ドラフト7位で入団して(第二部)
青海啓輔
第601話 条件提示
「それでは別紙をご覧ください」
査定担当の神経質そうな眼鏡の山本さんの言葉で、僕は別紙を見た。
細かい字で色々書かれており、ひと目見ただけでは良くわからない。
「高橋選手でもわかるように、なるべく簡単に説明します」
この言葉に若干、引っかかりを感じるのはなぜだろう。
「まず1年目は基本年俸が1億5千万円で、出来高が5千万円です。
この出来高は細かく設定していますので、詳細は後ほどご覧頂ければと思いますが、簡単に言うと、もし今シーズンと同等の活躍をした場合、全て達成可能な水準としています」
ほうほう、なるほど。
今シーズン以上の成績を残せば、出来高が満額もらえるということね。
それなら余裕だ。(嘘です)
神経質そうな山本さんは話を続けた。
「そして万が一、盗塁王や首位打者、ベストナインやゴールデングラブ賞、絶対にありえないですけれどシーズンMVPなど、主要タイトルを取った場合は出来高とは別にお支払いします」
「えーと、つまり1年目は最高2億円で、もし盗塁王を取ったら更にプラスということですね」
「そういうことです。
1年目については理解できましたか?」
「はい、何とか」
「ちょっと難しいのは2年目以降です。
2年目の基本年俸は1年目の1億5千万円に、1年目の出来高を加えた金額になります。
つまり1年目に出来高を満額獲得していたら、2年目の基本年俸は2億円になります」
「に、2億円ですか…?」
「はい、そうです。
そして2年目も同じように出来高が5千万円つきますので、最高で2億5千万円プラスタイトル料となります」
全て理解できたわけではないが、凄い金額だ。
もはや現実味が無い…。
「そして3年目の基本年俸は2年目の基本年俸プラス出来高がベースになりますので、最高で2億5千万円となります。
更に出来高が5千万円つくので、3年目の最高額は3億円プラスタイトル料となります」
「すみません、頭がついていかないのですが、ということは最高で総額いくらになるんですか?」
「はい、最高で3年間総額で7億5千万円となります」
この話を最初から読んで頂いている方は知っていると思うが、僕の入団初年度の年俸は440万円で、契約金も1,000万円だった。
改めてプロとは夢のある世界だと思う。
「あのー、最高の時はわかりましたが、例えば1年目にいきなりケガをして、3年間棒に振った場合、その場合はどうなるんですか?」
山本さんの眼鏡がキラリと光った。
「当チームとしてはそんな事はあって欲しくないですが、その場合でも毎年1億5千万円の年俸を保障します」
つまり3年間で4億5千万円は確定ということだ。
「どうですか、私の話、理解していただけましたか?」
「は、はい。何とか」
そこで北野本部長が口を挟んだ。
「以上が当チームから提示させて頂く条件です。
高橋選手も考える時間が必要だと思いますので、一度持ち帰って、後日返事を下さい」
「はい。でもいつまでに返事をすれば良いですか?」
「そうですね。
来季の編成作業もありますので、できるだけ早くというのがありがたいですが、高橋選手にとっても野球人生を左右するような大きな決断だと思います。
ですので、我々としては期限を設けずに待ちます」
それはありがたい。
でも僕としてもいたずらに結論を伸ばすつもりはない。
なるべくスパッと決めて、来季に備えたいという思いもある。
「タカハシセンシュ、ライキ、イッショニタタカエルコト、タノシミニシテマス」
ここまで黙っていたジャックGMが口を開いた。
「ライキノマキカエシニ、アナタノチカラ、ヒツヨウデス。
ヨイヘンジマッテイマス」
「はい、妻とも話し合って結論を出したいと思います」
「そうですね。
決断したら、私、北野宛に連絡を下さい。
良い返事期待しています」
「わかりました。
本日はありがとうございました」
そして僕は礼をして、退室した。
球団事務所を出ると、僕は頂いた契約条件が書かれた紙を見て、大きくため息をついた。
半分くらいしか理解できなかったが、予想を大きく上回る好条件だ。
さあ、どないしょう。
まあまずは家に帰って、結衣に相談しょう。
そう考えながら、駐車場で静かに待っている愛車、ぽるしぇ号に乗り込んだ。
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