第682話 まるでトーナメントのように

 9月も最終週になり、シーズンも佳境に入ってきた。

 わが札幌ホワイトベアーズは、3位の京阪ジャガーズと2.0ゲーム差と、やや離されていた。

 今シーズンも残り5試合。

 クライマックスシリーズ進出のためには、1試合も負けられない。

 ここからはトーナメントを戦うような意識で臨まなければならない。


 個人的には最多安打については、2位に7本の差をつけており、ほぼ当確となっている。

 出塁率は1位とは.021の差があるので、ちょっと厳しい。

 首位打者?

 そういえばそういうタイトルもありましたね…。


 沼沢選手のバッティングは、シーズン終盤に、更に上向き、打率は.341まで上がっている。

 僕は打率.319に落ちている。儚い夢だった…。

 こういうのをクレオパトラズ、ドリームと言うのだろうか。

(多分違うと思います。良くわからないけど…。作者より)

 

 そして今日からは京阪ジャガーズとの最後の2連戦。 

 一つでも負ければ、クライマックスシリーズ進出は厳しくなる。

 連勝が最低条件だ。


 その大事な試合で先発を任されたのは、バーリン投手だ。

 今シーズンはここまで6勝10敗、防御率4.15。

 シーズン通して、ローテーションを守ったことは評価できるが、数字的にはちょっと物足りないかもしれない。

 来シーズンの契約を勝ち取るためには、ここは負けるわけにはいかないだろう。


 そしてバーリン投手は初回から気合の入った投球を披露し、5回表まで1人のランナーも許さなかった。

 だが札幌ホワイトベアーズ打線も、エース、井村投手の前に5回までヒット1本に抑えられている。

 ちなみにその1本を放ったのは、僕だ。

 

 バーリン投手は6回表もマウンドに上がり、9番の井村投手にホームランを打たれた。

 おい、こら。


 そして6回裏。

 この回は2番の谷口からの打順である。

 打てよ、コラ。

 僕はネクストバッターズサークルから、バッターボックスに向かう谷口の背中に向けて、心の中で、生温かい声援を送った。

 

 谷口は身震いしながら、バッターボックスに入った。

 すると僕の念が通じたのだろう。

 谷口は見事にレフト線に、ツーベースヒットを放った。

 二塁ベース上で、殿、あとはよろしくお願いします、というような表情をしている。

 しもべとして、最低限の役割を果たしたことにしてやろう。

(だから何様ですか?、作者より)


 1点ビハインドで、ノーアウト二塁。

 僕はベンチのサインをみた。

 さすがに送りバントは無いと思うが、ありえなくもない。


 サインは「打っても良いけと、最低でもランナーを進めるバッティングをしてね♡」、だった。

 ということは右打ちだ。


 この小説を昔から読んで頂いている方々は、僕は入団当初から、右打ちを磨いてきたことを知っているだろう。

 ここはその能力を発揮する時だ。


 ヘイ、カモン。

 僕はバッターボックスに入り、井村投手に向かい合った。

 

 もちろん相手バッテリーもバカじゃない。

 僕が右打ちを狙っていることは、百も承知であり、おあつらえ向きの外角真ん中へのボールなんぞ投げてこない。


 内角攻めや、外角低め、そんなボールで勝負してくるだろう。

 もちろん裏を描いて、外角高めへ投げてくることもありうる。

 ここはストライクゾーンの四隅を丁寧に使って勝負してくる。


 そこまでわかっていても、打てないのがプロの球だ。

 初球、内角高めをファール。

 そして2球目の外角低めへのスプリットを空振りしてしまった。 

 あらら、追い込まれちゃった…。


 だが僕も百戦錬磨。

 裏を書いて投げてきた、真ん中高めへのストレートをセンター前に弾き返した。

 だが、セカンドランナーの鈍ちゃんは足が速くない。

 当たり前のように三塁ストップとなった。

 チっ、打点1を損した…。


 まあこれでノーアウトランナー、一三塁。

 あとは4番のティラーに任せよう。



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