第5話 武術と学問

藩校での生活が始まり、是清は毎日が新しい挑戦で満ちていた。ある朝、武術の訓練が初めて行われることになった。


「是清、今日は武術の初日だな。しっかりやるんだぞ。」覚治が励ましの言葉をかける。


「はい、お父さん。頑張ります!」是清は元気よく答えた。


道場に集まった生徒たちは、緊張と興奮の中で待っていた。武術の師範が厳しい表情で彼らを見渡し、訓練の説明を始めた。


「今日から武術の訓練を始める。しっかりと体を鍛え、心を鍛えよ。」師範が力強く言った。


訓練が始まり、是清は一生懸命に動きを真似しようとしたが、最初はうまくいかなかった。何度も転んだり、バランスを崩したりしたが、師範の厳しい指導のもとで少しずつ上達していった。


「是清、いいぞ。もっと腰を入れて!」師範が声をかけると、是清はさらに力を入れて動きを繰り返した。


武術の訓練が終わった後、是清は汗をかきながらも満足感に満ちていた。午後の授業では、歴史や儒学の学びが深まる。


「今日は孔子の教えについて学びます。」先生が黒板に書きながら言った。


是清は、先生の言葉を一言も逃さないように耳を傾け、ノートに一生懸命書き留めた。歴史や哲学の深い教えに触れることで、彼の視野はどんどん広がっていった。


昼休みになると、是清は新しい友達の田中正次郎と一緒に昼食を取ることが多くなった。


「是清、武術の訓練、どうだった?」正次郎が尋ねた。


「大変だったけど、すごく充実してたよ。正次郎君はどうだった?」是清が尋ね返す。


「僕は転んでばかりだったよ。でも師範が『転んでもただでは起きるな』って言ってたから、何か拾って起きようと思ったんだけど、地面には何もなかったんだ。」正次郎が笑いながら答える。


是清も笑いながら、「そうだね、でもその気持ちが大事なんだよ。」


放課後、是清と正次郎は校庭で遊んでいた。突然、正次郎が思い出したように言った。


「そうだ、是清。昨日お母さんが面白い話をしてくれたんだ。ある武士が、敵に囲まれたとき、『お前たちは俺を捕まえるために何人いるんだ?』って聞いたら、敵が『10人だ』って答えたんだ。それでその武士が『それならば、俺は20人分の食事を用意してくれ』って言ったんだよ。」


是清は目を丸くして、「ええっ、なんでそんなことを?」


正次郎が笑いながら、「その武士は、食べ物があれば20人でも何とかなるって思ったらしいよ。」


「面白い話だね。僕もその武士みたいに勇敢になりたいな。」是清が笑いながら言った。


家に帰ると、是清は藩校での一日を家族に話した。


「今日はどうだったんだ?」覚治が興味津々に尋ねた。


「とても充実していたよ。友達もできたし、授業も面白かった。正次郎君が面白い話をしてくれたんだ。」是清が答えると、覚治は笑顔で頷いた。


「それは良かったな。お前ならきっと立派にやっていけるさ。」覚治が安心して言った。

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