異世界渡りのモノクロム

言ノ葉

プロローグ

尾鷹火月おだかひづきは元々地球の日本で暮らすただの小学生だった。

朝起きて、学校に行って、家に帰って寝る。

そんなごくごく平凡な生活を送っていた火月だったが、ある日を堺にその生活は糸が切れるようにして突然終わりを告げた。



* * *



「おーいさっさと起きろー」

「わかってるよ!」


その日、俺は父さんの声で目を覚ました。

いつもは母さんか妹の雪月ゆづきが俺を呼びにくるが、珍しく今日は何故か父さんだった。


しかし、その時の俺は絶賛反抗期中。

特に父さんには当たりが強かった。

今になってみると何故あんなにイラついていたのかは自分でもわからない。

父さんの言動にイラついていたのか、自分にイラついていたのか、はたまたその二つの両方なのか……


まあそんな幼稚なことは良いとして、その後俺はイラつきながらも食事と身支度をし、家を出て学校に向かった。

その途中、幼馴染たが一つ歳が上の女友達と合流した。


「今日はやけに不機嫌だね」


そう俺の幼馴染は言った。

相変わらず身長は俺よりもでかい。

歳が一個上なだけで何故こうも変わるのだろう。

昔の俺はそんなことをいつも思っていた気がする。


「当たり前だろ? 家にはクソ親父がいんだから」

「ひー君のお父さんは世間一般的には良い人じゃない?」

「お前からしたらな」

「もー何その言い方!」


彼女は顔をハリセンボンの様にぷくっと膨らませた。

面白い顔だ。

毎回彼女の豊かな表情には笑わされていた思い出がある。


「ぷっ」

「何笑ってるのさ!」

「別に? それより急ごうぜ!」

「ちょ、ちょっと!」


俺たちは学校まで走って登校し、その後何事もなく学業を終えた。

まあ本当に何事も無かった訳じゃないが、話すと長くなりそうなのでここは言わないでおこう。


俺は家に向かって駆け出した。

そとは朝の晴天が嘘の様に曇り空になっている。

もしかしたら雨が降るかもしれない。

そう思いながらランドセルをギュッと握りしめて早足で走った。

それにしてもなんか焦げ臭いな、爺さんが野焼きでもしてんのか? 

いや、こんな住宅街で野焼きなんかする訳ないか……。


俺は一度立ち止まり周りを見渡す。

空はどんどん暗くなってきている。

雨が降るのはまちがいないだろう。

すると、ある方向に火柱と煙が立っているのを発見した。


「まさかそんな訳ないよな」


冷や汗が出る。

心臓がドクドクする。

自分の家じゃない、そう思えば思うほど周りが見えなくなっていく。


そう思い俺は走った。

進むにつれ煙臭さは増し、人の数も増えていく。

そして、


「嘘だろ……」


目の前には業火に燃える俺の家があった。

遠くからはサイレンの音が鳴り響き、家の前には他人事の様に立ちすくんでいる近隣住民の姿がある。


「おい! お前らそこどけ!」

「なんだこのガキ! ってお前尾鷹さん家の……」

「邪魔だ!」

「待て! もう家はダメだ、中に入ったって救えは……おい!」


俺は隙をつき群衆の間を通り抜ける。

服に火が燃え移るのもお構いなしに家の中に入った。

家は地獄の様に熱く、まわりも煙で何も見えない。

それに加え息もしづらいし目も痛い。


「ゲホ、ゲホ。母さん! 父さん! 雪月!」


全力で名前を呼ぶが返事が返ってくることはない。

周りの家具は燃え、そこに人が住んでいた形跡も焼け焦がれてしまっている。


しかしその時、2階から気配を感じた。

3人の気配がする、一つは雪月のもので間違いない。

幸い、階段はまだ燃え切っていなかった。

俺は朦朧もうろうとし始めた意識の中階段上り始める。


「ゲホ、ゲホ」


上に上がるにつれ息が苦しい。

でも、あとちょっとでと会える。

そう考えればあまり気にすることでは無かった。

そして俺は階段を登り切り部屋の扉を勢いよく開ける。


しかし、そこに家族の姿はなかった。

あるのは二つの焼死体と、雪月を抱え純白の翼を携える天使の姿だけだ。


「……は?」


意味がわからない。

焼死体?

燃えているのは俺の家だからあれは父さん達なのか?

いやいや、父さん達が死ぬなんてことはありえない!


「おい、誰だよお前!」


俺は震える声で天使に向かってそう叫んだ。

天使は雪月を抱えたままこちらにゆっくり視線を向け、何も発せずニヤリと笑うだけだった。

 

「お前……!」


そう言い震える足を一歩前に出す。

すると急に力が入らなくなりその場に倒れてしまった。

煙を吸いすぎたのだ。視界が狭まっていき、体は痙攣けいれんを起こしている。

天使はそんな俺を見かねたのか、俺のことなど無視して炎の中へと歩き出した。


「待……て……」


そして俺はそのまま意識を無くす。

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