第105話 家族とノンビリトーク:②

 オレはジェームズと固く抱き合ったままで、部屋の片隅にある椅子を結界マジックハンドで引き寄せた。


「お父様、どうぞお座りください」


 オレは結界マジックハンドでテーブルに置いてあるタオルを一枚つまむと、椅子に座ったジェームズの膝に置いた。


「お父様、どうぞお使いください」


 ジェームズは椅子やタオルが勝手に動くのをジーッと見ていたが、やがて顔をタオルで拭きながら言った。


「これはアランが結界魔法で動かしたのか?」


「はい、そうです。これからお話しすることは、ここにいる四人以外には聴かせたくないので『念話』でお伝えします」


『まずは、あらためてご心配とご迷惑をおかけしたことを皆さまにお詫びいたします。創造神サリーエス様のお慈悲により生命が救われて、身体も異常が無く回復できたので戻ってまいりました。いずれはコーバン侯爵領に行きますが、それまでは皆さまと楽しくノンビリ生活できれば…と思っていましたが、そうはいかないようですね』


『まぁオードリーからも聴いているだろうが、大変な騒ぎになったよ。だがそれは騒いだ連中に問題があるので、アランが気にすることは…、んーっ、ちょっとは気にしてほしいかな』


 ジェームズは笑いながら言った。オレも笑いながら『まぁしかたないですね。有象無象うぞうむぞうが湧いてくるのは止められませんね』と言った。


『これは言うまでもないことでしようが、私の身体を依代にして創造神サリーエス様が降臨されたことで、この屋敷の内外に詳しい情報を求める者たちが集まっているようです。つまりどこかで誰かが見ていて、誰かが聴いているという現状ですので、声を出してお話しをするのは誰に聴かれてもかまわないような当たり障りのない話だけにしたいと思います』


 オレは四人の顔を見て、それぞれが頷いているのを確認した。


『これから創造神サリーエス様の大いなるお力:神威を身体に感じてもらいます』


 オレは身体にまとった結界を解除した。威厳と威圧のある清浄な力に四人は圧倒されて顔をしかめた。オレはすぐさま結界を身体に纏うと、四人の身体にも結界を纏わせた。


 ホッと息をついた四人にオレは言った。


『今感じた力が神威です。この力を使って創造神サリーエス様と私は魔法を使うことができます。みんなの身体には、この神威をはね返すことができる結界を纏わせています』


 オレは自分だけ結界を解除した。四人はキョトンとした顔をしている。オレは再び自分の身体に結界を纏わせた。


『私の結界だけを解除しましたが、何も感じなかったでしょう?』四人は頷いた。


『神威に長く晒されると死んでしまうので結界で封じ込めたり反射させないとダメなんです』


『では、創造神サリーエス様から…』と言いかけたところ、ジェームズが訊いてきた。


『アラン、先ほどから創造神様の御名前を呼んでいるが、大丈夫なのか?。その御名前を呼ぶことは禁忌ではないのか?』


『創造神サリーエス様の御名前を呼ぶのが禁忌とされているのは間違いなんですよ。サリーエス様の神託を曲解して伝わったものなんです。私はサリーエス様からその間違いを正すことをうけたまわっています』


『お父様!、サリーエス様の御名前を詠唱にくわえると魔法を使うのがうまくなるんですって!!』ヴィヴィアンがはしゃいで言った。


『アラン、それは本当かい?』ジェームズは目を輝かせて言った。


『サリーエス様の御名前を呼ぶのは禁忌ではないのと、詠唱にくわえると魔法の威力が増してうまく使えるようになるのは本当ですが、ただ御名前を呼ぶだけでうまくなるわけではありません。ちゃんと練習をしないとダメです』


 ジェームズはなるほどなと頷いていた。


『では、創造神サリーエス様から新たに授けられた魔法をご覧にいれます』そう言うと、四人はいぶかしげな顔をしたがそれにかまわずオレは風魔法で部屋の中に『遮音しゃおん』を発動した。


 オードリーが部屋を見渡して言った。

 

『これは…遮音…。風魔法じゃないの!』


 オレはニヤリと笑って四人の前に大きな結界箱を出すと、その中に小さな『火の鳥』を出して箱の中を飛び回らせた。


『これは…火魔法…』クラークが言った。


 オレはその箱の中に小石を出してカランカラン〜と音を立てた。オレはニッコリ笑って言った。


『ご覧のとおり、火・風・土・結界を使えるようになり、それらの同時発動もできます。火と風や土との複合魔法も使えますが、帝都内では危険なほどに威力があるので、それはここではお見せできません。あと鑑定魔法も使えます』


 神眼も使えます…と言おうとしたが、みんながもうお腹いっぱいな顔をしているので止めた。


 みんなは結界箱を飛び回る小さな『火の鳥』を見つめている。


『この『火の鳥』はもっと大きくできるし私の思い通りに動かせるので、かなり威力がある魔法として使えます』


『もう一つだけお教えしておきます』


 オレは目の前にソフトボールくらいの大きさの土の球を出してジェームズに言った。


『この土の球をお父様に撃ってみます。柔らかいですからよく見ていてくださいね』


 土の球をキャッチボールの速さで撃ち出すと、結界に当たって砕けた。


『魔法を反射する結界を張ることができるようになりました、やってみますね』


 ジェームズの結界に魔法反射を付与してから土の球をキャッチボールの速さで撃ち出すと、土の球はオレに向かってはね返ってきた。


『つまり魔法で攻撃されると、攻撃した者に魔法が反射されて勝手に反撃してくれるという便利なものです』


『それと、火・風・土・鑑定魔法の四つに心当たりはありませんか?』


 四人は小首をかしげていたが、やがてジェームズが言った。


『それは…あの子たちの…』


『そうです。創造神サリーエス様が神罰として取り上げられた魔法を私に対する賠償として授けてくださいました』


 四人は黙り込んでしまった。


 これがおおやけになると、またぞろ大騒ぎになりそうだな…どうやってとぼけようかなぁ…とオレは思った。





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