第7話 魔物退治の時間です

「しっかしデカいなぁ」


「ソフィア様が敵わないレベルですからね」


「のんきにしてる場合なの!? アイツはすぐ来る……っ!?」


 川の近くで豚の魔物が水浴びをしている。

 豚の魔物は僕達を見た瞬間、物凄い勢いで突進してきた。


「ブォオオオオオオオオ!!」


「ははっ、凄いスピードだ」


「ホットオークですね。あの体温の前では、私の氷魔法も効果はありません」


 動きは速いが単純。

 僕達は横に飛び出すだけで回避することができた。


 ホットオークは体温がとてつもなく高い魔物だ。

 常に高温の蒸気を周囲に吹き出し、その身体を冷やすため川に住み着く事が多いのだとか(魔物辞典36ページ記載)


 ただ、その高すぎる体温が原因で、イヴの氷魔法は通じない。


「って事は聖魔法の出番ね? ”ホーリーショット”!!」


 ソフィアの杖から聖魔法の弾丸が放たれ、ホットオークへ一直線に向かう。


 ドォン!!


「ブォオオオオ!!」


「うっそ、全然効いていない!? 皆が手を出すなって言う理由がわかったわ……」


 弾丸は命中したのに、ホットオークに傷はほとんど見られない。

 むしろ標的を再認識し、狩りの体制に入ろうとしていた。


「つまり必殺技がないとダメか……フハハハ!! 面白くなってきた!!」


「え、ちょっ!? アンタまで突撃してどうすんのよ!?」


 だからといって引き下がる僕ではない。

 剣に闇魔法のオーラをまとわせ、ホットオーク目掛けて一直線に突撃する。


「ブモォオオオ!!」


「なるほど!! 確かに固いがダメージを負わないワケではない!!」


 ガキィン!! バキィ!!

 ホットオークの激しい攻撃を剣で受け流しつつ、隙を見て斬撃を加える。


「えぇ……Dランクの魔物の攻撃を防いでる……」


「修行の成果ですね。流石です、ご主人様」


 パッと見では、ホットオークに傷はついていない。

 しかし、斬り裂かれる度に嫌そうな行動を取る姿を見て、僕は倒せる事を確信。


(それに意外と遅いしな……)


 後は仕込みをして、一撃必殺のルートを構築すれば……!!


「イヴ!! ホットオークを暴れさせたいから牽制しろ!!」


「かしこまりました」


「ソフィアは……何かできるのか?」


「ちょっと!! アタシだって足止めくらいできるわよ!!」


 イヴが剣を持ってホットオークに近づく。

 ソフィアは後ろの方で再び聖魔法を溜める。


「”アイススラッシュ”」

 

「”ホーリーショット”!!」


「ブモォオオオオオ!!」


 新たに増えた攻撃にホットオークは更に暴れ出す。

 

 攻撃自体は早いが、イヴによって鍛えられた僕にとっては大したことはない。

 勿論、イヴ本人もだ。


 斬撃と魔法の連続攻撃に、ホットオークの動きが徐々に遅くなっていく。


「ブモッ……ブモッ……」


「今だ!!」


 呼吸を荒くさせ、僕達に大きな隙が生まれる。

 ここがチャンス。


 僕は空中に向けて魔力を込めた。


「”グラビティホール”!!」


「ブモッ!?」


 ゴォオオオオオオ!!

 僕が魔法を放った瞬間、ホットオークの足元から石や砂が浮き始め、空中にある黒い塊に吸い寄せられていく。


「え!? なによ、この魔法は!?」


「吸引力がケタ違い……まさかご主人様」


「魔物相手なら通じそうだと思ったんだよ。地面もぐちゃぐちゃにできるしな」


 重力によって石や砂が吸い寄せられ、ホットオークの足元が崩れていく。

 ホットオーク自身は重力に抗えるほどの力があるが、地面はそうはいかない。


 与えられる浮力と石や砂を吸い込まれてぐちゃぐちゃの地面。

 結果、ホットオークはマトモに立つことができず、バランスを崩して倒れてしまった。


「さーて、ちょうど”いい物”もあるしトドメを……」


「ブモォオオオオオオオ!!」


「うぉっ!! この蒸気やっぱ熱いな!!」


 突然、全身から蒸気を吹き出し、周囲に白い煙幕を生み出す。

 少し触れただけで、全身から汗がブワッと吹き出してしまう。


 長時間ここにいるのはマズいと思い、全員蒸気に触れない位置まで離れたのだが。


「ブモォオオオオ!!」


「あのオーク、逃げようとしてるわよ!!」


「今なら相当弱ってるハズだ!! 追い込むぞ!!」


「承知しました」


 イヴが飛び上がり、走り出すホットオークの上空まで接近する。


「全て凍れ、”アイスロード”」


 パキキッ!!

 イヴが手をかざすと、ホットオークのいる地面が氷の床に変化した。

 足場が突然ツルツルになった事によりホットオークは足を滑らせ、再び転んでしまう。


「ブモォオオオオ!!」


「トドメだぁ!!」


 イヴが作ってくれたチャンスを無駄にはしない。

 僕も”とある物”を重力魔法で持ち上げた。


「えっ!? あの大岩を魔法だけで!?」


「フハハハ!! これが重力魔法の力だ!!」


 ホットオークと同じくらいの大きさはある巨大な岩。

 それを限界まで魔力を使う事で持ち上げた。


 かなり魔力と集中力を使うからか、頭が痛くてしんどいけどな!!


「怯えて潰れろぉ!!」


 その大岩を限界まで浮かせた後、重力魔法の加速と共に落下させる。


「ブモォオオオオオオ!?」


 ホットオークは逃げようともがく。

 蒸気を更に吹き出し、氷の床を溶かして前に進む。


 だが遅かった。

 ホットオークが満足に動けるようになった時、落下する大岩は既に頭の上まで迫っていたから。


 グシャア!!

 ドォン!!


「はぁ、はぁ……ギリギリどころか楽勝だったな」


「それにしては大分疲れていませんか?」


「魔力は消費するからな。あー、疲れた」


 大岩によって頭をグシャグシャに潰されたホットオーク。

 流石の魔物も頭を失えば死にはする。


 意外と楽に終わったな。


「相手にペースを渡さなかったのは見事です。流石、ご主人様」


「イヴも最近は素直に褒めるな、どうした?」


「私はいつでも素直ですよ?」


 素直に”褒めてる”かは別だけどな。

 イヴのドストレートな態度は好きだし、気にしてはないが。


「うえっ、結構臭うな……」

 

 大量の血肉が周囲に飛び散り、ホットオークの蒸気と共に広がっていくせいで悪臭が酷い。

 さっさと解体して領内へ持ち帰ろう……


 イヴに教わった解体方法を実践するべく、僕はホットオークの死体まで近づき、自前の剣で肉を斬り裂いていく。


「ア、アンタってそんなに強かったの……てか、魔物相手に怯えてないのってどういう事?」


 解体作業に集中する僕達を、ソフィアはその場で固まって眺めている。

 まるでバケモノにでも遭遇したかのような驚きっぷり。


「教えてやろう」 


 そんなソフィアを笑いながら僕は見た。


「ホットオークより、イヴの修行の方が何千倍も恐ろしいぞ」


 僕にとってホットオークとの戦闘より、イヴとの三ヶ月の修行の方がしんどいし大変。

 ただ、それだけのことだ。

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