第2話 まずは修行から
「しかしご主人様、ハーレムを目指すのですか?」
「そうだ。可愛い女の子に手を出し放題、やりたい放題。この屋敷を美少女達で埋め尽くす、最高の計画だ」
「……やはり聖女様に診てもらった方がいいのでは?」
「僕は本気だ。何が何でもやり遂げてやるぞ、フハハハ!!」
やべぇ、テンション上がってきた。
目標があると、こうも人は変われるのか。
イヴ並みに美人な従者に囲まれる毎日……想像しただけで楽しくなっちゃうなぁ!!
「では、領地の現状を把握しようか」
「はい」
夢のハーレム生活を実現するには圧倒的にお金が足りない。
まずはガーランド家が保有する領地の現状を知る必要がある。
この辺の気候や土地について一切知らないしね。
「先程説明した通り、魔王軍の脅威によって人口は減少。雨が少なく土は乾燥しており、農作物を育てるには厳しい環境にあるかと」
「水は無いのか? いくら乾燥地帯といっても川くらいあるだろ」
「北西の森を挟んだ向こう側に大きな川が。住人はそこから水を汲んで、生活用水として利用しております」
「ふむ……」
生活用水として使えるなら塩分などの心配はなさそうか。
乾燥地帯にとって水は何よりも重要で、近くで確保できる環境にいるのは領地改革をする上で大きいアドバンテージだ。
「なら、そこから水を引いて水路を作ろう。水があれば最低限の農業はできる!!」
「できません」
「何故だ?」
「森には魔物が住んでおります」
あちゃー、そう来たか。
魔物って事は前世でいう所の超強い害獣って所かな?
「強いのか?」
「Dランク冒険者のパーティがいればなんとか……しかし、ガーランド家には」
「金はないしむしろ借金だらけ……か」
ガーランド家はお金がないだけではない。
かなりの借金がある。
先代、というか両親にはかなりの浪費癖があったらしく、その代償含めて僕にやってきたのだとか。
「ふむ……」
何も無い土地でまず必要なのは水と食料だ。
その二つを作り出すには、何としても森の向こう側にある川から水を引いてくるしかない。
だが森には魔物が住んでいて、
ウチは借金があるから下手にお金を使えなくて、
希望、無くなっちゃいましたか?
「よし、やる事が二つ決まった」
「なんでしょうか?」
全部が全部ダメってワケではないのよね。
僕は椅子から立ち上がり、ドアの方へと向かう。
イヴも僕の後に続いて歩き出す。
「一つは節約と資金確保だ。いくらガーランド家が貧乏でも、絵画や財宝くらい少しはあるだろ」
「金目の物を売り払う、ということですね。すぐに探しましょう」
浪費癖があったなら、高級品がどこかに眠っている。
記憶の中の両親を見る限り、色々と雑な人みたいだし、家を出る時に忘れてしまった物くらいあるハズだ。
借金がある現状でそんな物は不必要だし、さっさと売ってしまった方がいい。
「そして二つ目だ」
僕にとってはこっちが重要。
水路問題を解決する為に。
今後、僕が生き残る為に。
領地改革という長い戦いへ挑む為に。
絶対にやらないといけないこと。
それは、
「僕自身を強くすることだ」
自分自身のレベルアップ。
人がいないのなら自分でやればいい。
どうせこの先自分で戦わないといけない場面は増えていく。
圧倒的な強さを持つ領主というのも、恐怖と圧を与えられていいし、僕の欲望を叶えるのに必要だ。
「強くなる? その目の力だけでは不十分ですか?」
えっ、何それ知らない。
初耳なんだけど。
「僕の目に何かあんの?」
「ガーランド家に伝わる魔眼です。効果は人それぞれらしいのですが……」
「ふぅん……おっ、何か見えた」
目元に軽く力をいれてイヴを見ると、彼女の周りに青いオーラのようなものがポワポワ表示された。
これが魔眼の力?
何かを表しているとは思うけど……
今はいいや。
後で検証しよう。
「魔眼も大事だけど戦闘能力もいる!! だから修行は必要だ!!」
魔眼に関する能力も調べつつ、戦う力を鍛えていく。
こうして僕の修行生活が幕を開けた。
「なぁ、聞いたか? 最近、領主様が屋敷で修行してるって」
「毎日毎日メイドにボコられてるらしいな」
「地道に頑張ろうとしてるのかねぇ……あーあ、俺達の生活もいつか楽になってほしいなぁ」
「”グラビティショット”!!」
手元のナイフを投げ、更に重力魔法で加速。
ナイフは勢いよくイヴに向かって真っ直ぐ飛んでいく。
「素直すぎますね」
かなりの速度だったものの、イヴからすればかわすのは簡単。
軽く首を傾けただけでナイフをかわし、そのまま僕の方へ剣を構えながら急接近する。
「くっ!!」
ガキガキガキィン!!
剣と剣の攻防が続く。
イヴと修行を始めて約三ヶ月。
最初の頃よりは魔法や体術もかなり磨きがかかったが、それでも彼女にはまだ届かない。
ウチのメイドってこんなに強かったのかよ!! と最初は理不尽すぎる強さに軽く絶望していたが、今はもう慣れてしまった。
「けど、今日こそは勝つ!! ”グラビティドレイン”!!」
「っ!!」
剣と剣がぶつかり続ける隙を狙って、僕はイヴの剣先に一瞬だけ指先をタッチした。
その瞬間、イヴの手元から剣が僕の方へ勢いよく引き寄せられた。
(不思議な闇魔法だよなぁ)
僕が使用できる主な魔法は闇系統。
で、これはあらゆる物を重力で自由自在に操る、というもの。
どんな物でも重力で自由自在に浮かせる事ができ、技術を磨けばこういった応用も可能になる。
人間とか生き物はまだ無理だけど。
やってる事は超能力っぽいのに、魔導書には闇魔法だとカテゴリー化されてるんだよなー。
っと、イヴに隙ができた。
今の内に反撃を……っ!?
「ガハッ!?」
「大振りでしたね。ここはもう少し小刻みに動いた方が良いかと」
振り上げた僕の剣がイヴに届くより先に、彼女の膝蹴りが腹にめり込む。
「ゲホゲホッ!! ご指導助かるよ……」
「どうしたしまして」
勢いそのままに前へ蹴り飛ばされる僕。
やっぱり僕はまだまだか?
違う、僕だって成長した。
それに今回は秘策だってあるし……今に見てろよ。
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