図書室

 友達と別れて私は教室に戻る。暗い教室に貼られている掲示物を見てあることに気付く。


「あっそっかテスト前.....。」


 昨日から、テストの一週間前に入っている。そのことを私はすっかり忘れていた。仕方ないから図書室で部活終わりの時間まで、勉強していよう。私は道具を取って図書室へ向かった。



「うわ、そこそこ人いる.....」


 自習室として開放されている図書室では、何人かの生徒が机に向かっていた。友達同士で勉強している子がいるのか、所々からコソコソと話し声が聞こえる。

 私は人の多い場所を避けて、なるべく静かに過ごせる場所を探す。


「あ....あそこにしよう」


 部屋の奥にまだ誰も座っていない場所があった。もし人が増えるようなら勉強を切り上げればいいんだし。なんて考えつつノートと教科書を開く。集中力はいい方だからスイッチさえ入ってしまえば、よっぽどの事が無いがぎり何も気にならなくなる。人との関わりが苦手な私にとって勉強している時間は一番気が楽だ。決して楽しくはないけれど。


 ガシャン


 机に向かいはじめてしばらく経った頃、私が勉強している場所の近くで大きな音がする。その音に私は咄嗟に顔を上げる。誰かが筆箱の中身を落としてしまったようだ。私は椅子から立ち上がる。


「手伝うよ」


 私は廊下で会った友達と話すときのように、笑顔を作って声をかける。私はしゃがんで辺りに散らばったペンを拾っていく。


「ありがとう雉真さん。助かったよ」


「あっ、青山くん....」


 筆箱を落としたのは青山君だった。


「奥の方空いてるじゃん。じゃあ俺もあっちにしよ」


 少し緊張している私を気にせず、青山君は部屋の奥へと進んでいく。そして、私の向かいにある空席に腰掛けた。


「雉真さんもテスト勉強?」


「まぁね」


「へぇ...優等生じゃん」


 私達は小さな声で会話をする。もちろん秘密には触れずに。気がつくと私は昨日のことを謝らなきゃいけないことも忘れて、彼との話に夢中になっていた。


「そういえば青山くんさ、もしかして....ピアス付けてる?」


「こらっ、しっ!」


「あはっ、はーい」


 楽しい。クラスの子達は近寄り難いなんて言っていたけれど、全然そんなことないじゃないか。私達と何も変わらない。むしろ私達よりも、今この瞬間を思いっきり楽しんでいるように見える。そんな姿が私には眩しく見える。


「なんかイメージ変わったよ」


「ん?なんか言った?」


 小さい声で言った言葉は、青山くんには届いていなかった。でもそれでいい。もしマイナスの意味で伝わってしまって、相手を傷つけてしまう方が私は嫌だから。誰も傷つけない。居ても居なくても変わらない。私はそんな立ち位置で十分なのだ。


「んーん?なんでもないよ、そろそろ時間だね。今日は話せて嬉しかった。ありがとう」


 私はお礼を言って、席を立った。いつもより勉強の進みは遅かったけれど、久しぶりに人と話して楽しいと思えた。いつも友達と話しているときは、ずっと梅雨のジメジメした空気のような...そんな感じだったけれど、今回はそれが全くなかった。


「楽しかった.....」


 作り笑顔じゃなくて、あんなに自然に笑顔になれたのはいつぶりだろう。また話したいなんて思ったのは....?そんな事を考えながら私は教室へ戻って、荷物を片付けた。


「また、話せるといいな.....」


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