第 弍拾伍 話:渦巻きの出会い
それから真斗達は神社の敷地内にある鶴姫の屋敷へと移り、中庭が見える縁側で
一方で真斗と
「まぁまぁ
「別にいいわよ。勇気を持って
暗く憂鬱な口調と表情で言う鶴姫の姿に皆は気まずくなってしまう。
「ああ!そうだ。ねぇ真斗、いつの頃から
「あっああ、二人との出会いか。あれは確か
真斗は両腕を組んで
⬛︎
時は遡る事、真斗が十二の歳になった頃。
源三郎を含めた十人の護衛を連れて島津 義弘の元に向かい
また元服祝いとして義弘から薩摩の名刀と米を受け取り、
「
快晴の青空、
「そうですなぁ
波の音、心地よい海風に混じる塩の香り、悠々と飛ぶ海猫達の鳴き声に真斗は初めて見て感じる瀬戸内海に心を躍らせていた。
すると真斗は急に船が揺れ出した事に驚きながら、よろめく体を支える。
「
源三郎も体を支えながら笑顔で答える。
「おっととぉ!ここは渦潮による荒波ですね」
「渦潮の荒波?」
「ええ、この辺りは東から来る潮と西から来る潮がぶつかり合って渦潮が起こるんですよ」
「へぇーそうなのか。おっととととっとぉ!」
真斗は関心しながら再び起こった大きな揺れで体の重心が傾き、右舷の
すると真斗は真っ直ぐ前を見ると渦潮が起きている近くで二人の少女が乗った一隻の
「おい!
「ああ、あれですか。渦潮見物ですなぁ。この大きな
そう笑顔で源三郎が言っている大きな波が起こり、
「ああっ‼
真斗がそう大声で言った瞬間、急いで着ている小袖と草鞋を脱ぎ、そして腰に下げている
「あーーーーーっ!
源三郎は真斗の突然の行動に驚き
海中を平泳ぎで泳ぐ真斗は渦潮の中で一人の小袖を着こなし
(あそこだな!急いで行かないとっおぉ‼︎)
渦潮に近づいた事で真斗も渦に飲み込まれ、凄まじい潮の流れに真斗は大きく口から息を漏らす。
(い!いかん‼︎大きく息を吐いてしまった!だが行くしかない!)
真斗は意を決して体勢を立て直し渦の流れを利用して二人の元に着く。そして流れに逆らいながら両手に二人の少女を抱えながら両足だけで力強く泳ぐ。
何とか渦から抜け出し、急いで海面へと向かうが、先程の漏れた息が
(ま!まずい‼︎息が続かない!足にも力が入らない‼︎)
海面が目と鼻の先と言うのに真斗の動きは弱々しくなり、今にも海底に没しそうな状況となる。
(くそ!あと少しで海面だと言うのに‼︎こんな所で!何も果たせずに沈むなんて‼︎)
諦めかける真斗、しかし突然と亡き父、伊達 政道と交わした約束が彼の頭の中を過ぎる。
“例え死の間際であっても己を意が成就するまで決して歩みを止めるな”っと。
約束を思い出した真斗は意を決した表情で最後の力を腹の底から奮い立たせる。
(そうだ!俺はまだ父上との約束を果たしていない‼︎戻らないと!愛する会津へ!愛する我が友と妹の元へ‼︎)
真斗は奮い立たせた最後の力で足を力強く動かした。息も限界に差し掛かった瞬間、ついに水飛沫をあげながら海面へと顔を出すのであった。
海面へと顔を出した真斗をデッキから発見した源三郎は急いで指示を大声で出す。
「あそこだぁーーーーーーーっ!船を近づけよぉーーーーーーーっ!」
源三郎の指示で
「
酸欠で気を失い、身を低くし
「ゲホォ!ゲホォ!オガァーッ‼︎
激しく息切れをしながら源三郎に問う真斗に源三郎は答える。
「大丈夫です
それを聞いた真斗は力が抜けた様にホッとした笑顔となる。
「そっか・・・
真斗はそう言うと魂を抜かれた様に静かに眠りに着くのであった。
⬛︎
真斗が目を覚ますとそこは何処かの屋敷の寝室で、しかも寝巻きで布団に寝かされていた。
「ここは、どこだ?」
真斗はゆっくりと体を起こし周りを見渡していると目の前の襖が開き、水の入った桶と手拭いを持った源三郎が現れる。
「おおぉ!
そう言いながら源三郎は喜びの笑顔で真斗へと駆け寄り、桶を置くとそっと彼の体を支える。
「ああ。それより
「はい。ここは
「そっか。それで
「はい。
自分が助けた二人の少女の正体を知った真斗は驚く。
「何⁉ここ瀬戸内海の海賊大名、村上海賊団の武者姫じゃないあか。しかも鶴姫ってあの奇跡の巫女と謳われる!」
源三郎は笑顔で頷きながら説明を続ける。
「はい。どうやら渦潮見物をしていたのですが、渦に近づき過ぎて落ちてしまったようです」
「そうか。しかし、何はともあれ無事でよかった。すまない
真斗からを謝罪の言葉に源三郎は軽く溜め息を吐く。
「本当ですよ。
それから真斗は改めて大広間で助けた
「
綺麗で少し軽めの
「いいんですよ
すると
「あ・・あの、真斗様、本当に助けていただきありがとうございます。それと実は・・・渦の中で薄っすらとでしたが私と
鶴姫からの誉め言葉に真斗は少し照れ、鼻の下を擦る。
「いやぁーーーっそう素直に言われるとこっちとしても嬉しくなりますねぇ」
すると鶴姫は正座のまま真斗へと近付き、満面の笑みで彼の両手を掴む。
「真斗様はご兄弟はおりますか?」
鶴姫からの唐突な質問に真斗は少し驚きながらも答える。
「え、ええ。妹が一人、愛菜と言いますが」
「あの、これから真斗様の事を
「ええ⁉︎いきなりどうしたのですか!」
驚く真斗、すると今度は
「私もお前の渦巻きを恐れない姿に惚れちまってよ。だから真斗
「えっ⁉︎えええええええええええええええええええええぇ!」
二人からの急な二つ名の提案に、この時の真斗は驚くしかなかった。
⬛︎
そして時は戻り現在、
「それから渦潮が治るまでの三日間、三人で色んな遊びをしたなぁ」
真斗が笑顔でそう言うと
「そうだなぁ。木登りしたり海釣りしたり、あ!海賊ごっこもしたわね」
「そうだなぁ
真斗はそう言うと落ち込む鶴姫を見て幼い時に何を言いたかったのかを理解する。
「すまない鶴姫。俺と出会った幼い時から俺の事が好きだったんだな。許してくれ。お前の気持ちを知れなかった俺を」
申し訳ない表情で軽く鶴姫に向かって頭を下げると今度は意を決した表情と眼差しで
「すまない二人共。勝手なのは重々、承知だ。でも、俺にも責任はあるゆえ鶴姫が可哀想過ぎる。だから彼女を俺のっ!」
最後まで言おうとした時に
「最後まで言わなくても分かっているわ真斗。彼女を、鶴姫を自分の
「別にいいわよ。私も乙姫も貴方は、“不幸な人を救おうとする心の優しさ”を持った人だと」
「そ!それじゃあ!」
「いいわよ真斗。鶴姫を
「別に私も
「ありがとう二人共‼︎ありがとう!」
「
深々と頭を下げた真斗と鶴姫。すると
「よかったわね
「おい!
詰め寄る様な口調で問う真斗に
「本当よ
そして真斗は真剣な表情で出雲へ行く途中で見かけた九鬼水軍の艦隊が
「
「
真斗を見ながら鶴姫が少し悲し気な表情でボソッと言う。一方、
「ありがとう、
笑顔の
「分かったよ
「ああ、分かったよ
「
戸惑う鶴姫に真斗は笑顔で彼女の頭を優しく撫でる。
「お前は
「はい!
真斗からの励ましに鶴姫は笑顔で嬉しくなり、その光景を見ていた
その後、真斗達が
あとがき
予想外にも真斗の過去の深堀が大きくなりました。自分でも以外でした。
次回からは織田 信長による中国・四国征伐で激しい海上戦を描く予定です。
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