【第二章:欧州征伐編(上)】
第 肆拾陸 話:秋の実りと近づく脅威
月の使者の襲来から二ヶ月が過ぎ、赤トンボが飛び合始め葉の色が赤や黄色に変わり、少し寒さを感じ始めた秋の晴れた昼時の会津。
いつも通り真斗は
袴姿で鍬を両手で持ち汗を流しながら寒い時期の代名詞であるサツマイモを掘り起こしていた。
「すみません真斗様。我々の為に畑仕事を手伝わせてしまいまして」
流れる汗を手拭いで拭きながら笑顔で申し訳ない口調で右隣で一生懸命に働く真斗に向かって言う
「気にするな。それに畑仕事の手伝いは俺が好きでやっているか気にするなぁ」
「ははぁーーーっありがとうございます」
すると一人の男性の百姓が土の着いたサツマイモを手に持ちながら笑顔で真斗に近づく。
「真斗様!真斗様!見て下さい!でっけぇサツマイモが採れましたよ!」
「あたいの方も!でっかいサツマイモが採れましたよ!」
「こっちもですよ!」
「おいらも!おいらも!」
真斗の周りには続々と集まって来る大人や子供の百姓達。そんな愛する民の喜ぶ姿に真斗は自然と笑顔になる。
「おおぉ!これは本当に大きな!おお!こっちは凄く甘さを感じる大きさだなぁ!」
そう言いながら真斗は百姓達の触れ合いを思う存分、楽しむ。一方、田んぼでは黄金色に変わった稲を袴姿で
「ふぅーーーーっ今年は豊作ね。今年の白米が楽しみね」
「
すると
「ええ、そうしましょう」
また
「いやぁーーーっしかし、
麦飯でおにぎりを作りながら笑顔でそう言う袴姿で頭に手拭いを被る老婆。そんな彼女の目の前で胡坐をし、藁を束にして結ぶ
実は
そして二人はもっと長く
すると大姫は手を止めて、笑顔で声を掛けて来た老婆に向かって軽く首を横に振る。
「そんなかしこまった事はしなくていいんですよ。私はもう姫ではなく、ただの一人の女性ですから」
幸せとは遠い悲劇的な人生を送り、それから逃れる為に鎌倉を抜け出し、逃れた竹林で同じ様に逃れた
■
会津城から北に少し入った山中にある竹林では若返り袴姿をした
源三郎は土が顔に付いた状態で自然薯用の鍬を使ってツタを辿って深く縦穴を掘っていた。
「よし!ここまで掘ればいいな。
「はい、
縦穴の近くで源三郎の姿を見ていた
「さぁ、お前も。やってみると面白いぞ自然薯掘りは」
「ええ、分かった」
一方、若返った
「さてと。皆!筍と松茸はこの位、取れば十分だ」
袴姿で籠を背中に背負った
「「「「「はい!
すると竹藪の中より弓と矢を携えた四人の百姓達が長い竹を肩に担ぎ手足を縛り、ぶら下げた鹿と猪を持って笑顔で現れる。しかも先頭には平助が嬉しい笑顔でいた。
「
「おお、確かに見事だ。よし!平助
「分かりました。それじゃまた後で」
そう言って平助は笑顔で軽く手を振って狩りに参加していた百姓達と共に先に山を下りるのであった。
■
真斗達が畑仕事をしていた場所から少し北東にある木が等間隔に縦に並べられた場所では袴姿で乙姫、鶴姫、
「おお。ここの柿は凄く美味しそうね。干し柿にしたら甘いでしょうね」
袴姿をしている乙姫が身を低く笑顔で手に取った柿を見ながらいると上から落ちて来て柿が乙姫の頭部に当たる。
その光景に袴姿で背中に籠を背負い、菜箸で栗拾いをしていた鶴姫と
「乙姫様、あまりしたばかりに気を向けていたら頭に当たりますよ」
「ええ。今のはよく熟した柿でしたけど、渋柿だったら頭が割れる程に痛いですからね」
そう鶴姫と
「あらあら、私の事ばっかり気にしていたら自分の頭が危険になるわよ」
まるで仕返しするかの様に言う乙姫に対して
また別の木の下では義昭が袴姿で腰に小さな篭をぶら下げ、木に登り小粒の
「よいしょっと。でもこんな小さい
義昭が疑問に思いながら収穫していると袴姿で腰には
「この位の大きさでいいのよ義昭。
そう笑顔で説明すると義昭は手に取った
「へぇーーーっそうなんだ。室町幕府の将軍として今まで生きていたから、こんなにも知らいない事が多いなんて」
将軍として生きていた彼女にとって百姓達と共に過ごす生活は何もかもが新鮮だったのだ。
一方、
予め前日から川の中に設置した誘い網を皆で力一杯に引き上げると物凄い水しぶきと共に所狭しとヤマメが入っており、左之助と忠司、そして百姓達は大喜びする。
「おお!今年は大量だなぁ。しかもどれもこれも鮭の様に太く実っているな忠司」
「ああ!そうだなぁ左之助。今年は豊漁だし今夜は民達と共に宴だぞ」
笑顔でそう言い合いながら網を引っ張る左之助と忠司。そして引き揚げた網を百姓達と共に陸に運び横長の四角い桶に取ったヤマメを入れた。
その日の夕方にはどこも今年一番の豊作で真斗達と百姓達は共に豊作を喜んだ。しかも会津だけでなく統一した日ノ本全土も同じで戦乱中で考えられな程の秋の実りは大豊作であった。
■
戦乱が終わり太平の世が築かれた日ノ本から遥か遠い西の果て、
キリスト教界はカトリック派とプロテスタント派に分裂しているだけでなくカトリック内でも西のカトリック教会と東の正教会に二分し、同じキリスト教徒同士で内紛を繰り広げていた。
そんなある日のローマの中のキリスト教国家、バチカン
「諸君!これは聖なる大遠征である‼遥かなる極東の地、
神々しくも美しさと気品に満ちた教皇服を着こなし、玉座に座るインノケンティウス3世は右手に紙を握り上に掲げる。
「なんと!ジパングには手つかずの銀の他に
インノケンティウス3世の演説を聞いていた諸侯達はまるで熱病に侵された様に歓喜が沸き起こり、聖なる大広間を揺らす程であった。
それから十日後にはイタリア半島南部の全ての港やギリシャ南部の全ての港、更に地中海に面する十字軍国家の全ての港に日ノ本へ向かう為の第10次十字軍こと極東十字軍が組織された。
そして 貿易ギルドの“フランス東インド貿易会社”や冒険者ギルドの“フィレンツェ星十字協会”、更に開拓ギルドの“東方新境地団”の全面的な支援で第1次十字軍を超える大規模となり、ヨーロッパ時間の12月25日の朝方に全軍は日ノ本を目指して四十隻のガレオン船で出航した。
一方、バチカンの中心であるサン・ピエトロ大聖堂の教皇室ではインノケンティウス3世が教皇用のデスクに座り、銀の皿に乗せられたステーキをナイフとフォークを使て食べていた。
「しかし教皇様、本当にジパングに
白い枢機卿服を着こなした教会博士で彼の側近であるペトルス・ダミアニが心配そうな表情で問うとインノケンティウス3世は銀のグラスに入った
「そんな物あるわけがなかろう」
インノケンティウス3世の口から出たとんでもない事にペトルスは言葉を失う。
「ジパングに第10次十字軍を送ったのも極東の全てをカトリックの支配下に置くため。そして何よりキリスト改革を進める愚か者達を戦いの名の元で一掃出来るからだ」
「そ!・・・それは神の意志に反する行いでは?」
恐る恐る聞くペトルスに対してインノケンティウス3世はクスクスと笑った後に答える。
「そう心配するな。これは神の意志だ。改革とは伝統を破壊する罰当たりな行いだ。私はただ罪人を神に変わって神罰を与えただけだ」
もっともらしい理由を述べるインノケンティウス3世。一方の聞いていたペトルスは恐怖と不安でしかなかった。
「分かりました。では私は執務がありますのでこれにて」
「うむ。朝の報告はご苦労であった」
ペトルスはインノケンティウス3世に対して一礼をし、教皇室を後にする。そして日が差す廊下を歩きながら心の中で思い悩んでいた。
(教皇め。今やバチカンは各国の君主すらを超える権力を持っている。これも全ては前教皇であるグレゴリウス7世による宗教改革で神聖ローマ皇帝から聖職者の自由を勝ち取ったからだ。そこまではよかった、しかし・・・)
ペトルスは立ち止まり、左の窓からを見える青空を見ながら悲しい表情をする。
(聖職売買はなくならず、しかも免罪符と呼ばれるいい加減な紙切れで民から金を巻き上げている。それが遠縁でプロイセンのルター神父の宗教改革でキリスト教はカトリックとプロテスタントに分裂してしまった)
カトリックは度重なる十字軍の設立と戦争による教会の再建で資金不足となり、その資金集めの為に免罪符と呼ばれる物で民から資金調達を行った。
しかし、プロイセンのルター神父はカトリックとくにバチカンのやり方に反発し、宗教改革を行った。これによって生まれたのがキリスト教の元来の教えを守る宗派、プロテスタントであった。
(ただでさえ、カトリックは東の正教会と対立している。今だからこそ改革を行い同じキリスト教徒を一つにまとめないといけないのに。だが、今のバチカンはイエス・キリスト様の教えに反して堕落している。それどころか自身の権力保持の為に都合の悪い勢力を排除している。このままでキリスト教は崩壊してしまう)
ペトルスはそう心で語りながら窓から見える空に向かって片膝を着き、手を合わせて祈る。
(主よ。どうかキリスト教をお救い下さい。そしてジパングに向かった我が友をお守り下さい)
慈悲と願いの為に願うペトルス。だが、彼の願いとは裏腹に今のバチカンの思惑によって組織され海を進む第10次十字軍は日ノ本の新たな脅威として、そして更なる戦乱の油として近づくのであった。
あとがき
いよいよ始まりました
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