第32話 黒いモヤ
お披露目を数日後に控えてオレは忙しかった。普段は着ないような礼服をオーダーメイドで作ったり、行儀作法の特訓をしたりしていたので、結界魔法の練習をするヒマがない。
とりあえず各属性の初級魔法の魔法陣を〚〚転写〛〛で結界板に写すことはできたが、それを使って魔物を狩れるように使いこなすことはできていない。
新しく結界魔法の使い方を工夫できたのは、寝る前に結界で小さな球を作って周囲の状況を探ることができたくらいだ。直径一ミリくらいの結界球をできるだけまんべんなくバラまいて、オレに近づいて来る者がいれば察知できるようになった。
そのほとんどが、同じ部屋で寝ているフランソワのお世話をしているメイドたちなのだが、透明な結界球を押しのけて近づいて来るその抵抗感で気がつくようにしたのだが、相手は気がつかないからズンズン歩いてくるから、押しのけられた結界球で身体の形がわかって……それぞれの体型が……胸部装甲がハッキリとわかるムフフなものになってしまった。
礼服も出来上がり、さっそく家族の前でファッションショーよろしくお披露目したが、オードリーとヴィヴィアンが立ったり座ったり回ったりといろんなポーズを取らせるのでヘトヘトになっちゃったよ。
行儀作法もまあまあできていればいいだろうということで解放されたので、久しぶりに庭で結界魔法の標的に結界槍やバチをブチ当てる練習と初級の火魔法の魔法陣を転写した結界板を底辺にして円柱を作り、反対側を標的に向けて火炎放射器にならないかなぁと練習をしていたら、ガラガラガラ〜と車輪が石畳を踏む音がして、一台の馬車が屋敷に入ってきた。
馬車の御者席と扉の左右と後方には【炎をバックに盾、盾にクロスした剣と杖】というコーバン侯爵家一族の紋章が入っていて、紋章の下には正三角形と逆三角形が組み合わさった六芒星が四つある。
コーバン侯爵領の領主代理をしているジェームスの実姉(母親が同じ)のロザリー・コーバン女男爵の馬車だ。
ちなみに六芒星が一つは侯爵家本家、二つは伯爵家(コーバン侯爵家嫡男のアーノルド・コーバン)、三つは子爵家(コーバン侯爵家次男のリチャードと三男のジェームス)、五つはコーバン侯爵家の騎士爵位に与えられる。
ロザリー・コーバン女男爵の伴侶はミッチー・コーバン騎士爵だということをコーバン侯爵領に行くことが決まったときに教えてもらった。
ロザリーとミッチーの長男のアーネストは十二歳で、帝立学園中等部に入学することになっている。
オレがコーバン侯爵領でロザリーとミッチーの世話になる代わりに、ジェームスとオードリーがアーネストの帝都での親代わりをすることになっている。
オレのお披露目のときに、一緒にアーネストもコーバン侯爵家一族郎党にお披露目するという打ち合わせができている。
ジェームスは先ぶれで知っていたようで、軽く汗を拭うとクラークとオレを連れて馬車に近寄っていった。オードリーはヴィヴィアンを連れて屋敷から出てきて、メイドたちや使用人たちとともに出迎えの列を作った。
爵位的にはジェームスのほうが上位なのでメイドたちや使用人だけで出迎えてもいいのだが、実姉なのとオレが世話になる相手なので、家族全員で出迎えたというわけだ。
出迎えの用意ができたタイミングで馬車から黒髪の女性が降りてきた。
なにげにこの世界に転生してから初めて見る黒髪だ。
顔立ちはジェームスに似ていて、瞳も同じ
黒いモヤが身体を包んでいる…。
ロザリーは出迎えの列を
なんとなくブチ切れた感触があったので『念話』で『この人に鑑定されたよ』とジェームスとオードリーに伝えた。
ロザリーはフフフと笑うと言った。
「そうなの…、アナタがアランね。まだ
「お・
子どもといえども自分よりも高位の貴族の令息なので、承諾もなく鑑定魔法をかけるのは不敬にあたることになるからだろう。
「姉上、ほどほどにしてくださいよ」ジェームスも軽くイラッとしたようだが、実の姉弟なので遠慮はしたのだろう。
「ジェームスもそんなに怒らないでよ。アナタは子どもの頃からいつも私を叱ってばかりで、弟なのか兄なのかわからない………」
「姉上!、アーネストが馬車から降りれなくてモジモジしてますよ。早く紹介してください!」
ジェームスの言葉を待ってましたとばかりに馬車からこげ茶色の髪の男の子が降りてきた。
気を取り直して、それぞれ自己紹介をして屋敷に入った。
クラークとヴィヴィアンはアーネストと仲良く話し始めた。アーネストの使える魔法の属性は土で、コーバン侯爵領では領地内の耕作地の開墾をしたり、魔物避けの
思い切ってきいてみた。
「お・ばぁーしゃま、どーしぃてぃぇ・きゅろおぃ・もぉやーぁ・ぎゃあ・でーてぃぇ・いるにょ? (叔母様、どうして黒いモヤが出ているの?)」
「んんっ?、私は叔母でおばあさまじゃないわよ…」
「アランは叔母様から黒いモヤが出ていると言っています」ヴィヴィアンが通訳してくれた。
「あぁ…、そうなの…。黒いモヤが見えるのね。それは私の属性が闇だからよ」とロザリーが答えた。
闇魔法!、キタコレ!と思ったが実際にはよく知らないので、魔法大辞典で調べてみよう。
「わぁきゃりぃ・ましゅたぁ」オレが答えると、ロザリーはオレをシゲシゲと見て「アランは言葉がうまく出ないのね…うーん、どうしてかしらね?」
「しょーじょぉ・しぃんん・しゃぁまにゃぁ・にょぉ・きぃゃぁぎょぉ・ぎゃぁ・ちぃゆ・よぉぃ・きぃやぁりゃ… (『創造神様の加護』が強いから…)」
「んー?、まぁなんとなく言いたいことはわかったわ。コーバン侯爵領は自然がいっぱいあるから、ノンビリしていれば、そのうち…ね」
自然がいっぱいあるのか、魔物もいっぱいいるのかな。楽しみだなぁ。
オレはコーバン侯爵領に行くのが楽しみになっていて、オードリーが暗い顔をしているのに気がつかなかった。
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