第109話 モノ造りは楽しいな

 食事を終えたあと、ジェームズ・ドナルド・オリバはまだ話し合いたいことがあるというので、オードリーと子ども三人はフランソワの顔を見に行くことになった。


 オレが寝込んでいるあいだ暴れたから、フランソワはオードリーの部屋に移されてお世話をされていた。


 ほんの数週間会わなかっただけだが、フランソワは少し大きくなっているようだった。


 スヤスヤ眠っているフランソワを起こさないようにそっとプニプニの頬を撫でたオレは思った。


『オレの可愛いフランソワ、お兄ちゃんが帰ってきたよ。目が覚めたら一緒に遊ぼうね』


 オレはふと思った。イメージした機能を結界に付与できるようになったから、何かしらフランソワを守るモノを造ろう…、ついでに家族の分も造るか。


 オレはオードリーに訊いた。


「鉄が欲しいんだけど…折れた剣とかあるかなぁ?」


「鉄…?、折れた剣とかは…倉庫にあると思うけど…。何に使うの?」


「うーん、まだ決めてないけど、フランソワに魔法でおもちゃを造ってやろうかなと思ってさ」


「魔法でおもちゃを造る…、それは見せてもらってもいいかい?」とクラークが訊いてきたので頷くと、ヴィヴィアンも喰いついてきた。


「ア タ シ も い い わ よ ね 」


 ヘイヘイ、どうぞどうぞ。


 オードリーはホルンと打ち合わせしたいことがあるというので、子どもたちだけで倉庫に向かったが、屋敷の中を警護している騎士がついてきた。


 オレに向かって敬礼する騎士に面食らったが、彼らにすればオレは最重要人物なので当然のことなのだろう。軽く頭を下げてそれに答えると彼らを従える格好になって倉庫に入った。


 使わなくなった家具や何か入っている箱が積まれた倉庫の片隅に折れた剣とか錆びた槍の入った箱があった。


 オレは適当に剣の破片や槍の先を結界マジックハンドで集めると、それを庭の片隅に運んでいった。ゾロゾロとあとをついてくるクラークとヴィヴィアンに護衛たち。


「魔法を使うから危なくないように結界を張るね。騎士の方たちは周辺の警護をお願いいたします」


 オレがそう言うと、騎士たちは間隔を開けて立ち警戒体制をとった。クラークとヴィヴィアンはオレが魔法を使うのをよく見ようと近寄ってきたので、神威反射を付与した結界で身体を包んでから、オレたち三人をスッポリと包み込むドーム型結界…半透明にして外からは見えないように…を張った。


 目覚めてから地上では魔法の練習ができていないから、魔力と神威を混ぜたり、別々に使うことはまだ試せていないので、神威を使って鉄の加工をすることにした。基本は土魔法だ。鉄は元々地下から掘り出された鉄鉱石を精錬したもの、ならば火魔法と土魔法を使えば加工は容易たやすいだろう。


 オレは両手の結界を解除して、集めた剣の破片と槍の先を風魔法で浮かせてから、そのまま火魔法でドロドロに溶かして大きな鉄の玉にした。そこから不純物を燃やしたり飛ばしたりして純度の高い鉄の玉にしていった。


 造るのはコーバン家の紋章を型どったピンバッジとブローチにした。炎をバックに盾、盾の前に剣と杖をクロスさせて、子爵家を表す六芒星を三つ付けた。三㌢四方の紋章を六個造り、三つは裏にピンバッジ用のピンをつけて、残り三つにはブローチにしてドレスに固定できるようにクリップを付けた。


 すぐ錆びないように、熱を加えて黒鉄にした。


 しばらく放置して冷めるのを待つ間に、残った鉄からチョウチョの形のブローチも造った。


 それぞれに神威を軽く込めて物理防御と魔法反射を付与した結界を発動するようにした。使用する者の魔力を込めれば、その者専用の護身魔道具になるようにイメージして造ったから、いざという時には家族の身を守ってくれるだろう。


 最後に神威をしっかり込めて高さ二十㌢くらいのサリーエス様の立像を造った。


 多少美化したイメージで造ったから、サリーエス様のイケメン度合いが実物よりも上がってるかな、イカンまた怒られちゃうよ…ニヤニヤ。


 風魔法でほどよく冷やしてから、サリーエス様の立像は神威反射を付与した半透明の結界で包み込み、誰にも見えないようにした。


 両手の結界を戻して、クラークとヴィヴィアンを見ると、空中に浮いた鉄クズがドロドロに溶けて、そのかたまりから紋章や立像が造り出される一連の工程に度肝を抜かれたような顔をしている。


 二人を包みこんでいる結界を解除して「はい、コレあげる」と言って、ピンバッジをクラークに、ブローチをヴィヴィアンにあげると、シゲシゲと見ている。


「魔力を流してみて」と言うとピンバッジとブローチが光った。


「それはクラークとヴィヴィアンの専用魔道具だから大切にしてね。もう一度魔力を流すと、防護用結界を張れるよ」


 クラークに向かって「魔力を流してみて」と言うと、うっすらと身体を包み込む結界が張られた。


 クラークは自分の身体を触って言った。


「コレはアランが張った結界ではないの?」


「そうだよ、クラークがそのピンバッジに魔力を流したから結界が張れたんだよ」


「そうかぁ…。わかった、大事にするね」


 ヴィヴィアンもやってみたが、同じように張られた結界を触って不思議そうな顔をしている。


「鉄だから、そのうち錆びてしまうかもしれないので、もっといい素材が手に入ればまた造るからね。もう一度魔力を流すと解除できるよ」


 二人がピンバッジとブローチに魔力を流すと結界は解除された。


「もっといい素材か…、金銀プラチナ…ミスリルかな…。造れるようになったら頼むよ。それから先ほど造った立像は…サリーエス様なのか?。よく見せてくれないか」


「いいけど、神威をガッチリ込めたから直接は触れないよ」


 オレは立像を包みこんだ結界を透明にしてクラークに渡した。


 クラークとヴィヴィアンはサリーエス様の立像をじっくりと見てから言った。


「「素敵なお顔をしている」」


 まぁそういうイメージで頑張って造ったからね。


 オレは立像を包みこんでいる結界を半透明に戻すと、結界の箱に残りのピンバッジとブローチにチョウチョのブローチと一緒に入れてドーム型結界を解除した。


 護衛の騎士たちに「屋敷に戻ります」と言うと、また一団となってフランソワの眠るオードリーの部屋に戻った。


 フランソワは目覚めていて、部屋に入ってきたオレたちを見てキャッキャ言っていたが、オレが覗き込むとちょっとおびえたように顔をしかめた。


 しばらく合っていなかったからオレの顔を忘れちゃったのかな…。


 オレがションボリしていると、ヴィヴィアンがフランソワを抱き上げて言った。


「フランソワ、アランだよ。お兄ちゃんの顔を忘れたの?。背が伸びたから怖くなっちゃったのかな」


 フランソワはヴィヴィアンの胸に顔をうずめてオレをチラッと横目で見た。


 オレは鉄で造ったチョウチョのブローチを風魔法で浮かせて、フランソワの顔の前に飛ばしてみた。空中に浮いているチョウチョのブローチを不思議そうな顔で見ていたが、やがて手を伸ばして触ろうとした。


 オレはハッとした。鉄のブローチだからフランソワの柔らかい手で触ると傷ついてしまうかもしれない。オレは半透明の柔らかい結界でチョウチョを作ると、それを鉄のブローチと入れ替えて飛ばした。


 これなら傷つくことは無いだろう…。


 フランソワが喜んでチョウチョを見ているので、たくさん作って乱舞させると手を伸ばして触ろうとした。柔らかい手触りにご満足のようだ。


 調子にのったオレは結界箱を作って、その中に翼長五㌢くらいの小さな火の鳥を飛ばしてみた。


 フランソワは目を丸くして見ていたが、コレも手を伸ばして触ろうとしたので、結界箱を浮かせたままでフランソワの手に乗せてやった。


 結界箱を両手でつかんだフランソワは、箱を揺らして遊んでる。


 オレはその揺れに合わせて火の鳥を羽ばたかせたり、口を開け締めしたり、箱の中で旋回飛行させたりした。


 クラークも火魔法の参考にするつもりかジーッとそれを見ている。


 オレたち四人はメイドが『奥様がお呼びですよ』と声をかけるまで、結界箱の火の鳥で遊んでいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る