011 ふたつの目玉
「キミト、あなた『
「くだん?」
「
まさか沙也加の口から妖怪なんて単語で出てくるとは思わなかった。その界隈って、どの界隈だよ……。オカルト方面にまで
「予言獣ってなんだよ?」
「2020年頃のコロナ
「聞いたことあるかも。いい妖怪じゃん」
「人間は自分の都合の良いように解釈するものよ。実際にいたと仮定してただ親切心でそんなことをしたとは考えにくいわ。きっと何か裏があったはず」
いやいや、昔話に裏も何も……。相手が妖怪でもさ、素直に善意や好意は受け取りましょうよ沙也加さん。
「件の話に戻すわ。この件も瓦版が残されているの。同じ江戸時代に
「イタズラとか、ネタでやってるんじゃないの?」
「いいえ。実はこのあたりで警察と自衛隊の出動の履歴を確認したわ。おそらく何らかの関係があると私は推測しているわ」
「はあ!? ちょっと、そんなものどうやって……。ああ……、爺ちゃん経由か……。これだから本家の人間ってのは……」
もう普通の高校生が知りうる範囲を超えている。うん。いまのは聞かなかったことにしよう。
「お二人ともお待たせいたしました」
小夜さんが戻ってきた。おおっ! これは素晴らしい。小夜さんは真っ白な
「小夜ちゃんカワイイわ!」
俺の言いたかったセリフを沙也加に横取りされた。ぐぬぬ。
「いえ、おば、大巫女さまに言われて着替えて参りました」
ナイスだ、巫女ボス!
「おおぅ……」
小夜さんの後に続いて和室に入ってきたさらに小柄な女性に俺は言葉を失った。
「勘解由大路さま。ようこそお越しなされました」
そう言って頭を下げる彼女は、オーナーお婆ちゃんだった。赤と白の巫女服。何十年も前だったら俺もときめいたのかも知れないが、それは俺の貧相な想像力の限界の遠く先にあった。
「は、はい。お邪魔してます」
バチッ。
あっ、まただ!
飛んだ。
俺のナニカが飛んだのが分かった。
雪。
あたり一面真っ白だ。
視界……、正常だ。変な見え方はしていない。上からでも下からでもない。
でも、音が無い。音がしない、が正しいのか? いや、音がないんだ。足? ある。身体も手も。自分の顔も触れる。服もダウンジャケットにジーンズのありふれたそれ。
村?
さっきの村と同じ様に見えるけど、違うというのをはっきり感じる。周辺の山が近い。それに薄暗く感じる。昼間なのに薄暗い。
人がいる。
酷えボロボロの服っていうか黒っぽい紺に近い色の着物? というか時代劇風な格好とでも言えばいいか。でも数人の男たちが見えるが、みんな
女の子がお婆ちゃんに連れて来られた。板の上に乗った。それを男たちが
どこに行くんだろう?
俺はその後をついていく。すぐ近くに追いついたけど誰も俺のことを気にもしない。
女の子が振り返って俺を見た。不思議そうに首を
大きな池? 湖?
そこまで来ると男たちは女の子を乗せたままそこに入っていく。彼らの腰のあたりまで水に浸かったところで板を水の上に浮かべる。そして板を女の子を乗せたまま押し出した。
何をしてる?
すると男たちが何かを叫びながら湖に背を向けて走り出した。遅れて老婆がつまづきそうになりながら俺の横を通り過ぎていった。
人?
向こう岸に人の姿がぼんやりと浮かび上がる。湖全体にうっすら霧がかかっているようで、はっきりとは見えない。女の子を乗せた木の板はゆっくりとそちらの方へ向かっていく。
灰色の雲に覆われた空の隙間から陽の光が差し込み、ちょうど女の子を照らす。幻想的な光景だ。でも、何か違和感がある。
霧が薄れていき、あたりの様子がはっきりしてくる。
おいおい、そんなことって……。ああ……、そんな……。
向こう岸に見えたそれは、ひとのカタチはしていたが、俺のよく知るそれではなかった。沙也加が何かいってたっけ……。頭部は人のそれではない。変形して
その群れの後方は闇に包まれていると思っていたのは俺の錯覚だった。上方には巨大なふたつの目玉が、流れてくる女の子を乗せた板を見下ろしていた。
駄目だきみ……、そのまま行っちゃ。 逃げなきゃ! 逃げるんだ!
気がつくと俺は、水の中を必死に進んでいた。
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