第6話 6月

「二人で組作って準備体操したら、男子は外で女子は体育館でドッジやるで~!」

 

 体育の先生の声を聞いた子供たちが、わちゃわちゃと騒がしく二人組を作っていく


「せんせぇ、タカオが余りましたー」

「え~?そんなことあるかい?今日誰も休んでへんやろ?」

 

 確かに授業を受け持つ時に4年生の人数はA組B組両方とも、男子14人女子12人と覚えたはず


「あれ?人数そうやったかなぁ?まあタカオはベイリー先生と組みぃ。先生お願いします」

「ハイ。やあタカオ」

 

 タカオはあれっとした顔をしている


「あ、先生、ども」

「タカオは背が高いカラ、ペアがやりやすくてイイネ」


 ちょっと緊張しているようなタカオに声を掛けつつ運動を始める



「スゴク体が柔らかいケド何かスポーツをしてるノカイ?」

 

 タカオの背中を押しながら聞く


「野球やってるで」

「ベースボール?学校デハやってないヨネ?」

「地元のチームであんねん。土日に山のグラウンドで練習とかしてる。うちのチーム強いから有名やで」

「オースゴイネ、タカオは試合トカ出たりするノカナ?」

「人数おらんから4年生までみんな出るで」

「ソレデ強いのはスゴイ、一杯練習シテル?」

「朝走ったりしてる!だから4年でも一番速い!・・・あれ?」

「タカオどうシタノ?」

 

 タカオは首を傾げているようだ


「俺が一番速かったっけ・・・?」

「準備運動終わったらドッジ始めんで~、男子は誰か線引くやつ持ってきてやー」

 

 体育の先生の声でみんな我先にと白線引きを取りに行く

 タカオもパッと忘れたように駆けていった



 チャイムが鳴りドッジボールも終わり、給食当番の子が急いで教室に戻っていく

 まだグラウンドで遊ぼうとしている子は残っている

 タカオは友達たちと砂場で幅跳びの様な事をして遊んでいる

 砂に付いた距離を測って笑い合い、ふと上を見て鉄棒にジャンプする

 背の高い彼は鉄棒を軽く掴み、そのままクルリと回る

 なにか・・・


「はよ戻って着替えりや~!」

 

 体育の先生の声が響くとみんな渋々校舎内に帰っていく


「せんせぇ今日はどこのクラスで食べるん?」

 

 ボールの片付けを手伝ってくれていた子が聞いてくる


「今日はB組ダヨ、明日のカレーはヒデクンのA組デ食べるからゴメンネ」

「えー、カレー減るやんー」

 

 そんな事言いつつ校舎へ戻っていく




 6月半ばの日曜日、野球の練習試合を別チームとやるとタカオたち野球チームの子が教えてくれた

 部外者が見ても良いのか聞いてみたら、タカオのお父さんが監督らしいので聞いてみると言ってくれた

 そうして見学は問題ないと教えてもらい、チームの子らに学校から自転車で山の中のグラウンドへ連れて行ってもらう


 

 カーン!

 ベースボールはそこまで詳しくないけれど、生徒たちのチームの方が動きに迷いが無く、強いんだろうというのが分かる


「小サイ子も多いノニ強いんデスネ」

 

 隣で応援している親御さんに話しかける


「せやね、この辺はえらい坂多いから学校行ったりするだけでも鍛えられてるんかもしれへんわ」

 

 嬉しそうにそう答える

 スコアボードには6回7対1

 大分相手より強いんじゃないだろうか?



 ガンッ!


「おいっ!?」


 親御さんたちにうちの子の英語は?と聞かれながら観戦を続けていると、こちらのチームの打者が尻もちをついている

 どうやら頭の近くをボールが通り、ヘルメットのつばを弾いたらしい

 さっきの声は選手の父親だったようだ

 すぐに監督が駆け寄ると選手は立ち上がり大丈夫だとアピールしているが選手交代

 病院に行くと母親が言っているが子供は嫌がり、結局試合が終わるまで見てから行くことになったようだ


「おいっ!」


 父親の声が聞こえ、そちらを見ると怒り顔の父親を周りの親御さんが宥めているようだ

 かなり怒っているのだろうか?

 少し離れた場所に父親と他の親御さんが移動してゆき、ゆっくり探るように試合が再開される

 相手のチームは委縮しているようで、カンカンと打たれ中々回が終わらない


「おいっ!おいっ!!」

 

 また聞こえた!まだ怒っているのか!?

 先ほど父親たちが行った方向を見ると、あの父親はまだ同じく怒り顔をしている!

 誰かまた父親の所へ行くのか?

 そう思い辺りを見回すとみんな何もないように応援し、選手たちは試合を続けている

 デッドボールを受けた選手の子は、ベンチに座りながら隣に座った母親と試合を応援している


 どういうことだ!?


「おいっ!」

 

 父親はまた大声で叫び、そして歩き出す


「アノ・・・」

 

 隣で応援している親御さんに声をかける


「アノ人はドウシタラ・・・」

 

 父親を指し示しながら聞くと


「・・ああ・・・そう・・・ね」

 

 何もわかっていないような返事が返ってくる

 そのまま父親は叫びながらグラウンドを出ていく


「アノ?出ていきまシタヨ?」

「ええと・・うん・・」

 

 どうするか決めかねていると


「ゲーーームセット!」

 

 振り向くとグラウンドでは試合が終わったらしい

 選手が一列に並びありがとうございましたとあいさつをする





 選手たちは監督の話を少し聞いたあと、タカオたち何人かの選手がこちらへ歩いてくる


「勝ったで!」

「余裕やわー」

「オメデトウ、ミテすぐに上手いって分かっタヨ」

「まあ練習してるし?」

「ふつーふつー」

「でもこいつのヘルメット飛んだのはビビったわ!」

「頭は当たってへんから変わらんでも良かったのに!」

「病院行くんやろ?」

「めんどいわ~」

「シンパイダカラ病院は行きまショウ」

 

 そんな事を言いながら選手たちは帰る準備をしていく


「せんせー学校までチャリで行く?」

「イクヨ。君たちモ?」

「帰りも連れてったるわー」

 

 お礼を言いつつ山道をみんなで進み、学校で解散する


「お疲れさんー」

「またなー」

「ばいばーい」

 

 正門前でお別れを言い合い、子供たちが家に向かい自分も帰ろうとした時、橋の方から何か叫び声が聞こえた気がする

 なんだろうと思いつつも家に帰ることにした

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