第148話 不死鳥と老龍:③

 アンドリューはグレゴールとのんびりトークを続けながら、帝都の方角を見た。


 土煙が上がって爆走してくる馬や馬車を感知したし、馬車の中にはあの者が乗っているのも感知できたが、到着するまでにはまだしばらく時間がかかりそうだ。


 んー、このままグレゴールと待っているのもヒマであーるな。


 よし、サリーエス様の立像ができたら、また美味しいモノを食べれるだろうが、我も何かお供えを狩ってくるのであーる。


『我は魔物を狩ってくるのであーる』


『ここで?、今から狩りに?』


『そうであーる、サリーエス様の立像ができたらお供えするのであーる』


『それはいい考えなのじゃ。ワシはここで人族を待っているのじゃ』


 アンドリューはフワッと身体を浮かせると、はるかに見える山脈に向かって猛スピードで飛んでいった。


 グレゴールは土煙を上げて近づいてくる集団に気がついていたが、まだ距離が離れているので、トグロを巻いてそれに頭を乗せて寝始めた。


 オレは馬車の中でのふて寝に飽きたので、窓から外の風景を眺めた。なだらかな平原に森林が続いている牧歌的風景だが、それも見飽きた。


 オレは馬車から降りて飛んでいくことにした。


 御者席側の小窓を開けて「御者さ〜ん、馬車を止めてくださ〜い」と呼びかけてみた。


 馬車はゆっくり止まった。


 ドアを開けて馬車から降りると、警護の騎士が馬から降りて話しかけてきた。


「アラン様、どうされました?。ご気分が悪いのですか?」


 チッ、いきなり屋敷から拉致されて馬車に押し込められて気分上々なはず無いだろうがよぉ。


 まぁめんどくさいからこのまま鍛錬場に行くか。


「私は飛んで行きますので、皆様はこのままお進みください。鍛錬場の手前で待機してくださるようお願いいたします。生命の危険がありますので、間違っても鍛錬場の中にはお入りにならないようにご注意ください」


「いや、アラン様…、それはどういうことでしょうか?」


 騎士たちが当惑しているのをガン無視して、オレは柔らか結界でバイクのタンデムシートを造ってまたがり、流線型のカチカチ結界で包みこんでから、風魔法で浮かせて鍛錬場に向かって飛び出した。


 風を切るキュィーーンという音が気持ちいいーー!。


 謁見の後は、ほとんど屋敷にカンヅメ状態で次から次へとおとずれてくるお貴族様たちの相手をしていたから、かなりストレスが溜まっていたようだ。


 あっという間に鍛錬場の外壁が近づいてきたが、鍛錬場にいるのは想像していたドラゴンではなかった。


 オレは王家の紋章に描かれていた羽根の生えたトカゲ…ティラノサウルス的なモノを想像していたが、そこにいたのは大きなヘビだった。


 いやアレはヘビではなくて、前世で見た覚えのあるカナヘビ…尻尾の異常に長いカナヘビかな?。


 それとも中国の皇帝の象徴とされたかな。


 じゃあオレが想像していたのは恐竜だから、か。


 ドラゴンと一言で言っても、では大違いだな。


 まぁどちらでもいいけどね。


 鍛錬場にいるドラゴンはトグロから頭を持ち上げると、いきなりオレに向かって大量のアイスランスを撃ち込んできやがった。


 あー、そうですか、そう来ますか。


 ではお返しをしないといけませんねぇ…ニヤリ。


 オレはドラゴンの頭上に高速回転するドリルの刃の形状で直径三十㌢長さ二㍍のファイヤーランスを五十本出して、新幹線のスピードで撃ち下ろした。


 ドラゴンが撃ってきた氷の槍はカチカチ結界に付与した魔法反射の効果で、すべてドラゴンにはね返っていった。


 ドラゴンは身体全体を包む氷の壁を作り出すと、火の槍と氷の槍をはじいた。


 おぉー、やるねぇ。そうじゃなきゃ面白くないよね。


 オレは身体を包んでいるツナギ結界を解除した。


 近くには誰もいないから、魔力と神威の全開でやらせていただきますよ。


 オレは神威でドラゴンの頭頂部・口・鼻・目・耳にマーキングすると、それをターゲットにして火の槍を至近距離から撃ち込み、その火の槍のすぐ後ろに造った高速回転するドリルの刃の形状のアースランスを続けて撃ち込んだ。


 続けてドラゴンの頭上めがけて、上空一㌔の高さから直径五㍍長さ五㍍の土の円柱を十本、神威で造って新幹線のスピードで落とした。


 火の槍・土の槍・土の円柱が氷の壁にぶつかってズコン・ドスン・バコン・バキーンと大きな音を立てた。


 追加で上空から土の円柱を十本、さらに十本、もう一回十本…と思ったら、氷の壁はガシャガシャと崩れた。


 神威+スピード+重量+数の暴力でドラゴンの守りは崩れた。


 身体全体が氷の破片におおわれ、周囲の地面も砕けた氷の破片で覆われているが、ドラゴンはまだやる気マンマンでオレをにらみつけているので、土の円柱を消して違うモノを落とすことにした。


 カナヘビちゃん、キミのお得意の魔法で、逆にキミは不利になったのだよ。残念だったね。


 オレはサリーエス様との特訓で練習した、サリーエス様の得意技を使うことにした。


 『神雷ブリッツ』…オレは静かに口に出して技の名前を言うと、右手をドラゴンの尻尾に向けて神威を放出した。


 いきなり上空から巨大な稲光がドラゴンの尻尾に落ちた。


 ピカ・ドーーーンという激しい音と地面を揺らす振動に遠くの森から魔物?、動物?の鳴き声が聴こえた。


 ドラゴンは尻尾に落ちた雷から全身に感電して、白目を向いて痙攣している。


 落雷ポイントになった尻尾は黒コゲだ。


 オレはしばらくそのままドラゴンの様子をうかがったが、どうやら感電ショックで気絶しているようだ。


 オレはドラゴンの身体全体を神威で造ったカチカチ結界で包みこんでから、ドラゴンの頭部に近づいていった。


 はるか遠くの山脈からギョェェェェェェェーーー!!!と甲高い鳴き声を上げながら不死鳥フェニックスが猛スピードで飛んできた。


 片足に大きな黒い熊、もう一方の足には大きなオークをつかんでいる。


 不死鳥フェニックスは鍛錬場の上空でスピードを落とすと、オレのそばに静かに舞い降りたが、かなりあせっているようだ。


『おい!、アンドリュー。お前とコイツは何をしに来たんだ?』


『いや、これは…。わからないのであーる』


『んー?、わからないってなんだよ』


『いや…、どうしてグレゴールは気絶しているのであーるか?。サリーエス様の御力が使われて、『神雷ブリッツ』がグレゴールに落ちたのであーるか?、サリーエス様がお怒りなのであーるか?』


『いやオレが神威で『神雷ブリッツ』をこのカナヘビに落としたんだよ。コイツがいきなりオレに向かって氷の槍を撃ち込んできたから、お返ししたんだけどね』


『我とグレゴールはソナタにサリーエス様の御姿を写した立像を造ってもらおうとやってきたのであーる。その素材になる鉱石もたくさん持ってきたのであーるよ』


 オレは鍛錬場の中を見渡した。たしかに大量の鉱石が散らばっているし、ドラゴンウロコもあるな。


『オレに頼みたい事があって来たヤツが、どうしてオレを攻撃してくるんだよ』


『わからないのであーる。我はサリーエス様の立像ができたらお供えするために魔物を狩りに行っていたのであーるよ』


 オレとアンドリューが顔を見合わせて、首をひねっているとドラゴンがいきなりドタバタ暴れ始めた。


 顔を見ると必死になって鼻と口を開けているが…息ができない…?。


 あっそうだよ、カチカチ結界に穴が開けてないから、酸欠状態で窒息しかけてるんだ。


 ハハハハハハ、ゴメ〜ンね。


 オレは鼻と口をおおっている結界を解除して呼吸ができるようにした。


 ドラゴンはゼェゼェ荒い息を吐きながら言った。


『殺す気かぁ〜〜!!!』


 


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