バスを待つ二人

澁澤弓治

第1話 このバス停で降りよ

 ガラ空きのバスの一番後ろの五人がけシートに腰掛ける女子高校生が二人。

 右頬を窓と接近させているのが優里亜、五人がけシートのど真ん中に座るのが京香だ。

 優里亜はショートヘアでどことなく頼りない。

 京香はボブで溌剌としたオーラを漂わせている。

「あーめんどくさー」

 天井に視線を移しながら、優里亜は言った。

「どうしたの、急に」

「将来のこと考えましょーとか聞き飽きたし、なりたい職ぎょーとかないよー、ニートになりたい無職で生きていきたい」

「ほんと、耳にタコができる、ティーチャー達はさなりたい職業付けてるし、参考にならんよな」

「頑張れば出来るって、いつの時代だよ頑張っても英語中学生レベルだし」

 優里亜は失笑した。

 次は桃ヶ浦と、アナウンスされたいつも彼女らがスルーするバス停だ。

 バスは桃ヶ浦の前で減速した。老婆を乗せるのだ。

「よーし」

 バスが止まるかどうかの瀬戸際でなんの前触れもなく、京香は意気込むと駆け足でバスを降りようとした。

「ちょ、京香ちゃん待って」

 優里亜は席を移動するのに少し時間がかかった。バス停で入ってきた老婆とぶつかりかけた。

「あぁごめんなさい」

「優里亜、おそーい」

 京香は既にバスを降り、バックを振り回していた。後ろにはコンクリートの塀が見えた、塀を超えれば海が見えるはずだ。

「そんな急に降りないでよ、てかここどこ」

「知らんよ、そんな事」

「じゃあなんで降りたの」

「なんとなく、あー降りてーみたいな」京香はケロケロ笑っていた。「でも思ったより暑かったな」

 道路を挟んだ向こう側には小山があって、その下には誰が利用するのか、ポツンと小さな商店があった。

 山が鳴いているように蝉の声がけたたましく一層暑く感じた。

 バスは既にワッフルみたいなコンクリートの上に溶けかけた抹茶アイスみたいな木々の栄えた丘に消えていった。

 京香は、

「あーいす食べよう、暑すぎる」

 と、いうと左右をキョロキョロと見て、道路を渡っていた。当然横断歩道ではない。

 またしても優里亜は引っ張られる形で、ちょっとオドオドしながら道路を渡った。

 コンビニといっても個人経営的な店で、外には上面がガラス張りのアイスの入った冷蔵庫があった。側面の掠れたアイスの文字を京香は見たらしかった。

「京香早いって」

「元陸上部舐めるなよー」京香は中学では陸上部だったのだ。高校では帰宅部だ。「てかモナカアイス高くね」

「そんなもんでしょ」

「少し足りないなぁ、貸して」

「安いの選べよ、これとか」

 優里亜は気だるげに、99円の棒アイスを指した。

「じゃあシェアモナしない」

「何がじゃあなのさ、そもそも高校生が所持金100円ってどういう事なの」

「今日は学校でジュース買っちゃたし」

「デブるぞ」

「......でもモナろう、次のバスどうせすぐ来ないでしょ」

「次のバスいつなの」

「知らない」

「でもいつも私たちが乗るバス停は一時間に一本だけど、ここで一時間とかきついな」

「じゃあ、モナってそれから考えるって事で」

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