第121話 第二回騎士祭り…だよね…?

 オレが鍛錬場に集まってザワザワしている騎士たちや魔法使いたちを呆気あっけにとられて見ていると、ジェームズが近づいてきて言った。


「アラン、大丈夫なのか?。フェニックスは飛び立っていったけど…帝都に危害を与えることは…ないよな…」


「お父様、何も問題はありません。ご心配には及びませんよ。フェニックスはもう来ないでしょうから…」


 あのアホゥドリのことだから確証は無いけれど、しばらくはサリーエス様のミスリル立像をながめてニマニマしているだろうから、大丈夫だろう…なぁ。


 オレがジェームズと話していると、我こそは!…と言わんばかりに肩に力の入った騎士たちが集まってきた。


 その中の一人は「私はオチョーキン公爵家騎士団のナンチャラ・カンチャラ…」「私はヤンガー公爵家騎士団のウンタラ・カンタラ…」「私は∇∈∑∏公爵家騎士団の∃∅∇⊕・∈∌∨⊄…」「私は⊇≫%侯爵家騎士団の$℃£⁇・∆π※&…」


 騎士様たちゴメン、悪いけどアナタたちの所属している貴族家の家名とか名前は、めんどくさいから覚える気は無いし、聴く気も無いから。


 オレが適当にうなずいていると、その騎士たちをかき分けてガタイのいいひときわ光輝く鎧に流星マークをこれ見よがしにつけた騎士がオレの前に来て、ひざまずいた。


「『創造神様の加護』を授かられたアラン・コーバン様にご挨拶申し上げたく、帝都中央教会より参上いたしました。聖騎士のアヤーボ・ノクテーでございます。アラン様のご尊顔を拝し奉り恐悦至極でございます。どうぞお見知りおきをお願いいたします」


「創造神サリーエス様の加護を戴いているとはいえ、まだ若輩者のわたくしに聖騎士のアヤーボ・ノクテー様からご丁寧なご挨拶をいただきましたことは大変名誉なことと存じます。まことにありがとうございます」


 オレは声を風魔法に乗せて、大きな声で『創造神サリーエス様』が集まった者たちにハッキリくっきり聞こえるようにした。どうせコイツはオレをなんとかして教会に取り込んでやろうと画策しているヤツラの手先なんだから、オレがオイシク利用してあげるよ。


 周りにいる者たちはザワザワザワとそこかしこで話し始めた。


 それまで黙ってうなずいて挨拶を受けていたオレが聖騎士には返答したことと、創造神様の御名前を『サリーエス様』とハッキリ口にしたことが衝撃だったのだろう。


 オレは身体を風魔法で浮かせて、周りの者たちを少し見下ろす位置に立つと声を風魔法に乗せて遠くまで聞こえるように大声にして言った。


「お集まりのみなさま、本来ならばみなさまお一人お一人とご挨拶をするべきですが、高いところからのご挨拶でご容赦ください」


「わたくしはジェームズ・コーバン子爵家次男アラン・コーバンでございます」


「わたくしは『創造神サリーエス様』から加護を戴いております。そしてサリーエス様から大切なお役目も与えられています」


「そのお役目を果たすためには、みなさまのご助力が何よりも必要でございます」


「どうか、みなさまの寛大なお心を持ちまして、創造神サリーエス様の願いをかなえていただきたいと思う所存でございます」


「みなさまは、先ほどからわたくしがサリーエス様の御名前を口に出してお呼びしているのにお気づきでしょう。長らくサリーエス様の御名前を口に出して呼ぶことは『禁忌』とされていました」


「しかし!、それは間違いなのです!!」


「詳細は省きますが、サリーエス様が聖サリーエス神教国に神罰を下された時に神託としておっしゃったのは『国の名前にサリーエスを使うことを禁忌とする』なのです」


「それが間違って伝えられて、サリーエス様の御名前を口に出して呼ぶことも『禁忌』であるとされてしまい、それが定説となっているのです」


「あらためて申し上げます」


「サリーエス様の御名前を口に出して呼ぶことは『禁忌』ではありません」


「この場をお借りして、お集まりのみなさまでサリーエス様の御名前を口に出してお呼びしたいと思います」


「みなさま、わたくしの後に続いてください」


「創造神…、はい!」


 その場にいる者たちはオレの剣幕に押されて「創造神…」と力無く言った。


 オレは目の前でひざまずいているアヤーボ・ノクテーに向かって言った。


「聖騎士アヤーボ・ノクテー様、大きなお声でお願いいたします、創造神様!、はいっ!!」


「創造神様」アヤーボは自信なさげに言った。


「アヤーボ様、もっと大きな声で!、創造神様!!、はいー!!!」


「創造神様!!!」アヤーボはヤケクソになって大声を出した。


 へへへへへ、よーしよし、いいぞ〜〜!。


 アヤーボさんよぉ、お楽しみはこれからだぜ。



「元気があってよろしい!、サリーエス様も誇り高き聖騎士アヤーボ・ノクテー様から大声で呼びかけられてお喜びでしょう。みなさまもアヤーボ様に続いて大きなお声でお呼びしてください。創造神様

!、はいー!!」


 その場にいた者たちはだんだん雰囲気に飲まれてきて、大声を出し始めた。アヤーボはオレが言った創造神様が喜んでいるというのを真に受けて恍惚とした表情をしている。


 よーし、もう一押しするベエ。


「みなさま、みなさまのお気持ちは創造神様に届いていますよ!。では御名前を口に出してお呼びしたいと思います!!」


「サリーエス様!、はいっ!!」


 これは不死鳥フェニックスが帰ってくる前に口に出して言わせた騎士たちや魔法使いにジェームズだけが言った。


 やはり抵抗感があるか…、でもそういう時のために、オレたちの聖騎士様がいらっしゃるのだよ…ニヤリ。


「誇り高き聖騎士のアヤーボ・ノクテー様、創造神サリーエス様を信仰するお気持ちはこの場にいる誰にも、いやこの国にいる者たちの誰よりも深く強いものだと思っております。まずはそのアヤーボ様に大きなお声でサリーエス様の御名前を呼んでいただきたいと思います。アヤーボ様お願いいたします」


 アヤーボは恍惚とした表情のままで、うわ言のように「サリーエス様」と言った。


「もう少し大きな声で!」


 オレはアヤーボの声を風魔法に乗せて周りの者たちに聞こえるようにした。


「サリーエス様ー!」とアヤーボが叫んだ声は遠くまで響き渡った。周りの者は神罰が下るのでは無いかとヒヤヒヤしながら見ているが、何も起こらない。


「みなさま、ご覧のとおりサリーエス様の御名前を口に出しても『禁忌』では無いのですから、サリーエス様のお叱りを受けることはありません」


「ではみなさまも大きな声で御名前をお呼びください。サリーエス様!、はいっ!!」


 今度は少し大きな声で呼ぶようになった。


 トドメの一押しをするよ。


「魔法使いのみなさま、騎士の方々で身体強化などで魔力をお使いのみなさまに申し上げます。詠唱の中で創造神サリーエス様の御名前を口に出してお呼びして魔法や魔力を使うと、いまより大きく威力のあるものが使えるようになります。もちろん御名前をお呼びすることだけですべてがうまくいくわけではありません。練習や稽古を重ねて行く必要があります。しかし着実にうまく使えるようになるはずです」


「ですからそういうみなさまにこそ、創造神サリーエス様の御名前をお呼びしてほしいのです」


 オレを取り囲んだ騎士や魔法使いたちの目がキラーンと光った。誰しもが強くなりたい、うまく魔法が使いたい、御名前を口に出してお呼びすることで、それが叶う道が開けるなら…、騎士や魔法使いたちは心を決めた。


「それではみなさまご一緒に、サリーエス様!、はいっ!!」


 オレのトドメの一押しが効いたのか、ほとんどの者が大声を出すようになった。


「創造神サリーエス様!」


 もう御名前をお呼びすることにためらう者はいない。


 オレは右手の拳を握りしめて、小さくガッツポーズをした。もう放っておいても大丈夫だな。


 オレは念押しでもう一度言った。


「この場にいるみなさまが創造神サリーエス様の御名前をお呼びして鍛錬に励まれることを切に願います。サリーエス様の御名前を呼んで、たゆまぬ努力を続けることが、みなさまをいまよりもはるかな高みに連れて行くことでしょう。創造神サリーエス様への感謝のお気持ちをお忘れなくお願いいたします」


 オレが周りの者に頭を下げると誰かが「アラン!、アラン!」と叫び始めた。それに周りの者たちが合わせるようになって「アラン!、アラン!、アラン!…」という大合唱になった。


 いやいや、オレの名前を呼んでもらってもねぇ…。


 オレはサッカーや野球を観戦している連中が誰かの名前を連呼している雰囲気になった鍛錬場を見ながら『コレはどうやって鎮めるのがいいのかな…』と考えていたが、コーバン侯爵家の馬車からアーノルドおじさんが下りてくるのが見えたので、丸投げしちゃうかと思い、オレの名前を呼んで興奮している連中の頭の上を風魔法で飛び越えて、アーノルドおじさんの近くまで行った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る