第111話 没落寸前の男爵家を救え:①
朝食後には手配していた仕立て屋が屋敷にやってきた。カイゼルヒゲが似合うダンディなオジサマとメガネの奥の目がコワイおば…おねえさまだ。
オレは問答無用で下着姿にひん剥かれ、身長や首周り・胸回り・腹回りや腕や脚の長さを測られた。股間をツンとされて測られた時にはエリンギがキュンとなったよね。
その横でオードリーやヘレンにマリア、ヴィヴィアンも生地見本や礼服の下に着るドレスシャツの見本絵を見て、コレがいいソレがいいだのキャイキャイ言ってはしゃいでる。一緒に礼服を作ることになったクラークも下着姿でオジサマとおねえさまにされたい放題…。
ダレカタスケテ…。
オレは形式的に好みを訊かれたので、上着とズボンのデザインと色はおまかせしたが、ドレスシャツの襟元と袖口のフリルは断固として拒否した。
女性陣はなんだかんだと言い出したが、オレは上着とズボンはおまかせのままにしたのだからと言ってフリル拒否は譲らなかった。
漫画のベル◯らとか映画の「バ◯ー・リン◯ン」で見た『お貴族様でございます』風はなんか恥ずかしいよ…。
あまり時間が無いので今回はそれで収まったが、女性陣はオレにフリフリ衣装を着せたくてウズウズしているようだ…、ちかれたびー。
ちなみにクラークはオードリーの言う事には逆らわない主義なので、めでたくフリフリシャツを着ることになった。ご愁傷さま。
その後は楽しい礼儀作法のお時間で、基本の礼式はホルンから教えてもらったが、帝都騎士団副団長として謁見の場に立ち会うことが多いジェームズからも謁見の場に入場するところから、歩き方や目線の位置、
ダンスの振り付けのような所作をそつなくこなすのには結界で身体を支えるのが楽だなと思ってやってみるとうまくいったので、その状態で何度か繰り返して、まぁいいだろうという評価を受けた時には昼食時間になっていた。
昼食を済ませてオードリーの部屋でフランソワに柔らかい結界で造ったクジラや鳥やネコのぬいぐるみを持たせて遊んでいたらメイドが呼びに来た。
オードリーの父親、リンド・ヘブバ男爵が屋敷に来たので応接室に来るようにオードリーが呼んでいると言うので一緒に行った。
応接室に入ると、ジェームズとオードリーがソファに座っていて知らないおじいさんも来客用のソファに座っていた。
「お待たせして申しわけありません」と言ってオレが頭を下げるとオードリーが言った。
「紹介するわね。私のお父様、リンド・ヘブバよ。帝王陛下から男爵位を
「お前がアランか。リンド・ヘブバだ。お前の母親の父だから、血の繋がった祖父になるな」
リンドが回りくどい言い方をしたのに、オードリーはイラッとしたのか「お父様、アランは血の繋がった孫なんですから、もう少し優しくお話しなさったら?」と言った。
オレは別に気にしてないが、オードリーには何か思うところがあるのだろう。ジェームズも硬い顔をしている。
「そうか…、『創造神様の加護』を我が孫が授かったというのは、名誉なことなのだが…、初めて会うので…、ワシはいささか緊張しているようだな」
オレはニッコリ笑って言った。
「リンド・ヘブバ男爵様、ジェームズ・コーバン子爵家次男のアランでございます。お初にお目にかかります」
「アランも座りなさい」とジェームズがリンドと対面する位置に置かれたソファを指さした。
オレはソファに座って目を伏せて神眼でリンドの思考を読み取った。
それは…かなり悲惨なものだった。
そもそもの始まりは先々代が参戦したガーシェ大帝国と周辺に存在した小国との紛争だった。兵士の一人として参戦した先々代はとてつもない幸運の持ち主だったのか知らないが、敵の本陣を奇襲したガーシェ大帝国兵士の一団に紛れ込んでいて、乱戦の後敵将にトドメをさすという武功を上げた。コレをキッカケとして小国はガーシェ大帝国に
先々代は武功を認められ併呑された辺境の地を領地としてあたえられ男爵位を賜った。
元から住んでいた少国民とガーシェ大帝国からの移民を合わせた領民たちは荒野を開墾し農地を広げた。
領地内にある河から大きな岩を転がしてきて叩き割り、家の基礎材や道の舗装材にした。
叩き割ると断面が輝いている岩が河の上流に多いことがわかった。細かく砕くと硬い金属を含んだ砂利になった。
試しにその砂利を集めて熱く熱してみるとドロリと溶けて金属の塊になったのでそれを叩いて伸ばして研ぐと剣が造れた。
コレは河の上流にもっとたくさんの金属を含んだ岩があるのではないか…?、そう思った先々代は造った剣と金属を含んだ砂利を帝都に送って、領地内に金属を含んだ岩があることを報告した。
折り返し帝都から調査団がやってきて河の上流にある岩を調べると、鉄鉱石であることが確認できた。
岩の出どころを探ると、河の上流に低い山があり、その山から転がり落ちてきた岩であることがわかり、その山を掘ってみると鉄鉱石の鉱脈が発見された。
その山もヘブバ男爵領地内にある。先々代は本当に幸運の持ち主だったのだ。
鉄鉱石の産地として開発が進むにつれヘブバ男爵領地も鉱夫や農民が増え、帝都との物資の交流も盛んになり商人や職人も住み着き栄えるようになった。
しかしその鉱脈も十年も経たないうちに掘り尽くしてしまった。先々代の幸運も尽きてしまったのだろう。鉱夫たちや職人に商人も去り、景気が良かった男爵領地は没落への坂道を転がり始めた。
先々代が生きているあいだは景気が良かったときの
残ったのは鉱脈の枯れた山と選鉱された鉱石のガラと、どこにも行けない農民たちだけ…。当代の男爵にはオードリーの兄が嫡男として領地内にいるが、貴族家の嫡男とは名ばかりで農民に混じって
オードリーはそんな貧乏男爵家に生まれ育った。
『神恵の儀』で授かった風魔法を必死になって習得し、入学試験だけは受けさせてくれと懇願して受けた帝立学園の入学試験では優秀な魔法使いとして認められ、特待生として優遇された。
そこでジェームズと出会った。
ヘブバ男爵領をなんとかしたいと思って風魔法や学園での学習にも必死になったが、侯爵家の三男であるジェームズが一目惚れして猛アタックしてくるのにほだされているうちに、実家への思いは薄れてしまった。
帝立学園の中等部を卒業すると同時にジェームズと正式に婚約し結婚したが、実家の男爵家からの援助のおねだりに
だから父親がアランに会わせてくれと言って帝都まで押しかけてきたのにはオードリーは怒りすら覚えている。アランの威光を借りてなんとかヘブバ男爵家を盛り上げようと思っているんだろう…。
そっとオードリーの思惑を神眼で読み取ったオレはそれを一方的に悪いことだとは思わなかった。
なぜなら神眼で探ったリンドじいさんの思惑は、領民たちが平和で幸せになって欲しいという気持ちでいっぱいだったからだ。
たしかにオレを利用してヘブバ男爵家を盛り上げたいという気持ちも見え隠れするが、それはオチョーキン公爵もヘンニョマー侯爵も帝王陛下も同じ。おそらくガーシェ大帝国のお貴族様達や教会の聖職者達もオレを取り込みたいと
オレはヘブバ男爵と話をしてみることにした。
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