1.領空侵犯、国籍不明機接近
まさか魔法がつかえるとは、3人は予想だにしていなかった。ここは軍靴の足音が消えて20年は過ぎたバトラムント共和国連邦。彼らが迷い込んだ異界の土地である。近年、工業力を付けており20年前の戦争の戦勝もあり、重工業化が進んでいる。造船、航空業界も潤沢であり、人々は空へ見出していた。だがこの世界は飛行機すなわち航空機はこちらと比べればまだまだ黎明期だった。だがその代わり、魔導というものがあり、その力によれば人は浮いたり、物理現象をねじ曲げてしまうことの出来る不思議な力がそこにはあったのだ。
バトラムント共和国連邦
トラニドス州サハー上空
上空4000m付近
あの光と雲を超えていた。この世界にありえない、大日本帝国もイギリスもアメリカもない世界に、零式艦上戦闘機21型の3機編隊が上空を飛んでいた。彼らは何も知らないまま飛び続けていた。一機だけ黒い煙を引いているが……。
「一体私らは何処に来た」
と長澤、高部の両名は頭を抱えていた。しかし、梨子田機の様子がおかしくなっていた。無線で確認するも反応無し。その後、梨子田は機内で突っ伏し、上空4000mから約1000mまで急降下し、2人は叫んだ。
「梨子田ァァァァァ!」
無線から聞こえたのだろうか、なんとか持ち直した。確かに聞こえていた。長澤、高部、俺は死なない。いや死ねない。と言い聞かせて、鉛のように重い体に鞭を打ち続けていた。2機がそばにピッタリとくっついて、梨子田機を守るようにしていた。
その時だった、点々と散らばる障害物が見え始めていた。
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時は少し遡る────。
バトラムント共和国連邦航空軍 第2航空方面軍
サハー航空隊基地
第2航空方面防空管制群
地下防空管制指揮室
第2航空方面軍の指揮の下、担当区域内の魔導電探からの防空情報を集積し、平時においてはの発令、要撃戦闘機・要撃航空魔導師の誘導と領空侵犯事案に対する対処・指揮を実施する。有事においては地区防空の指令所として、戦闘機部隊・航空魔導師・高射部隊の目標振り分け・誘導・指揮を実施し、敵性航空機・敵性航空魔導師・大口径魔導砲弾の撃破、大規模魔導攻撃の防衛、防空識別圏内における航空優勢の維持を図っている。
防空管制室には、電探等の装置がずらっと並んでいる。室内は暗くなっており、部屋の中央には全土地図が置かれ、24時間体制で周辺空域を監視している。交代の管制士官が入った頃だった。
「交代の士官入ります。」
「交代引継ぎ書誌となります」
「ありがとうございます。確認します。」
「電探等異常なし。」
「了解、引き続き監視に務める。」
交代の管制士官が交代引継ぎ書誌に目を通す。どうやら空賊連中が、民間機に対し攻撃をしたという。空賊というのは、最近現れ始めた民間機(空輸機)を狙い、金品を強奪する輩である。さらに武装も強力な機関砲を装備した機体や複座機に旋回機関砲を取り付けた機体も存在するという。
「連中、活発化しているな…。」
「"全滅作戦"のせいだろう。やつらは怒り狂ってる。ただ、我々は全て叩き堕とす。国民の生活が脅かされるのは御免だ。」
全滅作戦、正式名称は連邦全空域空賊対処行動。国家警察、航空軍、国防省諜報部の
「どうやら上がってきたのは自由空賊同盟ですね。ハートにドクロのラウンデルの奴らです。」
「空域Awl-31区を根城とした連中か。」
「そうです。民間機は非常事態宣言を発令、我が軍が保護、自由空賊同盟はひとしきり攻撃した後、彼らはねぐらに戻りました。」
「全くどうしようもない連中だ。空爆を仕掛けたらどうだ?」
「流石に周辺空域の住民に被害が及びます。」
「だよなぁ……。」
管制士官達や幹部が喋っていると、とある装置からけたたましくサイレンが鳴り響く。
「前置魔素値上昇!なおも上昇中!」
前置魔素値とは魔導攻撃の前に漏れ出る魔素のことである。通常兵器のエネルギーに換算すると拳銃1発(8mm)で1Pmv。Pmvとは Plefix Maginium valueの頭文字をとったもの。80番爆弾で100Pmv。前置魔素値か5000を超えると1国が滅ぶとされている。
「1kPmv…2kPmv…まだ上昇しているぞ」
「警報を出せ」
「了解」
前置魔素値が1000を超えると全軍(陸軍、海軍、航空軍、国境警備軍)と国民に警報が発令される。国民のラジオ放送で各局は、ただいま連邦全軍司令部は大規模魔導攻撃を受ける恐れがあると発表しました。落ち着いて地下へ避難してください。繰り返します。連邦全軍軍令部は……と放送されて、国民は速やかに地下へ避難していた。各家庭に、災害、大規模攻撃等を受けた際に避難するシェルターが備わっている。
「魔導障壁展開、直ちに航空機は格納庫へ」
「司令、警報発報しました。」
「うむ。ご苦労。」
航空基地を覆うように魔導障壁が展開された。そして1分30秒後、前置魔素値の上昇がとまった。5.832kPmv。過去最高値を叩き出していた。
管制士官は目を見開いていた。
「まずい、くるぞ!」
突如として広がる青白い閃光。まるで目が焼けそうな閃光だった。10分間くらい光り続けていたという。誰もが、終わったと思っていたら、みるみるうちに閃光が消えていった。落ち着いた後、状況確認へ急いだ。急いで偵察機で周辺地域の確認をしたが、全て無事だった。警報を解除しようとした時だった。突然、管制士官が叫ぶ。対空魔導電探に反応があった。
「今度はなんだ!」
「対空魔導電探に感!740km後方、空域AsL-89区にて検知、航空機と思われる。3000m上空にて3機、約200ノットで南東方面飛行中……!」
「何?」
「約2時間後に当基地上空を通過します」
「詳細は?」
「軽戦、軽戦闘機と思われる。国籍不明。電探分屯基地によると、主翼の両端と胴体部に赤丸のラウンデルが描かれている。」
「似たような国はあるか?」
「いえ。我々も見た事ありません。」
「低翼単座単葉戦闘機のようです。電探分屯基地の魔導電探にて撮影されました。1機のみ黒煙が確認されています。」
「何?!我が軍で試験飛行中だが!?」
「奴ら、魔導反応なしです」
「民間機か?」
「民間機でもなさそうです。機首に2門、主翼と思われるところ、左右に1門づつ機関銃が装備されています。おおよそ考えられるのは特務機かと。」
「連中、正規軍の戦闘機というわけか…。」
「
陸上要撃戦闘機Lk-F485
製造はラキオン内燃機関航空機。設計は空技工廠。形はすらっとした単発単座複葉機だが、大型の18気筒星型エンジンと、12.5mm機銃を機首に1問と左右の主翼に2門づつ、計5門が搭載され、重武装であり上昇速度が速かった。その分航続距離はうんと削られてしまっていた。
Lk-F486の3機2個編隊は爆音とともに一斉にペラを回し始めた。暖機運転が終わると整備員により輪止めが外された。1番機より格納庫を出て
、滑走路に入って行った。地上管制より、無線が入る
「要撃機各機へ、コールサインはアベンジャー。周波数は188.584から要撃時専用周波数200.656へ。風向南南西、風速1m。ランウェイオールグリーン。アベンジャー各機、武運を祈る。以上。」
「アベンジャー1、テイクオフ。」
1番機から爆音を立てながら飛び立ち、6番機が無事飛び立った。その後防空管制より受信。
「こちら防空管制、アベンジャー各機に告ぐ。ストレンジャーはAgG-68区を飛行中、速度変わらず。なお、一機は編隊から落伍した。ストレンジャー発見次第、警告実施せよ。アベンジャー2-6はストレンジャーをロックせよ。」
AgG-68空域
辺鄙な場所まで我々は飛んでいた。道中、箱のようなものが浮かんでおり、何かしらの装置だと思い眼下に見える牧草地にでも不時着するかと考えてた時だった。エンジンがついに止まったのだ。列機に無線を入れた。
「梨子田一番、エンジン停止せり。貴君の協力に感謝す。長澤、高部、生きろ。以上…」
長澤、高部両名共に涙を流した。小隊長は立派に最後まで小隊長だった。彼らは不時着する梨子田機に敬礼しながら飛び去っていった。見送った後、前方の草地に不時着することを心に決め、
「一機、電探よりロストしました。」
「そうか…。憲兵隊に捜索させろ。地点は…」
「なお、パイロットに関しては救助させろ。」
「彼らには喋っていただきたいものがあるからなぁ……」
指定された地点へ憲兵隊が到着。機体は形を留めていたものの、弾痕が確認できた。エンジンは燃え尽きたのかプスプスと1本の煙が上がっていた。プロペラは着陸時の衝撃でひしゃげており、風防と思しきものは粉々に割れていて、機内に目を通すと血を流し、項垂れているパイロットがいた。憲兵隊は脈を確認した。なんとまだ生きていたのだ。憲兵隊は無理やり風防を開けると、引きずり出すようにパイロットを救出し、そのまま車に乗せ、止血処置をしながら軍病院へ全速力で走らせた。
流石は小隊長だった。綺麗に着陸した。ただ脚は出していなかった。つまり脚も出せない状態だったのだろう。彼に黙祷を捧げ、飛び続けていた。すると前方より黒い点々が見えてきた。よく見ると複葉機だった。すると無線からザザっ……とノイズが入った後、意味不明な言語が聞こえてきた。
「Beep…Beep…〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜~〜〜〜〜〜〜〜」
だが、少しした後明瞭な日本語が聞こえてきた。
「Beep…Beep…繰り返す、国籍不明機に告ぐ。こちらはバトラムント共和国連邦航空軍機である。貴機は連邦領空を侵犯している。我の指示に従え。」
複葉機からだろうか。バンクを振る機体が見えた。付いて来いということか。付いてこようとした時、我々の後ろに複葉機がピタリとくっつくかの如く飛んで来た。我々1機づつに対し、前方に1機、後方に2機づつ構えていた。つまり、そういうことかと納得しつつ指示に従って飛行した。しばらく飛行した後、滑走路が見えてきた。順番に着陸していく複葉機達。無線より着陸を許可するとの命令。命令に従い、着陸した。滑走路をしばらくタキシングしていると、ここに停めろと指示。指示に従い、零戦を駐機した。その後整備員が駆けつけ、輪止めが装着されている。風防を開けると憲兵隊が勢揃いしていて、我についてこいと言わんばかりに手招きしていた。そして我々は地上に降り立った。
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