第143話 アンドリューの置き土産:④

 オレは結界の中に残る神威を吸収して結界を解除した。


 窓を封鎖していた結界を解除して、結界マジックハンドで窓を全開にして、風魔法で室内の空気を入れ替えた。


 風魔法で身体を浮かせて庭をのんびり眺めながら、サリーエス様とお話したことを思い返した。


 この世界の文化や文明を進めるキッカケかぁ…。


 それにはこの世界の文化や文明のレベルを知る必要があるが、箱入り幼児のオレは屋敷の外に一人で出たことが無いから、どの程度まで文化や文明が進んでいるのか調べる必要があるな。


 母親オードリーに宝飾店に連れて行ってくれと言ってあるから、そのついでに帝都の市場や商店街にも行ってみようかな。


 護衛と一緒なら行かせてくれるだろう。


 王城に行く馬車からチラッと見た限りでは、街並みや人々の服装には中世ヨーロッパ風の雰囲気があったから、実際に歩いて見て回れるといいなぁ。


 あとは帝王や王族たちがどういう反応をしてくるかだが、オレのことは忘れてくれ…は無理かもしれないが【触るな!、キケン!】とでも思っていてくれると面倒くさいことにならなくていいんだけどね。


 オレに日本語で話しかけてきた転生者王子も、オレのことは忘れてくれないかなぁ…。


 どうしてオレが元日本人の転生者だと気がついたかはわからないが、変な同郷意識で近づいてきて『帝王になるために力を貸してくれ、同じ元日本人だろう』なんて言われても迷惑だから『ニホン…テンセイ…ナニソレ、オイシイノ…』とか言ってすっとぼけるかガン無視するのが得策かな。


 あるいは、確証が無いからカマをかけてきたのかもしれないが…。


 オレがアレコレ考えていると、誰かが部屋のドアをノックした。


 ドアを封鎖している結界を解除して「はーい、なぁに〜?」と返事をすると、メイドのマリアが部屋に入ってきて言った。


「アラン様、ご当主様が執務室に来るようにとお呼びです」


「うん、わかった」


 オレはマリアと一緒に父親ジェームズの執務室に向かった。


 しきりに王城での謁見についていてくるマリアに『あぁ…』とか『うぅん…』とか適当に返事をしながら廊下を歩いた。


 だってマリアはどこかの誰かにオレの情報を流しているから、本当のことは言えないよ。


 赤ん坊の頃から世話をしてくれていることには感謝しているけれど、誰かのためにオレのことを探っているのには納得していないというか、気持ちの整理がついていないからね。


 なるはやでジェームズやオードリーにどういう対応をすればいいのか相談しないとダメだな。


 ジェームズの執務室に入ると、そこには家族全員とドナルドおじいちゃんにアーノルドおじさん・リンドおじいちゃんがオレを待っていた。


「おう、来たかアラン。今日の謁見はなんとか終わらせたが、疲れただろう?」とドナルドおじいちゃんが訊いてきた。


「はい、とても疲れました」


「まぁ、これでしばらくは王城も静かになるだろうが、貴族たちがうるさくなるな…」とアーノルドおじさんが言った。


「もう帝王陛下や王族の方たちにはお会いしたくないですね」


 オレがそう言うと、ジェームズが言った。


「アランがそう言うのはわかるが、また呼び出されたら行かなくてはダメだからなぁ…」


「拒否すると不敬罪で処刑されてしまいますかね?」


「拒否すればそうなるだろうが、アランに何か無理強いすると神罰を下されるもしれないから、帝王陛下や王族の方たちも慎重になるだろうが…、なんとも言えんな」


 ドナルドおじいちゃんは複雑な表情で言った。


 祖父として孫は守りたいが、ガーシェ大帝国の貴族としては帝王陛下や王族の命令にはそむけない。


 オレのせいで苦労をかけるのは心苦しいが、いたしかたないな。


「貴族の方たちがうるさくなるというのは…」とオレが言うと、アーノルドおじさんが言った。


「アランと面会したいという申し入れが複数きているのだよ。アランと面会して知己を結んではくをつけたい程度なら可愛いものだが、アランを婿に迎えるとか息女と婚約を結びたいとかもあるのだろうな」


「貴族の方たちには会わなくてはいけませんか?」


「コーバン侯爵家やヘンニョマー侯爵家と繋がりのある貴族とは会ってほしいが、そうでない貴族とは極力会わないか挨拶程度でおさめてもらうが、すべてを拒否するのは無理だな」


「しばらくは我慢してくれ」


 ドナルドおじいちゃんが言った。


「わかりました。貴族の方たちとの面会はドナルドお祖父様におまかせします」


 オレはため息をついて言った。


「私がうから、安心しなさい」


 オードリーがそう言うので、オレは逆に心配になった。


 めんどくさいことを言い出す貴族にはオードリーが鬼ドリーになって、ぶっ飛ばしちゃうかもしれないからオレがなだめないと収まらないかもしれない…。


 オレが貴族たちをぶっ飛ばす鬼ドリーを想像して笑うと、オードリーが言った。


「アラン!、何か失礼なことを考えているわね!!」


「いえいえ、お母様、そんなことはございませんよ」


 オレがあせって言うと、オードリーはジトーとした目でオレを見た。


 やべぇ〜、ここで鬼ドリーが出てくるのかよ。


 油断も隙もないなぁ…。


「私に対する婚約話もあるでしょうが、クラークやヴィヴィアンにも縁談が殺到するのではないでしょうか?」


 それを聴いてクラークとヴィヴィアンはゲーっという顔をしたが、ジェームズとオードリーは深いため息をついた。


「そちらもすでにお話がきているのよ」オードリーが言った。


「これからどんどん増えるだろうね」ジェームズもイヤそうな顔をして言った。


「私のせいでご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 オレは頭を下げて家族にあやまった。


「まぁ、それはおいおい考えていこう」ジェームズが言った。


「とにかく謁見は終わったし、リンド殿もヘブバ男爵領に戻らねばならぬから、アランにはのだが」アーノルドおじさんが言った。


 んー?、アレ…?。


 あー、アレかぁ。庭に埋めた金銀のことか。


「わかりました。今から出してきますがご覧になりますか?」


 みんながウンウン頷くから、ゾロゾロと庭に向かって執務室を出た。


 警護の騎士たちもついてきたから、オレは『念話』でジェームズに言った。


『警護の者たちは周辺の警戒をするように言ってください。アレを埋めた場所には家族だけで行きましょう』


 ジェームズはそれを聴いて頷くと、警護の騎士たちを散開させて警戒するように指示した。


 オレは家族を連れて金銀や宝石を埋めた場所に行くと、半透明の結界を張った。


 風魔法の遮音を発動させて半透明の柔らか結界でソファを造ると『念話』で家族に言った。


『この結界の中では声を出さずに『念話』でお話しします。まずはそちらにお座りください』


 みんなが柔らか結界のソファに座ると、魔力だけを使って結界粒で地下を探って金銀を精錬してブロック状にしたモノを土魔法で掘り出して、結界でテーブルを造って金銀のブロックを並べた。


 始めて見るドナルドおじいちゃんとクラーク・ヴィヴィアンはピカピカに輝いている金銀のブロックに目を奪われている。


 オレはアーノルドおじさんに訊いた。


『全部持って帰られますか?』


『ああ、そうする』


『わかりました。では持ち運べるように箱を造ります』


 オレは土魔法でブロックが二十個入る箱を造り、金三十五個と銀六十個を入れた。大型の台車も造って箱を乗せて半透明の結界で包んだ。


 かなり重たいけれど、風魔法で浮かせて運べばいいだろう。


 土魔法で穴を埋めて、訊いてみた。


『宝石はどうします?』


 『『宝石もあるの!、見たいーー!!』』オードリーとヴィヴィアンが目をキランと光らせて言った。


 ドナルドおじいちゃんもニヤリと笑って『見せてくれ』と言うので、結界粒でアダマンタイトや宝石を乗せた荷車を埋めた場所を確認してから土魔法で掘り出した。


 鉱石にかぶせている鉱石ガラを風魔法で取り除いてから、結界テーブルにアダマンタイトやダイヤモンド・ルビー・サファイア・エメラルドの鉱石を並べた。


 ドナルドおじいちゃんは宝石よりもアダマンタイトに興味があるようだ。


 オードリーとヴィヴィアンは目をキラキラとかがやかせて、ざっくりと磨いただけで、まだ輝きが鈍い宝石を手にとって光に透かして見ている。


 クラークもサファイアやエメラルドをニコニコしながら見ている。


『ねぇアラン、コレは全部アランのモノなの?』オードリーが訊いてきた。


『そうですよ。不死鳥フェニックスがくれたのです』


『あら不死鳥フェニックスを手なずけたというのは本当だったのね』


『いやそれは違いますよお母様。手なずけたわけでは無いのです。不死鳥フェニックスが手土産に持ってきたのです』


『そうなの…、コレはもっとキレイに磨くことはできるの?』


『はい、お母様の装飾品を磨いてみて、できるようになりましたから、そのうち時間ができればやりたいのですが、参考になる装飾品を見に装飾品店に行きたいとお願いしましたよね』


『そうそう、お母様、いつ行くの?』ヴィヴィアンが自分の瞳と同じく青くかがやくサファイアを手にとって言った。


『なるべく早く行かなくちゃね』オードリーも大粒のルビーをうっとりとした顔で見ながら言った。


 オードリーとヴィヴィアンが宝石を手にとってキャッキャウフフとはしゃいでいるの見ているドナルドおじいちゃん・アーノルドおじさん・ジェームズ・クラーク・リンドおじいちゃんとオレは顔を見合わせてため息をついた。


 二人が満足するまで、しばらくは屋敷には帰れないな…。


 見せるんじゃなかった…。


 



 








 


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