第26話 お茶会は遊び場ではありませんわ
輝く太陽、快晴の青空。気持ちいい天気の下、ブラーク邸にて優雅なお茶会を楽しむ三人の淑女。オリクト、シルビラのコーレンシュトッフ王国王女姉妹。いや、シルビラに関してはブラーク公爵夫人と呼んだ方が良いだろう。そして彼女の義妹となったフリーシア。三人の中で気まずそうに縮こまるドルドンの姿もある。
貴族のお茶会。腹の探り合いが一般的だが、ここには身内しかいない。
「あ、あの」
それでも男が一人でいるのは居心地が悪いのだろか、ドルドンはキョロキョロと何かを探すように周囲を見回す。
「ノルマン様は?」
もう一人、ブラーク家次男でありフリーシアの双子の弟を探していた。会った事もなく好色家と聞いて良い印象は無い。しかし同い年の男がいるだけでも空気は違っていただろう。
しかし彼の願いは届かない。
「愚弟ならパーティーで私を放置した件で、お父様からお説教中ですわ。いい気味だこと」
「はあ……」
肩が重い。オリクトに助けを求める視線を送るも首は横に振られる。
そうしていると紅茶が行き渡りシルビラが手を叩く。
「さて、あなた達三人……本当ならノルマンもいてもらう予定だったけど、今後の事について王家とブラーク家で話し合った件を伝えるわ」
三人が無言で頷く。流石はと言ったところだろう。先日の怒り狂った様とは違い冷静かつ威圧感のある姿だ。
「全員来月から国立学園に入学するわね。先日の件もあっていろいろと思惑を持ってる連中がいる。子を利用してね」
先日の件。それはここにいる全員が知っている。カルノタス・オーラムの事だ。
大国との繋がりを推す者もいれば逆の者もいる。あんな大勢のど真ん中で大騒ぎを起こしたのだ。おそらく今も貴族達の間で話題となっているだろう。
「そこでノルマンが護衛につく事になったの。アンガスの推薦でね」
「お姉様、それ大丈夫なの?」
「少なくとも腕っぷしは信頼できるから安心しなさい。それに、お父様の
私兵。その一言にオリクトの頬に冷や汗が伝う。
「オリー? 何か心配があるの?」
「いいえ。お父様の私兵が来てくれるなら、ならある意味一番安全よ」
「……そうか」
「それよりもドルドンよ。貴方が今一番危ういの」
突きつけられた人差し指に圧される。何故自分がとドルドンは首を傾げるだけだ。
「あのねぇ、早々にドルドンとの婚約が決まったから表立って…………言うのはオーラムくらいね。とにかく、一応私が欲しい連中は沢山いるの」
「そ、そうなんだ」
「特にグラファイト公爵家なんか、私を娶ってお兄様を失脚させて国王の座を狙ってる可能性があるのよ。一応従兄だし。お姉様とアンガス様が結婚したから、対抗するのに私は絶対欲しいはずよ」
「うっ」
思わぬ伏兵にぎょっとする。確かにブラーク家を含めた公爵家は王家の親族だ。フリーシアがオリクトの再従姉妹と聞いた事もある。現状唯一の直系男児であるラゴスを排斥し、オリクトを利用して王位を狙う者がいてもおかしくはない。
「今はオーラムが私に求婚したって話しは広まっている。ドルドンを暗殺してその犯人をオーラムに押し付けようって連中は絶対出てくるわ。気をつけてね」
「うん、警戒するよ」
聞けば聞くほど怖い話しだ。それでもドルドンは嫌がる素振りを見せない。
もう覚悟は決まっている。
「まっ。軍事にしか興味ないアンガスを傀儡にって派閥もいるし。そもそもお兄様を排斥したらオキシェンとの関係悪化になるのだけど。馬鹿はいなくならないのよねぇ」
「しかも私を利用してオーラムを内側からってのもいるからなぁ」
王女姉妹は大きくため息をつく。彼女達の気苦労は後を絶たない。
そんな中でフリーシアだけは呑気だった。
「まあまあ。そこは上手く立ち回りましょう。それよりもオリクト様は本当にオーラムの求婚を断るのですか?」
「断るわよ。私あの男大っ嫌いだし。書状が来たら私が直接返事をしてやるんだから」
オリクトが意地悪そうに微笑みシルビラもニヤつく。悪い事を考えている顔だ。流石は姉妹、同じ顔をしていた。
「あの男はコーレンシュトッフ王家全員を敵に回したの。それにあの手の思考は(前世の知識で)把握してるわ。徹底的に尊厳を破壊してやるんだから」
「いいわぁオリー。あの男が悶絶する姿を想像するだけで愉悦ねぇ」
悪巧み全開。そんな二人とは違い、フリーシアはオリクトの状況を楽しんでいるようにも見える。
「でも二人の殿方がオリクト様を取り合う姿は素敵でした。情熱的に求婚するカルノタス殿下、勇敢にも愛を貫くドルドン様。あの会場はまるで恋愛劇の一幕のようでしたわ」
「……情熱的ねぇ」
オリクトはつまらなさそうだ。楽しそうにしているフリーシアにシルビラも困っているようだ。
「あのね、もしオリーがオーラムに嫁いだらあんたがドルドンの婚約者候補になるのよ」
「え?」
予想外の事にフリーシアだけでなくドルドンも目が点になった。
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