第134話 謁見当日:③

 謁見の場に向かう途中で神眼を使って王城にいる者たちの感情を判別して自動的にマーキングしていったが、【好意の緑・嫌悪の赤・中立の青・殺意の黒】に当てはまらない者もいる。


 オレが何者か知らない者もいるだろうし、日和見主義というか自分にとって有利かそうでないかで態度を決めようとしている者もいるのだろう。


 そういう連中は【保留の白】でマーキングしておいた。白ならソイツの態度が変わっても色をつければいいだけだからね。


 意外だったのは廊下を奥に進むにつれて、警護する近衛騎士や魔法使いたちの中に【好意の緑】がチラホラ増えてきたことだ。


 鍛錬場での『第二回騎士まつり』での出来事を聴いていて、オレの魔法の威力や結界の強固さに敬意を持っているのかな…?。


 まぁ【嫌悪の赤】じゃないならいいや。


 やがて廊下の奥にある大きな扉の前に到着した。


 扉の向こうからは大勢のざわめく声が聞こえる。


 オレは両手の結界を解除して謁見の間に少しずつ神威が満ちていくようにした。


 オレの家族には神威反射を付与した結界を張ってあるから平気な顔をしているけれど、そばにいる侍従長や警護の近衛騎士たちは顔が青ざめてきた。


 お楽しみはこれからだぜ…、オレは内心ニヤニヤしていた。


 大きな扉が開かれ、近衛騎士が大声で謁見の間にいる者たちに告げた。


「ジェームズ・コーバン子爵様御一家、アラン・コーバン様、リンド・ヘブバ男爵様、ご入場です」


 ざわめきが一瞬大きくなって、水を打ったように静かになった。


 オレたちは軽く一礼して謁見の間に入った。


 ジェームズの後ろにオードリー・クラーク・ヴィヴィアン、その後ろにオレ。最後にリンドおじいちゃんが続いた。


 ジェームズは侍従長に先導されて中央に進み、オードリー・クラーク・ヴィヴィアンは控えていた侍従に先導されて謁見の間の壁際に誘導され、オレは別の侍従にジェームズのあとに続くように誘導された。


 リンドおじいちゃんは壁際の末席の位置に誘導されそうになったので、オレが右手を掴んで止めた。


『お祖父様、私と一緒にいてください』


『いや…ワシ…は…爵位が…』


『一緒にいてください』


 オレは結界で包んだリンドおじいちゃんの身体を風魔法で軽く浮かせて、引っ張っていった。


 リンドおじいちゃんは焦った顔をしているが、身体が浮いている状態で手を引かれているのでされるがままだ。


 末席に誘導しようとした侍従が止めようと動いたので、オレが軽く神威をぶつけてやると、侍従は顔が青ざめてその場に立ちすくんだ。


 オレはジェームズを追うように中央に進みながら、集まっている者たちを神眼でマーキングしていった。


 ほとんどが【嫌悪の赤】だが、チラホラ【好意の緑】や【中立の青】に【保留の白】が見えるな。


 ご夫人方に【嫌悪の赤】が多いのは、オードリーとヴィヴィアンが身に付けている装飾品と自分のモノを見比べて嫉妬しているのかな?。


 ご夫人方が身に付けている装飾品に付いている宝石はオードリーやヴィヴィアンのモノと比べるとショボいし、輝きも足りないからしかたないか。


 ジェームズを先頭に謁見の間の中央に進んだオレたちは、侍従長の合図で立ち止まった。


 侍従長はオレがリンドおじいちゃんの手を引いて一緒に来ているのを見て驚いた顔をしたが、オレたちに近づいてきて言った。


「ジェームズ・コーバン子爵様とリンド・ヘブバ男爵様はここでお待ちください。アラン・コーバン様はわたくしに続いてください」


 オレはリンドおじいちゃんを浮かせていた風魔法を解除して言った。


『お祖父様は父上と一緒にここで私を見守っていてくださいね』


 オレがニッコリ笑うと、リンドおじいちゃんは観念したようにうなづいた。 


『まったく…生命が…縮む思いだ』


『孫の頼みです、頑張ってください』


 ジェームズは微かに首を振っている。


 オレは侍従長にうながされてさらに前に進んだ。


 オレの前には階段状に高くなったステージがあり、最上部に玉座、その下の段に椅子が数脚並べられていた。


「ここで帝王陛下のご入場をお待ちください」


 オレは軽く頷くと、謁見の間に充満するように神威を解放していったが、ステージの左右にサマダン・ヘンニョマー公爵とドナルド・コーバン侯爵やオリバ・ヘンニョマー侯爵が立っているのが見えた。


 彼らやそのまわりにいる者たちは【好意の緑】なので、ソーッと神威反射を付与した結界で包んであげた。内側に神威放出も付与したから、顔色が少しづつ良くなってきた。


 謁見の間の片隅には白いローブの一団が控えている。聖職者たちか…。


『創造神サリーエス様の加護』を授かったオレを見て感激しているのか【好意の緑】ばかりだが、ひときわ輝く【好意の緑】がいるな…、アイツは聖騎士じゃないか?。


 ピカピカ光ってる聖騎士の鎧に負けないくらいの輝く笑顔でオレを見ているよ。鍛錬場でトランス状態になって快感を覚えてしまったから、オレを見て脳内麻薬物質がバンバン出ているのかな。


 まぁ聖職者や聖騎士なら神威を感じられることは至福に思うだろうから、結界はナシでいいね。


 聖職者たちの先頭にいるマローン大司教も【好意の緑】でニコニコ笑っているけど、コイツはオレを取り込んで自分が枢機卿になりたい…さらに上の地位にって考えているのはわかっているから、気をつけないとダメだな。


 オレはマローン大司教のマーキングを【嫌悪の赤】に変えておいた。


 ふとまわりを神眼で見渡すと、アチラコチラで頭を押さえたり気分が悪そうな顔をしている者が増えてきた。


 まだ神威は充満してないのに、どうしたのかな?と思って神眼で見ると、鑑定魔法を使った者が魔法反射を喰らったようだ。


 ガーシェ大帝国の貴族たちが着ている礼服とは違うデザインの礼服を着ている一団に多いから、周辺諸国から来ている大使たちかな。壁際に並んでいる魔法使いのローブを着ている者たちも苦しそうだし、裕福そうな連中…商人たちも頭を押さえている。


 魔法やスキルで鑑定しようとした連中だな。


 オレは魔法反射を強めて、さらにスキル反射をイメージして結界に魔力を込めた。


 その連中を見てザワザワし始めた謁見の間に大きな声が響いた。


「ガーシェ大帝国帝王アレングラード・モノ・グランディエール陛下、第一王子アレックス殿下、第二王子アローンゾ殿下、第三王子アバンロ殿下、第一王女アメリア妃殿下、第二王女アイーダ妃殿下のご入場です」


 誰が大声を出したのか神眼で確かめると『宰相:オイマール・ヤンガー公爵』と読み取れた。マーキングの色は【保留の白】だ。


 ふーん、保留ねぇ…。オレを見定めてから決めるってことかな。まぁいいや。


 その場にいる全員が、男性はひざまずき、女性はカーテシーで出迎える中をステージ中段の扉から帝王を先頭に王子たちと王女たちが入場してきた。


 帝王が玉座に座ると、王子たちと王女たちも玉座の下に並べられた椅子に座った。


 神眼で見ると、第一・第二王子と第一・第二王女は【嫌悪の赤】、第三王子は…【保留の白】…。


 そして帝王は【中立の青】。


 王族全員がオレをなんとか利用してやろうと考えていると思っていたが、違うんだ…。


 帝王は真っ赤っ赤だと思っていたのに、なんか拍子抜けだな。


 謁見の間にいる者たちは、帝王が「面を上げよ」と言うのを待っていた。


 その後に宰相が「一同の者、帝王陛下のお言葉である。面を上げよ」と言う段取りなのに、どうしたのかな?。


 オレは身体を締めつける圧力とピリピリとした刺激を感じた。


 神眼で見ると『王の威厳・威圧』らしい。


 謁見の間にいる者たちは顔色が悪くなってきて、両膝を床について息が荒くなってきている。


 王子たちや王女たちもつらそうに椅子にもたれかかりはじめた。


 オレはそれを見ながら思った。


 帝王…カマしてきやがったな。


 『王の威厳・威圧』でオレをビビらせるつもりか…。


 コレはさらに強くなるのかな?。


 オレはしばらく待ったが、威力は変わらない。むしろ帝王がつらそうな顔をしてきた。


 うーんと、どーしよーかな。


 身体を締めつける圧力とピリピリとした刺激はだんだん気持ちよくなってきている。


 前世で行ったスーパー銭湯にあった電気風呂みたいに、いい感じに身体がポカポカしてきたんだけど…。


 もしかして、全力の『王の威厳・威圧』ってこの程度なの?。


 じゃあ、今度はオレの全力の神威を味わってもらおうかな。


 オレは帝王をピンポイントで狙って神威を放出し始めた。


 謁見の間に神威の清浄な圧力が充満し始めた。


 オレの結界で包まれている者たちは平気だが、そうでない者たちは息も絶え絶えでその場にはいつくばった。


 帝王は身体を震わせながら玉座から下りて、オレに近づいてきた。


 オレは静かに顔を上げて、神眼を帝王に見せてやった。


 帝王は雷に撃たれたように身体を大きくビクつかせて、オレの神眼を見ていた。


 




 


 


 

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