022 目玉
気がつくと俺は
眼の前には夕焼けのような
大丈夫か?
俺は近くに行こうと立ち上がる。
ゾワッと全身の毛が逆立った。
「ああ……。倒せなかった……んだ」
全身の力が抜けていく。眼の前に存在するのは圧倒的な恐怖そのもの。気持ちを奮い立たせようとするが、それは生物としての本能なのか進化した人間の脳の合理的判断なのか、抵抗よりできるだけ穏やかな死を選択させようとしていた。
『キミトくん、ただ見て、ただ感じるんです』
これは『おっさん先生』の声か?
『考える必要はないのですよ。そのまま素直に受け入れれば良いのです』
「……、せ、先生……?」
俺の何とか絞り出した声に応答はない。
アア゙ーーーーッ!
カイブツが
ん? 何もない……。
目を開けると、その触手は俺のすぐ横を通り過ぎ、後方に伸びていた。
「さ、沙也加!」
振り返ると沙也加にその黒い手が伸び、彼女に巻き付いていた。
『オンナ……? デモ、チガ……ウ』
言葉!? こいつ
「てめえ! 沙也加を離せ!」
俺が感じていた恐怖は、沙也加に迫る脅威を前にして消し飛んでいた。
『サ、ヤ、カ……。チガウ……。オデ、ノ、ホシイ、ハ……、サヨ』
こいついま小夜って言ったのか?
「そうだ人違いだ。だからその気色悪い手を離しやがれ!」
『コレ、オマエ、ダイジ……、カ?』
「大事? 当たり前だろうが、俺の可愛い、いとこだ!」
『イトコ……?』
「そうだ、いとこだよ! 血の繋がりのある親戚だ。っていうか、家族だよ! 大事に決まってるだろうが!」
『……。ツナガリ……。オデ……、ソレガ、ホシカッタ……』
アア゙ーーーーッ! アア゙ーーーーッ! アア゙ーーーーッ!
「沙也加!」
俺は倒れている彼女のもとに駆け寄る。ちゃんと呼吸はしている。意識を失っているだけだ。
だが、どうする? 沙也加を抱えて逃げ切れるのか? でも、一体どこに逃げろっていうんだ。ここは
『キミトくん、戦うんだよ』
先生? 俺の前にうっすら光る人型の霧のようなものが現れた。それがゆらゆら揺れている。
「先生なの?」
『そうだね。正しくはそうだったもの。こことは異なる別のところへ行くはずが、追い返されてしまったみたいでね。ああ、この話はいいか……』
その声、口調、なんとなく感じる温かみ。眼の前の存在を疑う気持ちはそのときの俺には一切なかった。
「戦えって、あんな化け物を相手に……。そんなのすぐに殺されるに決まってるじゃないですか」
『そうでもないんだ。実はキミトくんは、いや、正しくはキミトくんの魂を構成するもとの存在が、アレを下しているんだ。ああ、君が叩きまくっていたあの
先生は何を言っているんだ?
『キミトくん自身だということには変わらないか……。アレは君のお陰で実は随分弱っている。倒せる最後のチャンスなんだよ。これを逃すと、恐らくたけど、この国は滅ぶよ。僕は
「国が滅ぶって、俺みたいなのがヒーローみたいなことできるわけ……」
『いやいや、沙也加ちゃんのために恐怖を打ち払ったじゃないか。それは十分に英雄としての資格はあるよ』
そんなこと言っても……。
『キミトくんの元の存在、ああ、言葉を変えて前世といったほうがいいね。それは少し普通の人とは違う存在だったんだ』
「大巫女さまの言っていた修験者さま?」
『そういうことになってるようだね。分かりやすくいうと【鬼】だよ。別にツノなんて生えてなかったんだけどさ。どうしてそんなことになったのかまでは分からないけど、たくさんの悪いことをした人だね。きっかけは彼が原因ではないのだろうけども、たくさん人を殺したり、僕の口からでは言えない
英雄だとかヒーロー以前の話じゃないか……。
『でも、そんな【鬼】がたまたま、これを人は運命なんていうのかもしれないのだけど、あの小夜ちゃんの前世が生贄として捧げられるところに居合わせたんだ』
鬼と禍津神って……。そんな昔話あるのかよ……。
『さすがの【鬼】も神の領域に達しようとしていたアレには敵わなくてね。そこで死んじゃったんだけど』
「えっ? 封じたんじゃなかったないの?」
『うん。封じたんじゃなくて、アレは怖くなって逃げたんだ。【鬼】は戦いには敗れたけど、アレを下したんだ。上下関係でいうなら【鬼】が遥かに上になった』
「でも死んじゃったら……」
『うん。でもね、【鬼】というかキミトくんは、アレの目玉を喰らったんだよ。ああ、かの吉田松陰が「人の精神は目にあり。故に人を観るは目に
「そんな力、俺には……」
『いや、持ってるよ。その君の目にね』
「俺の目?」
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