第43話 みーつけた! 逃さないんだから!

 よく通った勇ましい声。頼りない頭とは裏腹に清閑で力強い声だ。オリクトですらハッとし意識が戻る。何故だろうか。どこかで聞いた事のある声色だ。


。君の代表挨拶がこの騒動の原因だと理解しているかね」


 一国の、それも帝国の皇太子を君呼び。普通ならあり得ない、即不敬と処断されてもおかしくはない。しかし学園ここは違う。生来の地位なんか関係ない。ここでは教師が絶対的な存在なのだ。


「ええ。私情を挟んだ事は申し訳ないと思っていますよ、先生。以後は生徒として自重します」


 嘘つけとオリクトはツッコミを入れたかったが、喉の奥に押し止める。

 アルマーディも疑いの目を向けたままだ。


「私は設立当初からここで働いている。こういったロマンスに染まった生徒が、二三年に一人は出てくるのだよ。入学初日からというのは初めてだがね」


 皮肉混じりだがカルノタスには響いていない。寧ろ誇らしげに微笑を浮かべている。

 オリクトはこの教師の未来が心配だった。ストレスで残り僅かな毛根に、胃に、精神がたえられるのだろうか。勿論その渦中に自分がいるのを棚に上げてだ。


「諸君。この学園は君達の未来を築く大事な場である。学園に通わず、既に働き、結婚している令息令嬢も大勢いるだろう。だが君達は今に傲ってはいけない。君達が得たのはチャンスなのだ」


 オリクトの耳が反応する。この教師の言葉に惹かれる物があった。


「学び自らを磨き上げ、人脈を築く。そのチャンスだ。油断をすれば見下していた者に足元を掬われる事になるだろう。そして己を練磨し続ければ輝かしい未来を掴み取れるかもしれない。実際、男爵家の産まれながらも、ラゴス殿下に認められ秘書官の座を得た者もいる」


 そういえばそんな人いたなぁ、と思いながらも話しに引っ張られる。


「家柄しか取り柄のない無能になりたくなければ努力しなさい。私から言えるのはそれだけだ」


 しんと静まり返る教室。そんな中でオリクトは肩を震わせ目を輝かせた。

 これだこういう人間だ。古い貴族の価値観だけでない実力主義者。こういった人材こそ新しい時代を築き上げるのに必要なのだ。


「素晴らしいです先生!」


 思わず立ち上がり拍手する。何事かと視線がオリクトへと集まった。


「確かに家柄は重要ですがそれに怠けるなんて言語道断です。先生がお父様に認められたように、人は実力で評価されるべきです」


「ありがとう。王女であるオリクト君に理解してもらえるのなら、皆も続いてくれるだろう」


 貴族社会とは家柄ばかりで実力者が評価され難い。下手をすれば生意気だと潰される事もある。

 その考えをウルペスは変えようとしていた、そしてその意思を広めようとする人々がいる。彼もまた改革派なのだ。


「ところで先生」


「何かな?」


「先生って…………お兄様にお声が似ていませんか?」


 オリクトの目がギラリと光を放つ。


「そういえば似てるかもしれない」


 ドルドンもハッとしたように気づく。そう、オリクトが感じたアルマーディの声の違和感。ラゴスに似ているのだ。


「ええ、よく言われる。実際、ラゴス殿下が在学中は殿下が私のマネをよくしていたよ」


「そうでしたの……」


 心の中でガッツポーズを取る。見つけたそう心臓が叫んでいた。


(私がラスボスならお兄様はサブキャラ。きっと声優は先生と兼任していたのかも。また一歩ヒロイン捜索の足掛かりを見つけたわぁ)


 おそらくアルマーディは物語の登場人物。ヒロインを見つけ自分の代わりにカルノタスに差し出す。オリクトの計画が一歩前進した瞬間だった。

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