第 肆 話:真斗の想い

 翌日の朝、平安京伊達家武家屋敷に設けられた陶磁器用のかま屋で着ている和服を両袖をしかっりと結んで腕を出す真斗は三日三晩、土器の制作に明け暮れていた。


「うーーーーーーーむ。駄目だ!こんな鉢じゃ竹取かぐやが喜ばないなぁ」


 真斗の周りには割れて壊れた鉢がいくつもあった。


わか、少しお休みになって下さい。そうしないと良い物が出来ませんぞ」


 笑顔でお盆に乗ったお茶が入った湯飲み茶わんを持って源三郎が現れる。


「そうだな、じい。では少し休むか」


 そして向かう様に胡坐で座る真斗と源三郎はお茶を飲み、一服しながら真斗は源三郎にある事を問う。


じい竹取かぐやが望んでいる『仏の御石みいしの鉢』とはどんな鉢なのだ?」

「はい。書物で見ましたが、仏教を開いたお釈迦様、ブッタ様が四天王に差し与えた石の鉢です。遥か遠い天竺てんじく(インドの古い呼び名)にあると記されていました」


 落ち着いた表情で答える源三郎、それを聞いた真斗は右手で下顎を触りながら考える。


「お釈迦様の鉢か・・・うーーーーむ。なんか想像がつかんな。じい、その鉢はどんな物か記されてなかったか?」

「どな鉢か・・・少し待って下さいねわか。えーーーとですね」


 そう言うと源三郎は両腕を組んで記憶呼び起こす為に深く考える。そして源三郎はハッと記憶が蘇る。


「あぁーーーーっ!思い出しましたぞわか。確か見た目は黒く美しいとは言えませんが、美しい光りを出すと言われております」


 源三郎の口から出た仏の御石みいしの鉢の実物を聞いた真斗は頭を中で作ろうとしていた鉢のアイデアが浮かぶ。


「ありがとう、じい。作りたい鉢が思い付いた」


 真斗が笑顔で感謝を述べると源三郎も笑顔になる。


「いいえ。わかの助けになるのであれば、この源三郎は嬉しい限りです。それとわか、前にも聞きましたが、なぜ手作りにこだわるのですか?」


 源三郎からの問いに真斗は自信に満ちた明るい笑顔で答える。


「本物を渡すより手作りの方が相手に俺の気持ちが伝わるだろ。だからだよ」


 源三郎は真斗の真っ直ぐな目に納得がいく。


「分かりましたわか。では私は全力でわかを支えます」

「ああ、ありがとうじい。では俺は少し寝るか」

「はい。屋敷の寝室に布団を用意してありますので」

「ありがとう、じい


 そう言うと真斗は立ち上がり、源三郎も立ち上がる。そして二人は屋敷へと向かうのであった。


⬛︎


 それから二時間、仮眠を取った真斗は鶴瓶式の井戸で歯を磨き、顔を洗い再び鉢作りを再開する。


 そして遂に真斗がイメージした望む蜂が完成した。


「おお!やった遂に出来たぞ‼︎じい!すまぬが、馬を用意してくれ!早くこれを持って竹取かぐやの元に向かいたい!」

「分かりました、わか。しかし、まずは身なりを整えないと。お風呂で汗を洗い流しておこうの香りを体に振り掛けないと」


 笑顔で言う源三郎からの指摘に興奮していた真斗はハッとする。


「ああ、そうだった。すまぬなじい、つい望んだ鉢が出来た興奮で目先を見失っていた」

「ハハハハッわかの気持ち、よく分かります。鉢は私が木箱に入れた後に馬の用意をしますのでわかはその間に風呂に入り身なりを整えて下さい」

「分かったじい。では後は頼む」

「お任せ下さいわか


 そして真斗は出来た鉢を源三郎に渡し一人、屋敷へと向かい風呂場へと向かう。


 風呂で汗を洗い流し数人の奉公の女性達の手で身なりを整えた真斗は屋敷の門の前に源三郎が用意した轟鬼ごうきに乗る。


「よし!では参ろうかじい


 真斗は笑顔でそう言うと愛馬の飛鷹ひように乗った源三郎は笑顔で頷く。


「はい。では行きましょうわか


 そして二人は愛馬をゆっくりと走らせ竹取かぐやの屋敷へと向かう。


 竹取かぐやの屋敷に着いた真斗と源三郎は屋敷に上がり、広間で真斗と源三郎は正座し、目の前には正座をした竹取かぐやおきなおうなが居た。


「それで私の望む物は手に入りましたか?」


 竹取かぐやからの問いに真斗は自信に満ちた笑顔で頷く。


「はい。こちらが竹取かぐや様が望んでいた仏の御石みいしの鉢です」


 真斗は竹取かぐやの前に木箱を差し出す。そして竹取かぐやは受け取った木箱を開けると黒を基調とした模様が描かれていないシンプルな鉢で内側は銀で装飾が施されていた。


 竹取かぐやは真斗が作った鉢を手に取り上に掲げた瞬間、左の中庭が見える縁側えんがわから差し込む太陽の光で鉢は白く輝き出すのであった。


「おお!これは素晴らしい鉢ですな!」

「確かに!これは美しいですわ!」


 おきなおうなが驚く中で竹取かぐやは真斗に問う。


「この鉢は本物ではありませんね。しかも手作り。なぜ本物を探さなかったのですか?」


 源三郎とほぼ同じ問いに真斗は笑顔を崩さずに答える。


「私は貴女様に本当の気持ちを伝えたく手作りの品にしたのです。竹取かぐや様、五人の求婚者に無理難題を申したのは“本当に竹取かぐや様を想っているかを試した”かったのではないでしょうか?その品には私の想い、“ 竹取かぐや様を心から愛している”と言う想いがが込められています」


 真斗の真意を突く発言に竹取かぐやは一瞬、ハッとなったが、すぐに冷静になる。


「それは真斗様の憶測です。でも、いいでしょう。まだ残りの品があります。残りを持って来るまでは何とも言えませんので」


 竹取かぐやは外方を向きながら持っていた扇子を広げ口元を隠して言う姿に真斗は確信する。


竹取かぐやが目を逸らし口元を隠した。あれは照れ隠しだ)


 そう心の内で語る真斗は笑顔で深く一礼をする。


「分かりました。必ず竹取かぐや様の心を動かす品をお持ちしますので」


 そう言うと真斗と源三郎は立ち上がり軽く一礼をする。


「では竹取かぐや様、我々はこれで失礼します」


 笑顔で真斗は去る言葉を言い、竹取かぐやの屋敷を後にするのであった。


 その日の夜、竹取かぐやは一人、縁側えんがわで真斗が作った仏の御石みいしの鉢を手に取り眺める。


「改めて見ますと美しいですわ。確かに本物以上の何かをこの鉢から感じるわね。何か温かい物が」


 どんな男から求婚の為に受け取った品はどれも冷えた気持ちしか感じなかった。でも真斗の品からは人の温かみ、そう、純粋な何かを感じ取った竹取かぐやであった。



あとがき

原作の『竹取物語』内でかぐや姫の求婚の条件として出された無理難題は私の独自解釈で“本当に自分を想っているか、試した”と思っています。

私から見て、かぐや姫に求婚した五人の貴族はただ美しい、かぐや姫を飾りとしか見ていないと解釈しています。

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