霊術使いは『夢』を見ない

水波練

プロローグ 戦士に慈悲なし

 ――ダダンッ!


 一人の少年が、死んだような目で銃を構えていた。

 二発の銃声が空を裂き、やがて少年は返り血を浴びた。枯れかけた花畑の方を見てみると、もうすぐ彼岸花の季節が近いという。


『ターゲットクリアを確認。オペレーターより実行班。続けてターゲットが十時方向に確認された。北に距離1,000移動し、各個撃破せよ。』

 

 時代遅れな音質の悪いトランシーバーがただ淡々と現状を報告する。


「……了解。」

 

 ボソリと返事をすると、少年は大きなため息を吐いた。

 生ぬるい夏の海風が鼻につく湿った海潮の匂いを運んでくる。

 ここは防壁の向こう側、人類が放棄した砂まみれの荒廃した街。見渡す限りの廃墟、根から崩れ去って瓦礫の山と化したビル群、苔が生えむしった空き地。全て百年以上前に消え去った人類最盛期の文明の跡地だ。

 地平線をその目で感じられる海岸に、少年は座っていた。

 

『おい、早く行け。お前は死ぬまで戦ってりゃいいんだよ‼︎他のことは考えるな。』

「……はい。」

『チッ、餓鬼が。さっさと働いたらすぐに帰ってこい。』

「……はい。」

 

 聞きたくもない上官の説教に苛立ちを覚えながら、少年は立ち上がった。

 年齢は十五、六くらいの艶やかに伸びた黒髪をした少年。しかしその目つきは大人でも慄く程鋭く、紅花の濃染の深い絹のような、どこまでも暗闇を持った瞳は奥が知れない。


 耳に付けられた通信機を切る。

 唇を噛みながら込み上がる思いを抑えると、その反動で堰を切ったように思いの限り叫んだ。

 

「クッソがぁ――――――――ッ!」

 

 怒りで白目を剥き、片手サイズの通信機を砂に叩きつけた。

 荒々しい息を落ち着かせる。

 ――ああ、分かっていたさ、選択肢などないと。戦場以外に生きる場所などないことくらい。


 

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霊術使いは『夢』を見ない 水波練 @nerumizunami

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