効果があるとは帝立学園では学ばなかったわ』


『確かに魔法大辞典にもそのような記載は有りませんでしたが、本当にそうなのか、あるいは剣や武具に加工されたウロコを手に入れた者がその効果については秘密にしている可能性も考えられます』


『とにかく、その腕輪を使えばお母様は風魔法、ヴィヴィアンは光魔法が今よりうまく使えるようになるということですが、使いこなすためには練習を重ねないとダメですね』


『あら、じゃあヴィヴィアンにはお屋敷の内外をキレイにするために浄化魔法をいっぱい使ってもらわないとダメね』


 ゲーッという顔をしたヴィヴィアンに、鬼ドリーは笑いながら言った。


『魔法がうまく使えるようになるためには、たくさん練習しないとね、お・ね・え・さ・ま』


『お母様もアランもキライ…』


 しょんぼりした顔のヴィヴィアンにオレは言った。


『あれー、そんなことを言うんだぁ。老龍エルダードラゴンがくれた宝石類を見せて上げようと思っていたのになぁ…』


 オレはミスリルの杖を保管用の結界から取り出して、中にある宝石類をチラリと見せてから結界を張り直そうとした。


 ヴィヴィアンはオレの腕をガッシリつかんで言った。


『や・れ・ば・い・い・ん・で・し・ょ!』


『だから宝石を見せてよ!』


 オレはオードリーと目を見合わせて笑いながら言った。


『今は見るだけだよ。ちゃんと練習したらなにか装飾品を造ってあげてもいいけどね。ヘブバ男爵領の行き帰りにもたくさん練習するんだよね?』


『魔物にヒールをかけるんでしょ、わかってるわよ』


『お母様、さすが私のお姉様は覚悟が違いますねぇ』オレがニヤニヤ笑いながら言うと、オードリーが言った。


『アラン、あまりヴィヴィアンをいじめちゃダメよ』


 いやいや、アナタもニヤニヤ笑ってらっしゃいますよねぇ。


 私なんぞ鬼ドリー様の足元にも及びませんですよ。


 オレが結界テーブルを造って、その上にダイヤモンド・ルビー・エメラルドなどの宝石類を置くと、オードリーとヴィヴィアンは宝石を手にとって光にかざしながら目をキラキラ輝かせていた。まだざっくりと削っただけなのに、宝石には女性を魅了する力があるんだなぁと思った。


 オードリーはミスリルの杖にも興味があるようで、老龍エルダードラゴンのヒゲを芯材にしてミスリルで包みこんだ杖を握ってその感触を確かめていた。


 老龍エルダードラゴンウロコを巻きつけると言うと、うまくできたら私にも造ってねとおねだりされた。


 もちろんヴィヴィアンにもだ。


 ヘブバ男爵領に行く前に造れたらいいけどね。期待しないで待っててチョンマゲ。


 


 

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